a moment of peace

指先すら動かせない倦怠感、視界を通り過ぎる光の線。落下しているのだろう、朦朧とする中そう思った。

地面に叩きつけられた衝撃で目を覚ます。

月光を受けながら身を起こす。

右腕は既に治癒していた。

「逃げられた……、報告しなきゃ……」

ぼろぼろになった服から端末を取り出す。

「壊れてない……、よかった……」

端末を操作し、報告を済ませると帰路に就く。

「ただいま、ってまだ帰ってないのか……。」

ドアを引き、両親に話しかける。

……返事は無い。

「怪我は……、治ってる。バレないよね……。」

疲れた身体を引きずりながら夕食を作る。

「……うん、右手も動く。えーっと……あっ!」

焦がしてしまった。

「ただいまー。遅くなっちゃってごめんね?」

一人で食べようと思っていると、姉さんが帰ってきた。

「あ、おかえり。ご飯できてるよ。ちょっと失敗しちゃったけど……。」

「いいよいいよ。秀利が作ってくれるだけでお姉ちゃんは嬉しいもん。」笑顔でそう言ってくれる姉さん。

ほっとすると同時に胸が痛む。

「明日はいつ帰って来るの?」

「明日は早いよー、久しぶりにカレー作ってあげるね!」笑いながらそう言う姉さん。

「うん!楽しみだなあ……。」僕も笑顔で返す。

この日常を守るためなら、僕は……。

「どうかしたの?難しい顔しちゃって……。」

心配そうに顔を覗き込んで来る。

「ううん、何でもないよ。僕もう寝るね。」

誤魔化しながら席を立つ。……心が痛む。

「そう?なんかあったら言うんだよ?まだ小学生なんだから……。」

「うん、ありがとう。おやすみ……。」

「おやすみー。」

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