第41話 今まで経験したことがないことでも、ホントに初めてかってくらい初見で上手く対応できてしまう人がうらやましいです。

 奥の席と言って案内されたのは、四人掛けで片側が壁になっている半個室のテーブル席だった。そこに俺と魔王、そして源が腰を下ろす。しかし玲奈は、俺たちに席を勧めただけで、自分は立ったままだった。

 

「玲奈、おまえも座れよ」

「うーん、今抜けても大丈夫か、ニーダスにちょっと聞いてくるから待ってて」

「いや、ニーダスって誰だよ」

「ここの店長」


 え、店長?

 そのニーダスとやらって、店長なの?

 それなのにお前、普通に呼び捨てにしてんの?


 ちょっと待っててと言って、玲奈は足早に客席の奥にあるキッチンに入っていった。


「……マサトよ。儂には状況がさっぱりわからんのじゃが、とりあえず玲奈は無事ということでいいんじゃろうか」

「様子を見た感じはそう見えますけど……。俺にも何が何だかさっぱり」


 てっきり玲奈が奴隷にされてしまったのではと焦っていたんだが、どうやら無事みたいではある。……いや、もしかしてこの店に売られて、こき使われているとか……なわけないか。玲奈からは悲壮感のかけらも感じなかったし、なんなら店長を呼び捨てにしているくらいには、好きなようにやっているようだし。

 

 少しすると玲奈が、大胆メイド服のまま俺たちが座る席へとやってきた。


「今日一日はそのまま働いて欲しいって言われたけど、ちょっとだけなら、抜けてもいいって」


 そう言って、空いていた源の隣に玲奈がちょこんと座った。

 しかし、四人掛けの狭い席かつ、源という圧倒的肩幅が隣にいるせいで、玲奈の身体は半分テーブルの端から出てしまっていた。


「ねえ源くん、もうちょっと奥に詰めれない?」


 玲奈が肩でちょんちょんと源の二の腕を押すようにすると、源は顔を真っ赤にし、慌てて玲奈から身体を離した。結果、玲奈がちゃんと座れるだけのスペースは確保できたが、その分だけ源が反対側の壁にめり込むことになった。パラパラと、壁材が崩れ落ちる。


「……源おまえ、その壁の弁償は自分でしろよ」

「ああ、もちろんだぜ……後で頑張って稼ぐわ……」

 

 源の身体の左側3分の1が壁に埋まったままだが、今はどうでもいいことなので放置して、ひとまず、玲奈に事情を聴いてみることにした。


「とりあえず、聞きたいことだらけなんだが、何から聞いて欲しい?」

「いや、なんで質問を受ける側の私が、質問を考えなきゃいけないのよ。お兄ちゃんが聞きたいことを聞いてくればいいじゃん」


 正直、何から聞いたらいいか、わからないんだが……じゃあ。


「なんで、おまえはこんなところで働いているんだ? 出店もいつの間にか無くなってるし」

「それは……、お兄ちゃんが行っちゃった後、ただじっと待ってるのが嫌で、何かできることはないかって聞いたら、じゃあ客引きでもやってみるかって話になって……」


 どうやら玲奈は俺を待っている間に、出店の店主と話して、客引きを手伝うことになったらしい。それが意外にも玲奈には客引きの才能があったらしく、肉串が飛ぶように売れて、その日の在庫が昼過ぎにはもう無くなってしまったそうだ。


「おまえ……バイトしたこともないのに、やるな」

「バイト経験なんて関係なくない? 道歩いてる男の人にちょっと笑顔を見せて、お肉買って欲しいな~って可愛くおねだりしたら、みんなすぐに買ってくれたよ?」


 おい! それは……なんというか、手口が卑怯だぞ。


「それで、出店で売る分のお肉はすぐ無くなっちゃったんだけど、どうせなら本店の方でも接客をやってみないかって勧められて……まあ、お兄ちゃんもさすがにそんなすぐには来ないだろうし、ただ待ってるのも暇だったから……」

「なるほど。そして今に至ると」

「うん」


 心配して、急いでお金を稼いで駆けつけたのに、めちゃくちゃ逞しく生きてるじゃないかこの妹は。……あれ、ちょっと待てよ。玲奈の奴、ここで接客やってるってことは。


「……ちなみに、玲奈。今働いてる分って、お金もらえたりすんの?」


 俺の質問で何かを察したように、玲奈は言いにくそうに顔を背けた。そして、申し訳なさそうにしゃべり始める。

 

「……実は、売り上げにすごく貢献したからって、特別手当で金貨1枚とお給料として銀貨数枚もらっちゃった。あと、お客さんからもチップをたくさん……」


 ……あれぇ。もしかして俺、死にかけてまで頑張る必要、無かったんじゃね……?


「じゃあ、もしかして……」

「……うん。お兄ちゃんたちが迎えに来てくれたら、お給料とかから銀貨6枚払って、行っていいって言われてる」


 ……泣いていいか? 


「ま、まあでも、お兄ちゃんがこんなに早く来てくれるなんて思わなかったから……その、それはそれで嬉しいっていうか……それに――」

「……無理して気を遣わなくていいから」

「べ、別に無理なんかしてないし。……もういい!」


 玲奈は腕を組み、ぷいっと顔を背けてしまった。どうやらご機嫌ナナメになってしまったらしい。……あれ、かける言葉間違ったか? 顔朱くして、無理に気遣いの言葉を捻りだそうとしてるっぽかったから、そんなことしなくてもいいよって言いたかったんだけど。


 なんか、いろいろとうまくいかないな。


「……マサトよ。ひとまず玲奈が無事だったのはよかったが、儂らにはさらなる問題があるんじゃ。玲奈の機嫌を損ねて落ち込んどる暇はないぞ」


 魔王に促されてハッとする。そういえば、問題はまだまだ山積みなんだった。こっちの問題も早く何とかしないと。

 

「……そういえば、そうでしたね。……玲奈」

「……なに?」

「実はルーナがやらかして、三日後に奴隷になるかもしれないんだ」

「え……? ルーナちゃんが奴隷!? いったい何があったの?」


 玲奈はルーナのピンチを聞くと、不機嫌そうにしていた表情を一変させて、驚いたように俺に尋ねてくる。


「実は、源とルーナは俺たちと別れてから――」


 俺は源から聞いたことをかいつまんで話し、今ルーナが置かれている状況について、玲奈にもわかるように説明した。


====================

【あとがき】

第41話を読んでいただき、ありがとうございます♪


玲奈は自分の身代金を自ら稼ぐ、剛の者でした。

真人が死にかけながら銀貨を稼いだ苦労って、いったい……?


次回はおそらく2月27日に投稿する予定です。


引き続き、お読みいただけると嬉しいです♪

 

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