第42話 いつだって二次情報は、伝える人が伝えたいように加工しているので、鵜吞みにしたらいいように踊らされてしまいます。

 玲奈に、源とルーナのことをありのまま伝えると、さすがに玲奈もキレてルーナを見捨てると言い出すかもしれない。

 まあ、自業自得ではあるが、今回はルーナを救う必要があるから、だけ伝えるか。


 俺はルーナがサボろうとしたり、魔王を害そうとしたり、いろいろ企んでいた部分を省いて玲奈に伝えてみる。すると案の定、玲奈はルーナの不運を嘆いた。


「情報収集中にお財布を盗まれちゃって、お昼休憩中のお店で無銭飲食扱い……しかもお土産用に買っていた腕輪が、呪われたアイテムだったなんて……ルーナちゃん可哀そうすぎる!」

「そ、そうだな……」

「しかも、お金用意できなかったら変態貴族に売られるなんて、最低! どうにかして、助けて上げないと」

「そうだよな……。俺たちで何とか金貨6枚集めるか!」


 とりあえず玲奈を、ルーナを助けたいという方向にもっていくことはできた。

 すると隣で黙って俺の話を聞いていた魔王が不満気な顔をして俺の肘を小突いてきた。そして、小声で俺の説明に文句を垂れてきた。


「……マサトよ。それはさすがにルーナに都合がよすぎる説明過ぎんか? これじゃ完全に理不尽な目に遭って可哀そうなルーナになってしまっておるではないか。せめて、サボろうとしてたことくらい、玲奈に言ってもいいじゃろ……!」


 どうやら、ルーナが玲奈に同情されまくっている状況が気に入らないらしい。


「えーと、玲奈は中学校の掃除当番で一緒だった男子がサボってた時にめっちゃブチ切れてたのを見たことあるんで、ルーナのサボり行為を伝えるのは悪手です。それで万が一、玲奈が怒ってルーナを見捨てるって言いだしたら、一大事ですから」


 まあ、玲奈の場合は助け出した後でみっちりお説教するって言いだすパターンの方が可能性としては高そうだが……何にしても、余計なリスクを背負う必要はない。しかし魔王は納得がいかない様子だった。


「……でも、なんかずるいのう……」


 魔王が子どもみたいに頬を膨らませて拗ねた。


「……いいじゃないですか。ルーナなんて、どうせ性根が腐っているんですから、いずれ玲奈の前でも何かやらかして、いつか相応の報いを受けますって」

「……それもそうか。うん、それなら、今回くらいは大目に見てやるかの」


 俺が諭すと、魔王もようやく納得はしてくれたようで、すっきりとした顔つきになった。


 ……さて、ようやく本題に入れる。


「金貨6枚を三日で集めなきゃいけないわけだが、とりあえず現状の有り金を確認してみるか」


 俺がまず、魔王と一緒にジャイアントボアーの討伐で稼いだ金を見せる。金貨1枚と銀貨12枚。……俺の血と涙の結晶だ。

 次に源が何も持っていない掌を見せてきた。……いちいち見せなくていい。所持金ゼロなのは知ってる。

 そして最後に玲奈が小袋を取り出して、中身を机に広げた。数えてみると金貨1枚と銀貨30枚と銅貨20枚あった。……おまえすごいよ。

 このうち、肉串屋に払う銀貨6枚を除いた現時点での俺たちの所持金合計は、金貨2枚、銀貨36枚、銅貨20枚。銅貨はたいした足しにならないから省くとして、不足分がおよそ金貨3枚と銀貨64枚ってところか。

 分かりやすく円換算するとだいたい36万4千円。……普通にやっていて3日で稼げるような金額じゃないな。


「まだ必要額の半分にも足りてない」


 冒険者ギルドで、運よくジャイアントボアーの討伐依頼がまたあれば、同じ作戦で稼ぎまくるという手がなくはないけど、そんな都合よく同じ依頼が毎回あるわけないよな。


「……私、あと三日ここで働いてもいいけど。他にお金稼ぐ方法知らないし」


 皆して難しい顔をしていると、玲奈が一つ案を出した。


「なるほど。ここで、働く……か。ちなみに、三日間働いたらどのくらい稼げそうなんだ?」

「一日働いて銀貨20枚って言われてるけど、お客さんからのチップも合わせれば、三日で金貨1枚分より少し多いくらいにはなると思う」


 なるほど。確かに玲奈には引き続きここで働いてもらった方がいいかもしれない。逆に冒険者ギルドでの依頼を一緒に受けても、玲奈に戦闘力はないし、そもそも危険だから連れて行きたくないし。

 その点、すでに馴染んでいるように見えるこの店なら、危険も少ないだろう。……悪くない提案だ。

 

「じゃあ、お願いできるか?」

「うん、わかった」


 玲奈は頷くと、ちょっとニーダスに相談してくると言って、席を立った。


「さて、そうなると俺たちがどうやって稼ぐかだけど」

「そういや、真人たちはどうやってそんなに金稼いだんだ?」

「ああ、これは冒険者ギルドで依頼を熟して得た報酬だ。たぶん俺らが短期間で大金を稼げるとしたら、冒険者ギルドで高額報酬の依頼を受けるしかないだろうな」

「そうか。じゃあ俺たちは冒険者ギルドに行くか」


 現実的なところだと、それが最善策だな。

 玲奈が戻ってくると店長に事情を説明したら快くここで働くことを承諾してくれたらしい。それどころか、このままずっとうちで働かないかと誘われたそうだ。さすがにそれは断ったみたいだが。


「じゃあ、残りの分は俺たちで稼いでくるから」

「わかった。……でも、無茶はしないで」

「なんだ、珍しい。お兄ちゃんを心配してくれるのか?」


 あまりないことだったので、つい茶化してしまったが、玲奈はいたって真面目な顔をして、言葉をつづけた。

 

「……さっき、すごい大金持ってきてたじゃん。私だってここで働いたからわかるけど、半日であんなに稼ぐのは普通じゃ無理。……どうせ、無茶したんでしょ」

「え、ああ、まあ……」


 瀕死の重傷を負って、ターゲットをおびき寄せる作戦は、一般的に言えば無茶の類になるか。


「マキちゃん。今度はお兄ちゃんが無茶しないように、ちゃんと見張っててね?」

「う、うむ。もう死にかけるような目には合わんように気を付けよう」

「え……死にかけ……?」


 玲奈の表情から感情の色が消えかけると、魔王は慌ててごまかした。


「な、何でもないぞ! 安心せよ、この世界で最強の存在である儂がついておるんじゃ! マサトに万が一などない!」

「……なんだかちょっと不安なんだけど。お兄ちゃん、私を無駄に心配させたらコロスから」

「わかったよ。無茶はしない。安全に稼いでくるから」

「……約束だからね」

「ああ」


 とはいったものの、そんな安全に稼げるような依頼があればいいけど……。


====================

【あとがき】

第42話を読んでいただき、ありがとうございます♪


安全かつ短期間で大金を稼げる仕事……そんなものはこの世にありません(笑)


次回はおそらく2月29日に投稿する予定です。


引き続き、お読みいただけると嬉しいです♪


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