第2話 禁断の魔法書
「なんでセシリアに勝てないのよ?」
夜の図書館で、アリスは魔法書をさがしながらぼやいていた。
セシリアとは学院に入学する以前から知り合いであった。彼女は幼い頃から聖女としての才能を開花させて魔法も身長もあらゆる面で、アリスよりも抜きん出ていた。何をやっても彼女に勝つことはできなかった。
それゆえに、アリスはフォークト家の跡取り娘として、他の黒魔法使いや魔女の家々から侮られることになった。なんとしてもセシリアに勝たなくては、フォークト家の名誉に関わることになる。
最近ではフォークト家の主な収入である魔法産業も、セシリアのダンバース家に押されて業績が悪くなっている。
ここで巻き返すためにも、セシリアになんとしても勝たなくては。
「お父様やお母様のためにも、あたしが勝たなくちゃいけないのよ」
来週には魔法対抗試験がある。そこでセシリアに勝てば一位を取ることができる。それまでになんとしてセシリアに勝つ方法を見つけなくては。
だが、今の魔法では、聖魔法を体得したセシリアには勝てない。
何かセシリアに勝てるような魔法はないかと図書館を調べ回っていると、何か強い魔力の気配を感じた。そちらに歩み寄っていけば、立ち入り禁止区域に、黒い革表紙の本が光っていた。
「……なにあれ?」
好奇心に惹かれて立ち入り禁止区域に足を踏み入れる。
どうやら古い魔法書らしい。アリスが近づいてみれば、自然と表紙が開かれて、ページが開かれて初めて見る魔法が記されていた。
アリスの魔法の杖が魔法書と共鳴し始める。
「すごい魔力があふれてくる……」
魔法書に魅了されていると、急に背後から声がかけられた。
「……アリス」
「ひあっ!」
思わずびっくりして魔法書を落としてしまう。
振り返れば、いつの間にかセシリアが立っていた。
「セ、セシリア? なんであんたがここにいるのよ?」
アリスが質問すれば、セシリアは申し訳なさそうにする。
「アリスをさがしてたら、ここにいるって他の子から聞いたので……。それよりも、アリスこそ、こんなところで何してるんですか?」
「な、なんでもないわよ。ちょっと課題の魔法の勉強をしてただけ」
アリスは落とした魔法書を慌てて本棚にしまう。
「あんたこそ、あたしに何の用よ?」
セシリアは気づかない様子で話を続ける。
「もう勝負はやめませんか? 私はあなたと仲良くなりたい。小さい頃の時のように家のことなんか関係なく、一緒に遊んでた頃に戻りたいんです……」
アリスとセシリアは幼い頃からの知り合いであった。それぞれが魔法産業の名家ということもあり、お互いに社交界でよく顔を合わせていた。
幼い頃はさほど身長が変わらないこともあって仲良く遊んだ。今でこそセシリアは落ち着いた少女であるが、幼い頃は人見知りで、いつもアリスの後ろに隠れていた。
そのせいか、ふたりきりになると、セシリアはいつも仲良くなろうとしていた。
「そうはいかないわ。あなたのダンバース家と、あたしのフォークト家はライバルなのよ。あなたに勝てば、フォークト家の名前をあげることができるの」
「…………」
セシリアは複雑そうな表情を浮かべる。
「聞きました、今のフォークト家のこと。もし私が原因であなたの家を苦しめているのなら、あなたに一位をゆずっても……」
「ふざけないで!」
アリスはすぐさまセシリアに怒鳴った。
「わざと負けたら許さないわ。実力であんたに勝たなければ意味がないわ。そうしなければ、将来フォークト家の跡取りになって、あんたに勝つことはできないもの」
「……アリス」
セシリアはなんとも言えない表情を浮かべる。それがアリスには決して自分には勝てない、という自信のように見えて苛立ちを覚えた。
「次の対抗試験では覚えてなさい。絶対にあなたに勝ってみせるから」
アリスはセシリアを置いて、さっさと部屋へと戻っていった。
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