第47話 いきなり親切心を前面に押し出して話しかけてくる人に対して、何か裏があるのではと疑ってしまうのは、よくないことですか?

 白銀の髪に白い仮面、そして質のよさそうな白と青を基調とした衣服に、腰に下げられた装飾の施された美しい剣。

 見るからにそこら辺で見かける冒険者とは雰囲気が違った。


 警戒心から、少し身構えた俺を見て、白仮面の青年は、ふっと口元を緩めると改めて声をかけてきた。


「いきなり話しかけてしまってすみません。僕は冒険者でテーレと申します。何かお困りのようだったので、ついお声掛けしてしまいました。困った時は助け合うのが冒険者ですからね」


 こちらを気遣うような柔らかな物腰で、非常に好感が持てる話し方だった。


 こんなに丁寧に話しかけられては、無視するわけにもいかないよな。

 それに、身なりからして、そこら辺の駆け出し冒険者にも見えないし、なんというか立ち振る舞いに余裕を感じさせる。

 もしかしたら、割と等級の高い冒険者なのか。


 見た目や声の感じからは同世代位に思えるけど、ここは魔法やスキルがある異世界。若かろうと強いやつはいるだろうし、はるかに格上の等級である可能性はある。


 もしシルバー級以上であれば、正直ありがたい。困っているところを見て話しかけてくれたくらいだから、こっちの事情を話せば、依頼を代わりに受けてくれるくらいはしてくれるかも……。


 こっちも変に警戒せず、とりあえず話をしてみるか。


「すみません、ちょっと驚いてしまって。俺は只野真人。こっちは、魔……」


 さすがに魔王と紹介するのはまずいか。

 言葉に詰まった俺を見て魔王は、すかさず助け船をだしてくれた。


「儂はマキナ。二人とも駆け出しの青銅ブロンズ級冒険者じゃ。今しがた、依頼を探していたところだが、なかなか求める条件の依頼で受けられるものがなくて、困っておったところじゃ」


 テーレと名乗った白仮面の青年は、俺たちの自己紹介に頷き、会話を続ける。


「真人さんにマキナさん、ですね。冒険者になりたてだといろいろ勝手がわからなくて大変でしょう。もしよければ、僕が少しお手伝いしますよ。どんな依頼を受けたいんですか?」


 なんか手を貸してくれそうな雰囲気を出してきたぞこの白仮面の好青年。しかし、いくら親切でも等級が低かったら意味ないんだよな……。


「その前に失礼かもしれないが、そちらの等級は……?」

「ああ、そうですよね。僕がそもそも手助けできるほどの者かどうかわからないとあれですよね。……安心してください。僕は白金プラチナ級の冒険者です」


 白金級……!!

 一番上の等級じゃねーか!!


「た、大変失礼しました……! ご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いします!」


 俺は反射的に勢い良く頭を下げた。

 あまりの変わり身の早さに、白仮面の好青年は思わずプッと吹き出した。


「そんなにかしこまらなくても……普通に接していただいていいですよ」

「わかりました! テーレ様!」

「僕のことはテーレと呼んでください。敬称は不要です。同じ冒険者なんですから」

「まあ、そういうなら……よろしく、テーレ」


 相手がいいというなら遠慮はしないのが俺だ。

 しかしこいつ、白金級のくせに驕った様子もないし、もしかしてとんでもない人格者なのか。

 若くして、高い地位にいたり成功していたりするような奴は、自分の才能を鼻にかけていて傲慢で、他者を見下すようなイメージしかなかったが……こいつはなんかいい奴っぽいな。


「それで、君たちが探していた依頼だけど、どんな依頼を受けたいんですか?」

「これを受けたかったんだけど、俺たちだけじゃ受けられなくて困ってたんだ」


 俺は手にしていた水龍の討伐依頼をテーレに見せる。


「これは……さすがに青銅ブロンズ級の君たちでは受けない方がいいと思いますよ。依頼書に書いてある推奨の等級は、依頼の危険度に直結していますから……」


 至極まっとうな指摘をしてくれるテーレ。しかし、等級に見合った依頼をこなしていてはいつまで経っても、必要な金貨は獲得できない。


 俺は、魔王にそっと耳打ちをする。


「……ある程度こっちの事情を説明して、この人に協力してもらうのってどうですか?」

「……うむ。儂らでは高難易度の依頼を受けられんからのう。やむをえまい、マサトに任せる」


 魔王からの了承を得られたので、俺はある程度踏み込んだ事情を話して、テーレに協力を求める方針に舵を切った。


「実は……友人が無銭飲食をして、今そのお店につかまっちゃってて。助けるにはかなりのお金が必要なんだ」

「それは……事情は分かりましたが、はたして無銭飲食を犯した友人のために真人さんたちが命を懸けるのは……どうなんでしょう」


 それは、そのとおりだ。

 勝手にやらかしたルーナのために命を懸けるつもりはない。


 だから、これは命を懸けるほどの事ではないということを、説明することにした。


「別に俺たちは、この依頼が命を懸けるほどのものだとは思っていないんだ」

「どういうことですか?」

「冒険者登録をしたのが最近だから等級は青銅級だけど、本当の実力は白金級あるんだ」


 テーレは顎に手を当てながら、俺のことを観察するように、じっと見つめてきた。


「それは……申し訳ないけど駆け出し冒険者が見栄を張っているようにしか聞こえませんよ」


 どうやら俺が雑魚であることはあっさりと看破されてしまったらしい。


「強いのは俺じゃなくて隣のま……きな様の方だ」

「そうなんですか」


 今度は魔王に視線を向けるテーレ。そういえば魔王は魔力を押さえてるって言っていたから、もしかしたら魔王も俺同様、雑魚だと思われてしまうかも。


「……なるほど。隠している実力次第といった感じですね。何か実績はありますか?」


 マジかこいつ。魔王が魔力押さえてるの見抜けるの?

 強キャラがたまに相手の隠している実力を見抜くシーンがあるけど、リアルにあるのかよ、始めて見たわ。


「えーと、実績……そういえば昨日ジャイアントボアーを倒したな」

「ジャイアントボアーなら銀級……うまくやれば銅級でも倒せますよ」


 テーレは少しがっかりしたようだが、話はまだこれで終わりじゃない。


「一撃で倒したとしても?」

「一撃ですか……それならもう少し上に見積もっても」

「しかも、状態が非常にきれいだったということで、ジャイアントボアーの死骸は金貨一枚で買い取ってもらったぞ」

「それは……なるほど。白金級かどうかはさておき、相当な実力を持っていることは確かですね」

「そこで、頼みがあるんだが」


 俺は、本題に入る。

 今手にしている水龍の討伐依頼。これを代わりに窓口で受けて来てもらうのだ。


「その依頼を、僕に代わりに受付手続きをしてきてほしいということですか」

「そうだ」

「今の話が本当であれば、水龍討伐が不可能とまでは言いませんが、それでもかなり分は悪いと思いますけど……それでもその依頼を受けたいんですか?」

「ああ」


 心配してくれるのはありがたいが、不要な心配だ。なにせ水龍を倒すのは魔王だからな。

 おそらく瞬殺だろう。


「……わかりました。でも一つだけ条件があります」

「条件?」

「僕も一緒に行きます。即席ですがパーティを組んで、一緒に依頼を受けましょう。さすがに君たちだけで行かせるのは不安ですから」

「え……」


 そう来たか。

 正直やりづらくなるから、同行されるのはありがた迷惑な話なんだけど……。

 でも、依頼を受けてくれるみたいではある。他に代わりに受けてくれるような奴は中々いないだろうし、テーレは割と人格者っぽいから一緒に行動するにしてもトラブルも起こさなそうだし。


 魔王に視線を向けると、信頼しきった瞳で頷いた。

 判断は俺に任せるってことらしい。


 背に腹は代えられないか……。


「わかった。むしろ白金級のテーレが一緒に来てくれるのは心強い」


 まあ、足を引っ張ることはないだろう。


「じゃあ、僕は受付を済ませてくるから、君たちはここで待っていてください」

「ありがとう」


 受付に向かっていくテーレを見送りながら、俺は魔王に相談する。


「一緒に行くことになっちゃいましたけど、大丈夫ですかね」

「やむをえまい。それと、あ奴が同行している間は儂のことを、その……名前で呼ぶことを許す。魔王様とは呼ぶな」

「あ、そっか」


 テーレと一緒に行動する以上、魔王の呼び方も気を付けないと。


「じゃあしばらくマキナ様と呼びますね」

「う、うむ」

「ちなみに素性とか聞かれたらどうします?」

「適当に、地方の貴族の令嬢とその付き人とかでよかろう」

「わかりました。じゃあ、しばらくはそのていで行きます」


 そして受付を終えたテーレと合流すると、俺たち即席水龍討伐パーティは、ヴァリアール森林へと向かった。



====================

【あとがき】

第47話を読んでいただき、ありがとうございます♪


新たな仲間を加えて、いざ討伐依頼へ。

果たして、即席パーティの道中はどうなるのやら。


知らない人と冒険とか、気疲れしそうで私はちょっと不安ですけどね~。


次話は3月19日に投稿予定です。


引き続き、お読みいただけると嬉しいです♪

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