第15話

 突如として始まったレアンドリュー帝国によるアルタイル王国への侵攻。


「焦る必要はないわ……レアンドリュー帝国が本腰を入れて攻めてきたなら敗北は免れない。されど、レアンドリュー帝国は現在、本腰を入れて攻め込めるような状況になく、皇族の一人が功を焦った始めた侵攻。計画も準備も杜撰で、他の皇族からの妨害もある。そんな相手ならば、まだ私たちにも敵う可能性がある」

 

 容易にアルタイル王国の国境部を守る要塞を攻め落とし、雪降る極寒の地を進軍し続けるレアンドリュー帝国を止めるため、アルタイル王国は全国の戦力を集め、対処せんと奮闘していた。


「私たちには地の利がある。母国を守るという強い士気がある。我々を支えてくれる勇猛にして心優しき臣民がいる……そして、何よりこの私がいる。貴方たちの勝利を私が宣言するわ」

 

 自分の前へと並ぶ多くの兵士たちを前に声を張り上げるミリオネは自身に満ち溢れた態度と言葉で自軍の兵を鼓舞する。


「我々に敗北はなし。勝ちに行くわよ」

 

「「「おぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」」」

 

 世界最大の帝国と何も持たぬ弱小国。

 相反する両者、そして。

 時代を齎した英傑が倒れ、英傑の誕生が見えぬレアンドリュー帝国と新時代を築くだけの才を持った少女の率いるアルタイル王国の戦争が今、始まった。


 ■■■■■

 

 ゲリラ戦術。

 弱者が強者を食い破る戦術として最も有効的な戦術だ。

 しかし、戦略を覆すほどの個が存在する中、大国と弱小国の力量差があまりにも多すぎるゆえに発達することのなかった戦術。


 そんなゲリラ戦術と言う言葉もない中で、ミリオネは自分の一人でゲリラ戦術を形にし、それを実行していた。


「……はぁ、はぁ、はぁ。クソなんでことに」

 

 散発的に行われるアルタイル王国軍の襲撃によって進軍が遅延され、少しずつレアンドリュー帝国軍にも被害が出始めていた。

 

 アルタイル王国内の多くは断崖絶壁の山に鬱蒼とした森。

 工業並びに農業を発達させるには難しい土地であるが、それと同じく攻めるにも難しい土地である。

 森を進むレアンドリュー帝国は各地に潜んでいるアルタイル王国軍に気づけず、一方的に奇襲を受け続けているのだ。


「……まずいぞ」

 

 レアンドリュー帝国軍の内部は始まる前から瓦解寸前。

 まとまりのかける軍隊に十分でない補給と装備……特に防寒具の少なさは致命的。

 自国の兵士の凍死が数多く湧きおこる中で、レアンドリュー帝国軍を率いる将軍は焦燥感にその身を包まれるのであった。

 

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