いいかげん異世界転生するの、やめてもらってもいいですか? ……とばっちりで異世界転生に失敗した俺は、魔王の部下に成り下がり異世界転生を撲滅します。(仮)
第46話 健康的なメニューは物足りなさ過ぎて、不健康的な間食をしてしまうんですが、これってむしろマイナスですか。
第46話 健康的なメニューは物足りなさ過ぎて、不健康的な間食をしてしまうんですが、これってむしろマイナスですか。
宿屋の隣にある冒険者ギルドへ再びやってきた。
朝の早い時間ということもあって、ギルド内の食堂は、昨夜の賑わいとは打って変わって、人もまばらだった。
席についている数少ない冒険者たちは、仲間たちと朝食を取りながら、今日どんな依頼を受けるかなど、仕事の話をしている。
依頼の掲載されている掲示板に向かう途中、魔王は冒険者たちが食べている朝食をちらちらと横目に見ながら、お腹を擦っていた。
どうやら魔王は空腹らしい。
「……お腹すきましたね」
「え……? う、うむ」
「魔王様、俺たちも先に腹ごしらえをして、それから依頼を受けますか?」
「そうじゃな! それがよい!」
顔をほころばせ、目に見えてテンションが上がる魔王。
「じゃあ、適当に買ってきますんで、魔王様は適当に席に座っておいてください」
「あ、いや、まて。儂も一緒に行く。……どんな品があるのか気になるからのう」
「そうですか。じゃあ、一緒に行きますか」
「うむ」
わざわざ魔王に手を煩わせなくて済むようにと思っての提案だったが、どうやら魔王は自分で食べる物を選びたいらしい。
早速注文カウンターへと訪れると、天井にぶら下がっているメニューが書かれた板から、好きなものを頼むよう店員に促される。
相変わらずこの世界の文字を直接読むことはできない。
しかし、何度もこの世界の文字を見たことによって慣れてきたのか、最初のように単語や短文が映像イメージとして湧いてくるのではなく、一文を日本語訳した形で読み取れるようになっていた。
「魔王様、この『ヴァリアール森林の恵み朝食セット~朝採れ野菜を添えて~』というメニューは健康的で安いし、オススメみたいですよ」
「……それは一番ない。そもそも健康的とか書いてるメニューは、だいたい野菜とか、味の薄いものしか入っとらんのじゃ。そんなん朝から食べとうない。萎える」
「でも野菜は大事ですよ。味が薄いものも、健康的なのは事実ですし」
「そんなのよりこっちの方が、うまそうじゃ。この『冒険者のための朝から活力爆発セット』というやつ」
魔王が指さしたメニュー表の説明を見るに、どうやらジューシーな肉がてんこ盛りの丼モノらしい。なお、野菜はついていない。肉のみである。
「……さすがにそれじゃあ、栄養が偏り過ぎていて身体に悪くないですか? それに朝からそんな重たいもの、食べる気には……」
「マサトよ、何を言っておる。生物の身体は何でできておると思っておるんじゃ。考えるまでもなく肉じゃろ。つまり肉を食べるのが、一番栄養が取れて身体にいいんじゃ。それに今日は依頼をこなすんじゃぞ。食べれるうちにたくさん食べておかねば、後悔するかもしれん」
確かに、依頼の内容によっては昼ご飯を食べる暇はないかもしれない。しかし、人間の身体はそんなに都合よく食い溜めできるようには、なっていない。
腹一杯食ったら、絶対動けなくなるし、依頼に悪影響がでる。
「じゃあ、魔王様はその肉盛り丼みたいなの食ってください。俺はこの野菜を添えて~の奴にするんで」
「本気で言っておるのか? ……後悔するぞ?」
「しませんよ」
そして注文した商品をそれぞれ受け取って席に着く。
俺が頼んだ『ヴァリアール森林の恵み朝食セット~朝採れ野菜を添えて~』は野菜炒めと蒸した鶏肉、そしてなぜか生野菜のサラダが付属していた。
もしかするとこの生野菜のサラダが、~朝採れ野菜を添えて~の部分なのかもしれない。
いずれにせよ魔王が口にしていたとおり、野菜と味の薄い鶏肉しかない、ヘルシーなメニューだった。
一方、魔王が目を輝かせながら店員から受け取った『冒険者のための朝から活力爆発セット』は、説明書き通り、脂ぎったテカテカの肉が大どんぶりの上に暴力的なまでに積み上げられた
見ただけで胸焼けしそうなビジュアルだったが、こちらの席まで漂ってくる焼けた肉の匂いは、確かに、めちゃくちゃうまそうだった。
「やっぱり、儂の朝食を羨ましそうな眼で見とるじゃないか……早速後悔しておるのか?」
「いや、そんなに食えないんで後悔はしてませんが、普通にうまそうだなって」
「……一口、マサトも食べてみるか?」
「え、いいんですか」
「うむ。マサトにも食べて欲しい。……これからは、いいことはなるべく、マサトとも分かち合っていきたいんじゃ」
魔王は自分のどんぶりに乗っている肉をひと切れフォークで突き刺すと、こちらに手を伸ばしてきた。
「……まさか魔王様。俺に、あーん、してくれるつもりですか?」
「あーんってなんじゃ?」
魔王は小首を傾げる。
あ、なるほど。魔王はあーんをご存じないらしい。
「いえ、何でもないです。ありがたくお肉もらいます」
「……?」
まさか魔王が美少女の姿で、あーん、してくれるとは。
あーんについて、詳しく説明したら、手を引っこめちゃいそうだから、このまま黙っとこ。
俺が身を乗り出して口を開けると、魔王はそのまま、ジューシーな肉を俺の口へと運んでくれた。
それを噛み締めた瞬間、肉の旨味と脂が口いっぱいに広がった。そして、嚙む度においしさが溢れる。
「これ、めちゃくちゃ旨いですね」
「じゃろう。もっと欲しければ遠慮なく言うんじゃぞ」
「ありがとうございます。あ、そうだ。お返しに俺の生野菜をあげましょうか?」
「それは要らぬ」
「え、でも分かち合い……」
「儂は野菜は嫌いじゃ。まずいものは分かち合わんでよい」
……もしかしてこの魔王、野菜が入ったメニューを俺に勝手に選ばれたくないから、食事の注文の時についてきたんじゃ……。
魔王は俺が差し出そうとした野菜を分かち合うことは拒否して、そのまま肉を食べるのを再開した。
俺も自分のメニューを食べ進める。肉が濃厚過ぎたせいで、蒸した鶏肉とかもはや味を感じなかったが、野菜と併せて肉の後味を中和するにはちょうどよかった。
そして、食事を終えると、早速、依頼を受けるために掲示板へと向かう。
相変わらず、大したことの無い依頼が大多数を占めていたが、中にはこう難易度過ぎて残っているのだろうと思われる依頼もちらほら見つけられた。
難易度が高いと言っても、先日見たあの魔王討伐の依頼書ほどじゃないけど。
「あれ……?」
「どうしたんじゃ?」
「昨日、だいぶ長い期間放置されてるっぽいなって話してた魔王様の討伐の依頼書が無くなってます」
「誰も受けんから、ついに取り下げたのかもしれんの」
「まあ、内容が内容だけに、そうかもしれないですね……」
「うむ。だが、魔王討伐は別として、高難易度の討伐系の依頼はよいかもしれぬ。どんな強力な魔物が相手でも、儂に倒せぬ魔物はいないからの」
確かに、単純に討伐対象が強くて報酬が高い系の討伐依頼であれば、魔王があっさり倒して終わる可能性が高い。
「そうなると、これとかよさそうですね」
俺の目に留まったのは、ヴァリアール森林の最奥にある湖に最近住み着いた水龍の討伐依頼だった。
すでに何人もの金級、銀級冒険者が返り討ちに遭っており、かなり危険度が高いと注意書きがされていた。ただ、報酬は金貨10枚と破格の報酬である。
「こういうのがいいのう。じゃが、儂らでも受けれるんか……?」
「あ……よく見たら、無理そうですね。危険な依頼のため、金級以上の冒険者もしくは金級以上の冒険者が所属するパーティしか受けられないようです」
「儂らは冒険者ランクが最底辺の青銅級じゃからな……青銅級でも受けられる依頼で報酬が高いものは……」
二人して、目を皿のようにして探すものの、一番高くても青銅級の冒険者では、階級指定のない報酬が銀貨10枚程度の依頼が限界だった。
「こうなったら、デッコスたちを一旦、闘技場から呼び戻して、依頼の受付だけしてもらうか……」
いちおう銀級の冒険者なので、俺や魔王よりはいい依頼を受けることが出来るはずだ。しかし、それでも銀級冒険者で受けられる依頼じゃあ、明後日までに金貨を稼ぐのは難しそうだ。
どうしようかと途方に暮れていると、背後から突然声をかけられた。
「何かお困りのようですが、どうかしましたか?」
聞こえてきた声に振り返ると、そこには白銀の髪と目元を覆い隠す白い仮面をつけた、印象的な姿をした青年が立っていた。
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【あとがき】
第46話を読んでいただき、ありがとうございます♪
最近ヘルシーな食事を心がけていますが、次の食事まで腹が待ちません。
これって慣れの問題なんですかね……?
次話は3月14日(←頑張れば)か15日(←力尽きたら)に投稿予定です。
引き続き、お読みいただけると嬉しいです♪
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