第3話 竜とふたりの想い
魔法対抗試験当日、魔法学院の各クラスによる対抗試合が行われた。
魔法対抗試験は魔法による決闘試合でもあった。おのおのの魔法の力を見せることによって、相手が気絶するか審判となる教師が止めるかによって勝敗が決定する。
そして、魔法の試験は順調に進んでいき、最後は成績一位のセシリアと二位のアリスのふたりの勝負を残すだけとなった。
円形の闘技場に、アリスとセシリアのふたりが前に出てくる。闘技場を囲んでいる同級生たちから声が上がる。
「さあ、今日こそあんたに勝ってみせるわ。今日のために血が滲むような特訓もしてきたんだから覚えてなさい!」
「…………」
セシリアはどこか悲しそうにアリスを見つめている。
「始め!」
審判のかけ声によって、アリスはいきなり魔法を唱えた。
「〝
魔法の杖からあふれた炎がセシリアに襲いかかった。
これをセシリアは避けるが、すぐさまアリスは新たな魔法を唱える。
「〝
地面から黒い鎖が五本出てきて、セシリアを捕らえようとする。彼女は避けるものの、鎖の一本に捕まってしまう。
「くっ!」
観客席の生徒が盛り上がるものの、アリスは異変に気づいていた。
(なによあの動き……?)
いつもに比べて、セシリアの動きが精彩を欠いているのだ。
セシリアの実力はこんなものではない。彼女なら簡単に魔法を跳ね返すだけの実力を持っているはずだ。
(まさか、あの子、わざと負けようとしてる……!?)
他の生徒たちにはわからないだろうが、幼い頃からずっとセシリアと魔法の技術を切磋琢磨して、何度も対戦しているからこそ、アリスはセシリアの実力がわかっていた。だからこそ、彼女が勝負に手を抜いていることもわかった。
それはきっとアリスの家のことを知っているからだろう。
自分が負ければ、アリスが一位になってフォークト家の名誉が回復して、傾きかけているフォークト社を立て直すことができると思っているのだろう。
(冗談じゃないわよ! 手を抜かないと、あたしが勝てないと思ってるわけ!?)
なによりセシリアにそんな風に思われていることに腹が立つ。
「あんた、いいかげん本気で……!」
アリスは魔法を解除してセシリアに怒鳴ろうとしたその時。
「な、何!?」
魔法の杖がぶるぶると震えて、何か黒いものが爆発的に広がった。
「きゃあっ!」
アリスの手から離れた魔法の杖から黒い影があふれ出して、それが巨大な竜の形になっていった。建物を覆い尽くすほどの巨大な竜が生み出される。
竜の姿を見て魔法科の教師が声を上げた。
「あ、あれは禁呪の召喚魔法か!? あれは厳重に図書館に封印していたはず!」
竜が出現したことで、闘技場にいた生徒たちはパニックになった。誰もが我先に闘技場を逃げ出そうとする。教師の魔法使いが竜を止めようと、魔法を唱えるものの、ほとんど効いていなかった。
「グオオオオオーッ!」
竜が暴れることによって、教師が吹き飛ばされる。
暴れる竜を見て、アリスは図書館で見た怪しげな魔法書を思い出す。
「……これってあたしのせいなの?」
あの時の魔法書が原因だとしたら、今の現状はアリスが原因だ。
「アリス、ぼーっとしてないでください!」
セシリアに呼びかけられて、はっと我に返れば、竜が腕を振り上げて襲いかかってきた。セシリアがアリスに飛びかかって、なんとか避けることに成功する。
「……大丈夫ですか、アリス」
「うん、ありがとう」
セシリアは竜をにらみつけた。
「あれは私がなんとか倒します」
「無茶よ。いくらあんただって、あんな怪物倒せるわけないわ」
アリスが必死に呼びかけるが、セシリアは竜を睨みつける。
「おそらくあの竜は、あなたの杖に宿ったものです。あなたの杖を壊すことができれば、きっと倒すことができるはずです」
アリスが竜を見れば、竜の中心に自分の魔法の杖がある。あの魔法の杖から膨大な闇の魔力があふれているのを感じられる。
「もしあの竜が誰かを傷つけたら、アリスの責任になってしまいます。だから、その前に私が必ず止めてみせます!」
「ちょっと待って! セシリア!」
セシリアは飛び出していくと、魔法を何度も唱える。
「〝
光の矢が竜に襲いかかり、竜の注意が他の生徒や教師からセシリアに向く。
竜が建物を壊して岩を取り出すと、それをセシリアに投げつける。
セシリアの前で岩が叩きつけられて、セシリアが悲鳴を上げる。
「セシリアっ!」
アリスはセシリアを助けたいものの、魔法の杖がなかった。
そこに竜が炎を吐き出そうとしていた。
セシリアは魔法の杖を十字に切って光の盾を生み出す。
「〝
竜の炎が襲いかかるが、それをセシリアはなんとか食い止める。
だが、竜の強烈な炎に徐々にセシリアの光の盾が押されてしまう。
「もう!」
アリスは見ていられずに、セシリアの元に飛び込んだ。彼女が魔法の杖をかざしている手に自分の両手を重ね合わせて、自分の全ての魔力を込めた。
「アリス、どうして!?」
セシリアの問いかけに、アリスは歯を食いしばりながら答える。
「あたしはあんたに守られるほど弱くない! あたしだってあんたのことを支えられる。あんたにとって、あたしが一番のライバルでいたいの!」
これを聞いたセシリアが笑顔を浮かべる。
「はい。私のライバルはいつだってあなたですよ、アリス」
アリスは照れくさそうな顔をしてから叫んだ。
「さあ、一緒に行くわよ!」
この呼びかけにセシリアは「はい!」とうなずく。
「やああああっ!!」
ふたりがありったけの魔法力を込めれば、竜の炎が弾けた。
瞬間、竜の胸にあるアリスの魔法の杖が露わとなった。
「〝
ふたりが叫ぶと同時に、一筋の光の矢が竜の胸を貫いていった。
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