reversal of savagery

姉さんが僕を離したのは全てが収まった後だった。

「大丈夫!?怪我無い!?」

ぺたぺたと身体を触りながら聞いてくる。

「大丈夫、それより逃げよう!こっち!」

この臭い……、あいつがいる。

他の人達と一緒に建物を出て走る。

臭いの元から離れるように。

街は酷い有様だった。

あちこちで建物が倒れ、道路には大穴が空いていた。

「なにがあったんだろう……、とにかくお姉ちゃんから離れないでね。」隣を走りながら言う。

「うん、……!?」臭いが急に強まる。

何かが軋む音が聞こえる。視界が歪む。

僕たちの前を閃光が走る。

「『ガンマ・レイ』っと。」

聞こえた時には跳んでいた。姉さんを抱きながら。

「え!?え!?秀利!?」

叫び声が聞こえる。離れなきゃ。

「ん?あいつ……」

あいつがそう言ったのが聞こえた。臭いが近づく。

「よう!この前とは逆だな!」

耳障りな声を背に受けながら崩れた街をひた走る。

……逃げられない!

角を曲がり、瓦礫の影に姉さんを降ろす。

血の匂いはしない。

「秀利……!?なにが……どうなって……」

「姉さん、隠れてて。」

獣の四肢を隠そうともせず笑いかける。

笑えてはいないのだろう。

「駄目だよ!一緒に逃げよう?」

必死な顔で僕の肩を掴む。棘が刺さり、血が流れる。

「ううん、あいつは多分僕を追ってる。……待っててね。」姉さんの手を振り払い、振り返る。

……血の匂いが強まった。

「お、観念したか?坊や。」

変わらない態度で話しかけてくる。

「お前は!なんで!こんなことするんだ!」

耳を貸さず、叫ぶ。声まで獣のようになっていた。

「なんでって……、イラつくからだよ。この街がなあ!」ガンマも叫び、球体を両手に掴んだ。

「まさかあれで生きてるとはな……、決めた。今度はこれで殺す。」一対の槍となった球体を手にする。

「やってみろ!」衝動に身を任せる。

白黒の世界の中、ガンマだけがはっきりと見えた。

聞こえるのは鼓動、匂うのは血だけ。

大地を踏み砕き、疾る。滾りのまま、爪を振るった。

逸らされる。あいつの右手が閃く。

とっさに身体を傾ける。左腕に温かい感覚が走る。

「があっ!」

怯んだところで足元を薙がれ、脇腹を蹴られる。

速い、重い。

吹き飛ばされながら地面に爪を立て、バランスをとる。

そのまま四足で突進する。肩の棘が大きく張り出す。

……接触する瞬間、僕は地面に縫い付けられていた。

「はい、終わり……。前よりはよかったんじゃねえか?」槍を引き抜きながらガンマが言う。

左腕からは夥しい血が流れていた。

「が……ぐ……あ……」力が入らない……。

目が霞む……。何も聞こえない……。匂わない……。

「さて、止めと行くか。」大きく跳躍する……。

ごめん……、姉さん……。

「そうそう、そうやって絶望して死にな!」ガンマは……嘲笑いながら……槍を……投げた……。

「ダメーッ!!秀利ーッ!!!」

何かに包まれる感覚の中、意識を手放した……。

「ん?庇った……家族か?……ま、今度こそ死んだろ。じゃあな~、秀利クン。」

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