3
幸隆というのは梨々花の婚約者だった男だ。
大学の同級生で、元々は私の知人だった。私を介して知り合いになった二人は、あっという間に恋人になって、いつの間にか婚約者になっていた。
私が言うのもなんだけど、幸隆は良い男だった。優しくて力強く、誠実で、梨々花だけを愛してくれた。世間的に見れば私なんかよりもよっぽど梨々花にお似合いの「王子様」だっただろう。
こいつになら梨々花を任せられるって、そう思ったから、私は諦めたのだ。
けれど幸隆は、もう居ない。
彼が死んだのは、梨々花のせいだったらしい。
車に乗って二人で出かけた帰りだった。飛び出してきた車にぶつけられて、そのままガードレールに突っ込んだのだ。注意深く運転していれば避けられたはずだったのに、助手席の梨々花が話しかけたせいで反応が遅れたのだという。
連絡を受けて駆け付けた深夜の病院で、私の胸に縋りつき泣き続ける莉々を抱きしめながら、断片的な、そんな情報を聞かされた。
本当のところは分からない。避けようのない事故だったのかもしれないし、疲労のせいで隆幸がボンヤリしていたせいなのかもしれない。けれど少なくとも、梨々花はそうは思っていない。
ひとつだけ確かなことは、梨々花の目の前で、隆幸は身体中から血を流しながら、死んだ。
病院のベッドで泣き疲れて眠る梨々花を見下ろしながら、自分の無力さに唇を噛んだ。梨々花はいつでも笑っていなければいけないのに。私にできることなんて、何一つなかった。
廊下の外からは隆幸の母親がすすり泣く声がずっと聞こえていた。
私はどうしてここにいるのだろう。彼女たちの家族でもなんでもない、ただの友人にすぎない私が。
そうして一睡もできないまま迎えた翌日、目覚めた梨々花は、事故のことをすっかり忘れてしまっていた。それから虚ろな瞳で微笑み、私のことを「隆幸」と呼んだのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます