第14話

 氷の牢獄。

 分厚い雪に閉ざされ、希望も未来もなく薄氷の上で綱渡りをし続けるだけの時の牢獄。

 

 アルタイル王国内で並び立つ者はなく、同年代で話の通じる相手などいない。

 未来を切り開き、希望を灯すだけの才覚を持った彼女はそんな氷の牢獄に閉ざされ、死んだような時間を過ごしていた。

 ただ無為に積みあがる己が知識と力。

 

 そんな最中を生きるミリオネが初めて、父である国王と共に国を出て向かったローレシア王国。

 彼女はそこでも何も為すことは出来ず、がんじがらめに己の自由を拘束され、誰とも話をすることなく終えるはずであった。


『あれ?君は誰?』

 

 だからこそ、鮮烈であった。

 窓をたたき割り、入ってきた一人の美少年の姿は。

 太陽を背に立つ輝かしいばかりの少年は……

 そして、それは事実となった。


『はい、好きになりました』


 ロニアが来たことによってアルタイル王国の何もかもが変わった。

 

 帝国大使との会談も。

 日々の業務も。

 圧倒的な武の話も。

 

 その何もかもが小さな少女の世界を打ち壊すには十分であった。


「失礼しますッ!!!」


 代わりゆくアルタイル王国で。

 ロニアがローレシア王国へと赴いている間、ロニアの代わりに事務作業をこなしているミリオネのいる部屋へと一人の伝令が慌てた様子で入ってくる。


「ん?どうしたの?」

 

「レアンドリュー帝国が我らへと宣戦布告ッ!!!越境を開始しました!!!」

 

 泣き叫ぶような。

 まさに絶叫と言うに相応しい様相で叫ぶ伝令。


「なんですって!?」

 

 彼を前にしてミリオネは驚愕の声を上げる。


「……今すぐに国中から戦力を集めるわ。戦闘準備を行うように各自へと通告。戦闘計画は私が立てるから一先ずは待機。急ぎなさい」


「ハッ!!!」

 

 レアンドリュー帝国がアルタイル王国へと宣戦布告した。

 まさにアルタイル王国を揺らがせるほどの大事件……一手でも間違えればアルタイル王国は滅ぼされ、歴史のもずくへと消えるだろう。

 だがしかし。

 

「ふふっ……」

 

 自分の何もかもを縛っていた氷の牢獄が溶けたことを心のどこかで理解し。


「あはははははははは」

 

 ミリオネは無意識化で笑い声をあげる。


「大丈夫だよ、私とロニアの愛の巣は私が守るから」

 

 氷に閉ざされていた新時代を担う英傑の一人が今、目覚めた。

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