幕間 とあるスパイの定期報告

「……はい。トリドの破壊は、失敗に終わりました。竜提督を引き止めていただいたのに、申し訳ございません」

『いい。代わりに、「盾の乙女」の異能力の計測が出来た。コストはだいぶ掛かってしまったが、実りも大きかったさ』

「そうですか。……それで、その『盾の乙女』とは、一体何なのですか? 本人もそう言っていましたが」

『ああ、お前は氷の国に行ったことがないから知らないんだな』

「はい」

『今から十年前、氷の国のシベスク地方の森林が三分の一燃えるという、凄まじい火災があった』

「ああ、それは知っています。あのあたりでは、不法な焼畑が行われていて、その火が泥炭地に伸びたことで森林に拡がったと。それで?」

『あまりの火の勢いに、森林だけでなく街にまで及ぶと思われていたが、それは突然現れた氷の盾によって食い止められた。その氷の盾の異能力者を、氷の国は「盾の乙女」と呼んだ。以来、彼女は山火事の消火、火の異能力者の鎮圧に駆り出された』

「さっきの盾ですね。爆風によって煽られた火を防ぐために、この夏のトリドで、あんな大きな氷の塊を出せるなんて、どんな国も欲しい人材じゃないですか……。

 あ、そう言えば彼女、妙なことを言っていました」

『妙なこと?』

 


「トリド大聖堂が、三年の間に建てられた、と言っていました」

 


『……』

「あの大聖堂は創建されてから八百年経っています。三年前にトリドを訪れたのなら、彼女も目にしているはず。でも、彼女が嘘を言っているようには見えませんでした」

『そうだろうな。実際、トリド大聖堂は全焼して一年、再建するまでの空白がある。確かそれが、』

「十四年前。――アマド・ディアスが、十歳の時ですね」

『そうだ。……そしてさっきの質問だがな、そもそも「盾の乙女」は、氷の異能力者じゃあない』

「氷の異能力者ではない? それでは一体、何の異能力者なのですか?」



『なあに。見た目は「聖女」サマでも、後から破滅を招く、人類の「運命の女ファム・ファタール」さ。……それより』

「はい?」

『お前、マジで氷の異能力者が溶けると思ってたんだな! ワハハハハ!!』

「うるさいですね切りますよ!! あなたが嘘ついたくせに!!」

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