第二章

第1話

 アルタイル王国。

 多くの国が大陸の覇権を相争うフリア大陸の北方に位置する小国。

 北方に位置しているためかその気候は実に厳しく、長い冬の気温は毎日零度を下回る。

 人口は数十万人とかなり少なく、国土の大半は不毛な岩と山。

 大した資源もなく、主要産業と言えるようもなく、食べ物を育てる肥沃な土壌もない。

 

 攻め落とす旨味もないせいで他国からの侵略もなく、王となっても大した利益を得られないことから実権を握ろうとする自国の人間すらおらず。

 優秀な人間は悉く他国へと出向き、自国に残るのは凡庸な人間のみ。

 大した成長も、混乱もなくただただ国王一家によって統治されてきた歴史だけは長いそんな小国がアルタイル王国である。


「上陸ッ!」


 そんな小国に。

 これより訪れる大動乱の時代。

 フリア大陸の世界各国に生まれ育つ傑物たちの中でも更に恵まれた才覚を授かった聡明にして最強の英傑、ロニア・ローレシアがアルタイル王国の第一王女であるミリオネ・アルタイルとの婚約を結び、北方の小国へと上陸を果たした。


「ふふっ……国防意識がゆるゆる過ぎて簡単に不法入国出来てしまうよ」

 

 ローレシア王国からアルタイル王国へと向かう使節団の一員であったのにも関わらずそこから抜け出していち早く小国へと入ったロニア。


「ふぉふぉ、こんな何もない辺鄙なところに旅しに来る若造がおるとは。何もない村であるが、ゆるりと過ごしくだされ」

 

 そんな彼は活気のない一つの農村に訪れ、そこで接待を受けていた。


「わざわざ丁寧にありがとうございます」

 

 わずかばかりの野菜と塩が入った白湯を村の村長より頂いたロニアは


「やっぱり農業は厳しいですか?」


「……恥ずかしながらそうですなぁ。この不毛な大地では大した作物も育たず」


「そうですか……」

 

 隙間風が入り放題で最低限の壁と天井しかない村長宅にいるロニアは窓と言う名のただのデカい穴からこの寒い中、一生懸命硬い土を掘り起こして畑仕事を行っている村人たちを眺める。


「我が国の唯一の魅力はどこからも噴き出す温泉くらいでしょう……わざわざこのような寒い土地に来なさったのじゃから、温泉でゆっくりして言ってくだされ、この村の近くにもあります故」


「えぇ。ゆっくりさせてもらいますね」


 ロニアは優しいその村長の言葉にゆっくりと頷いたのだった。

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