第13話

 ボールを手に持ち、呆然と床へと座っている少女を横目に。


「よっと」

 

 僕は気軽に部屋の中へと入り、腕を振って風を起こすことで床に散らばっているガラスの破片を一か所に集める。

 魔法の名称を言わずに魔法を発動させる技術ってのは結構高等技術なのだが、なんか僕は直ぐに使えるようになった。

 

「お邪魔するね」


「う、うん……ど、どうぞ」

 

 僕の言葉に少女は困惑しながらも頷く。


「僕はニーア。君は?」

 

 一切悪びれることなく自分で偽名を名乗った僕は困惑する少女へと話を振る。


「え、えっと……私はミリオネ・アルタイル。アルタイル王国の長女にございます」

 

 いきなりの話転換についていけていない様子の少女、ミリオネであったが、それでも気品に溢れ見事な作法の一礼を僕へと見せる……良く教育を受けている。


「おぉー。王女さんだったか。なるほど。その可愛さも納得だよ」


「ふふっ、ありがと」

 

 僕の言葉にミリオネは柔らかい笑みを浮かべ、感謝の言葉を口にする……ありゃ?もう驚愕から立ち直った感じ?


「それで……私の部屋に何の用かしら?」


「んにゃ、ちょっと外で遊んでいたらここまでボールが飛んできちゃって」


「……外?」


「そうそう。中庭の方でボール遊びしていたらここにまでボールが来ちゃったから取りに来たの」


「そ、外からここまで……二階だよ?」

 

 僕の言葉を聞いて驚愕しているミリオネ。


「せっかくだし、外じゃなくて僕はしばらくここで遊ぼっかな。ミリオネも参加ね……時間はあるでしょ?」

 

 僕はそんな彼女をフルスロットルで置き去りにし勝手に話を進めていく。


「確かここの部屋なら……ここにカードゲームと紅茶を淹れるためのものが」

 

 風魔法を器用に使いこなして棚に収納されていたカードゲーム並びにティーポットにティーカップ、茶葉……紅茶セットを取り出す。

 カードゲームの準備を自分の手で行う傍ら、風魔法と熱湯を出す水魔法を駆使して僕とミリオネの分の紅茶を淹れる。


「わー、すごい……」


「カードを配っていくね?」

 

 僕は勝手にミリオネを巻き込んでカードゲームを始めるのだった。

 

 ■■■■■

 

 しばらく……というかかなりの時間をミリオネと過ごした僕は太陽が陰り始めた夕方。


「あっ、そろそろ僕も戻らないと」


「そうなの?」


「うん。楽しかったよ!僕はそろそろ行くね……後片付けは後で使用人がここに来てやるよう言いつけておくから、しなくていいよ」


「ん?」


「じゃあね!」

 

 最初から最後まで。

 僕の言葉に違和感を覚えた固まったミリオネへと一方的に別れの言葉を告げ、部屋を出る扉へと手を触れる。


「あっ!そういえば最初に偽名名乗ってごめん!僕の本当の名前はロニア・ローレシア!この国の第二王子なんだ。王族同士仲良くしてね?」

 

 僕が去り際に残したとんでもない捨て台詞。


「……はへ?」

 

 それを聞いて呆然とした声を上げるミリオネを残して僕は部屋から退出したのだった。

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