第40話 なんか言って欲しそうな雰囲気を出されたら、なんか言ってあげないとダメですか。期待通りの言葉をあげられる自信がないんですが。

 陽が傾き、地平線の彼方へと沈む間際の、黄昏時。赤く照らし出されたエレクトランの街並みの一角にあった出店通りへとやってきた。……が。


「あれ、肉串の出店がない……?」

「場所は確かここだったはずじゃが……」


 昼間にジャイアントボアーの肉串を買った出店の区画だけ、跡形もなく、店が消えていた。

 俺は隣で装飾品を売っている店の人に、ここにあった肉串屋のことを尋ねてみる。


「ああ、お隣の『肉魂』の店長さんなら、そういえば昼過ぎ辺りに、今日の売り上げは達成してしまったから、早めに店閉めるって言ってましたよ。いつもは夕方くらいまでは、やってるんですけどね」


 ちょっと待てその売り上げって、玲奈を売り払うことを利益に計上してるだろ。……それで、玲奈を奴隷店に売りに行くために店を早く締めたのか。


「……魔王様」

「ど、どうしたマサト、そんな怖い顔をして」

「あの肉屋の店主、俺らとの約束を破って、即行で店を閉めて、玲奈を奴隷として売りに行ったかもしれないです」

「なんじゃと! それはホントか!」

「隣の店の人に聞いたところ、今日は売り上げを達成したからって、早めに店を閉めたらしいです」

「む……その足でレナを売りに行ったということか」

「おそらくそうじゃないかと」

「……やはり、あの店主はっておくべきだったんじゃ。儂のことも胸が小さいとか馬鹿にしてきおったし……次会ったら迷わず物言わぬ肉塊にしてやる」


 俺らの会話を聞いていた源が、横から口を挟む。


「それが本当なら、早く助けないとまずい状況じゃねーか! でも、玲奈ちゃんが今どこにいるかって、分かるのか? それとも片っ端からその奴隷店とやらを探して回るか?」

「……片っ端から奴隷店を回るのは非現実的だ。そもそもどこに売られているかもわからない。そうなると玲奈の居場所だけど……魔王様。なにか 玲奈の場所がわかるような魔法はありませんか?」

「うーむ。……あ、そういえば儂がレナに与えた腕輪の場所なら、探知魔法で探れるのう」

「そんな便利な方法があるなら早く言ってください!」

「う、うむ。すまぬ……今思いついたのじゃ」

「じゃあ、すぐに使ってください!」

「わ、わかったから、そう急かすでない。なんか、今のマサトちょっと怖いぞ……」

「え、ああ、すみません。ちょっと焦りが……」

「……まあよい。さて、レナはどこにおるんじゃ……?」


 魔王は探知魔法を発動させて、周囲をぐるりと見回す。そして、北側のある方向に向いた瞬間、魔王は動きを止めて眉を顰めるような仕草を見せた。


「あっちじゃな。そう遠くはなさそうじゃ」

「じゃあ、急いでいきましょう!」


 俺は魔王に先導を任せると急いで、玲奈がいると思われる場所へと向かった。

 そしてたどり着いた場所は、何故か大きめの飲食店だった。


「え……、ここですか? どう見ても奴隷店じゃないんですけど……」

「そ、そうじゃな。でも、玲奈に与えた腕輪の反応は間違いなくこの中からするんじゃ……」

「とにかく入ってみようぜ!」

 

 俺は飲食店の扉を開けて、店内へと足を踏み入れる。

 そこは、大衆向けの飲食店らしく、見渡す限りの席は埋まっており大繁盛しているようだった。

 店内に漂う焼けた肉のおいしそうな匂いと、見渡す限りの客席に提供されている肉盛りの料理を見る限り、どうやらここは肉料理をメインで提供するお店らしいことが分かった。


「に、肉の楽園じゃ……」

「俺の筋肉が、ここでタンパク質を補充していけと言っている……」


 よだれを垂らしながら、物欲しそうに他の客の机に並べられた肉料理を凝視する魔王と無駄に力を入れて上腕二頭筋を膨らませる源。


 ……いやいやおまえら、まずは玲奈を探すんだからな。


 俺が二人を嗜めようとしたところで、横から店員さんに声をかけられる。


「いらっしゃいませ~。お客様は何名さ……え?」

「ああ、俺たちは別に飯を食べに来たんじゃ……は?」


 俺たちを案内しに来た店員は、とても見覚えのある金髪で赤い瞳をした、どこか幼さを感じさせる女性だった。


「え……玲奈?」

「なんで、お兄ちゃんがここにいんの……!」


 やはり玲奈で間違いないらしい。

 いろいろこの状況に疑問はあるが、先ずは一番気になったことを尋ねることにした。


「玲奈おまえ……何でそんな格好してんだ?」


 よく見るとこの店の店員さんは皆、短めのスカートに胸元が少し空いた、大胆なメイド服っぽい装いをしていた。この店の責任者の趣味を疑うが、どうやらそれがこの店の制服らしかった。そして、玲奈も同じようにそんな恰好をしている。


「ちょ……じろじろ見んな――ッ!」


 玲奈は慌てて胸元を腕で隠し、スカートの裾を下に引っ張った。

 別にそんなことしなくても、妹の胸元なんて見ないし、妹の短いスカートがふわっとすることに期待なんてしないけど。


 俺としては、何故そんな恰好をしているのか聞きたかったんだが、玲奈はじっと俺のこと見て、何か言葉を待っているようだった。


 ……もしかしてこれはあれか。普段とは違う格好をしていることに対して、何か感想を言え的なやつ?

 しかもこれって、期待外れのこと言うと機嫌悪くなるやつじゃん。

 

「ま、まあ、そういうかわいい感じの服も似合ってて、いいんじゃないか?」

「…………きも」


 せっかくいい感じの誉め言葉を言ってやったのに、キモがられて顔を背けられてしまった。


 ……どうやら、期待外れのことを言ってしまったらしい。

 

 玲奈はくるりと背を向けてしまい、そのまま歩き出す。


「ちょ、玲奈。どこ行くんだ?」

「……三名様。奥の席にご案内します」

「いや、俺たちは飯食いに来たんじゃ」

「……ここじゃ、話しづらいでしょ。ついてきて」

「ああ、そういうこと」


 どうやら、場所を変えて事情を説明してくれるらしいので、俺たちは玲奈に案内に従って、店の奥へと向かっていった。


====================

【あとがき】

第40話を読んでいただき、ありがとうございます♪


とりあえず、玲奈は奴隷店に売り払われてはいませんでしたが、どういう状況……?


次回は2月22日に投稿します。


引き続き、お読みいただけると嬉しいです♪


 

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