第35話 仕事はいつでも急に湧いてくるし、待ってもくれない。……なお、仕事は増えても人員の追加はありません。

 無事、依頼をこなした俺たちは、冒険者ギルドへ、依頼の達成報告とジャイアントボアーの納品のために訪れていた。


「……まさか、一体分まるまる、これほど綺麗な状態でお持ちいただくとは思いませんでした……」


 冒険者ギルドの入り口まで出てきた緑髪眼鏡の職員さんに驚かれた。

 ちなみにこの人は、他の職員さんにレジーナと呼ばれていたので、おそらくそれが名前だろう。

 レジーナさんは、マニュアル本を片手にジャイアントボアーの死体をぐるっと一周観察していった。


「……この状態ならば、マニュアルに載っている評価基準に照らすと金貨1枚での買取になりますね」

「マジすか!?」


 おいおい。倒すよりも食肉として売った方が全然金になるじゃねーかこの猪。


「でも、よくこんなにきれいな状態で倒せましたね。お連れさんは相当階級が高い方だったんですね」


 そう言ってレジーナさんは俺の傍にいた魔王に視線を送る。そういえば魔王の階級をまだ確認してなかったな。


「そういえば、階級ってどれくらいなんですか?」

「ん? 儂も依頼は初めてじゃから、多分マサトと一緒じゃぞ」


 なんだ、魔王も最底辺である青銅ブロンズ級の冒険者だったのか。

 

「お、お連れさんも青銅ブロンズ級なんですか……!? それでこの成果は、ありえないですよ……! まさか、マニュアルの魔物情報に不備が……? それって、もしかして公表している階級別の依頼難度の設定も見直さなきゃいけない案件……? えぇ、実態調査の予算なんて今年取ってないのにぃ……人手だって不足してるのにぃ……」


 レジーナさんが、何やら泣きそうな顔で、頭を抱え込んでしまった。

 

「……一応、あっちにいる二人がシルバー級冒険者なので、この魔物を討伐できたことは、そんなに不思議じゃないと思いますよ」


 まあ、倒したのは魔王であいつらは何もしていないが、レジーナさんにとってはどうやらその真実は都合が悪そうなので、隠しておいてあげることにした。


「そ、それを早く言ってください……! シルバー級がお二人もいれば、ジャイアントボアーをこれほど余裕を持って倒せても不思議ではないです。……よかったぁ、余計な残業が増えなくて」


 ……なんか、冒険者ギルドの職員さんもいろいろと大変そうなんだな。


 ひとまず、レジーナさんには今回の報酬と納品のボーナスとして、金貨1枚と銀貨20枚をもらった。これで、玲奈れなを連れ戻すことが出来る。


「では、マサトの兄貴。オレたちはこれで失礼しやす」

「ああ、情報収集頼んだよ。何か情報が手に入ったら隣の青龍亭に報告に来て」


 とりあえず、デコボココンビには最近、急に名が広まった冒険者や、ありえない強さを持っている冒険者がいないか、調べてもらうことにした。ちなみに残念ながら第一王子の情報は、この二人からは得られなかった。


「さて、魔王様。さっそく玲奈を引き取りに行きましょう」

「そうじゃな。……その前に、もう日没じゃ。ルーナたちがすでに青龍亭に来ていないかだけ、確認しておくぞ。まだ来ていないようなら店番の者に言伝ことづてをしておくのじゃ」

「それもそうですね」


 隣の建物である青龍亭を集合場所にしているので、移動は楽だ。すでに日は傾き、城壁の裏に隠れてしまっている。そのうち、西日は掻き消えて、夜の帳が落ちるだろう。

 つまりそろそろ、ルーナや源たちと合流する時間だ。


 青龍亭の中に入ると、事前に聞いていた通り一階は食事をとるスペースになっており、冒険者ギルドに隣接してるからか、客層は冒険者が大半を占めていた。あちらと変わらぬくらい、あちこちのテーブルで酒盛りが行われている。もしかしたら冒険者ギルドの食堂に入りきらなかった冒険者たちがこちらに流れてきてるのかもしれない。皆楽しそうにその日の苦労を酒で流し込み、食事をむさぼっては、明日への体力を蓄えているようだった。


 なんか、みんな楽しそうだな……。


 高校生で集まって食事と言ったらファミレスになるけど、当然他のお客さんの迷惑になるようなことはできない。だから、こういう食事の場で思い切り騒ぐという経験はしたことがないので新鮮だ。


 そして、そんな陽気な雰囲気の傍らで、どんよりとした雰囲気を漂わせているテーブルがあった。一番端っこの席で、一人の大男が頭を抱えてうなだれている。……その大男は、どこからどう見てもげんだった。


「魔王様、あそこに源がいます」

「そのようじゃな。しかし、ルーナの姿が見えんが……」

「とりあえず源に話かけてみますか」

「うむ。こちらは急ぎの件もあるしの」


 近くまで行くが、項垂れたまま源はこちらに気づく様子がなかったので声をかける。


「おい源。どうかしたのか?」

「ああ、真人か。……すまん、実はやらかしてな」

「やらかした? もしかしてルーナがいない理由に関係ある?」

「大ありだ。しかも下手したらルーナは奴隷にさせられてしまうかも」


 なんかこっちも雲行きが怪しいんだが……。


「ほう。これまで散々儂に嫌がらせをしてきた罰が当たったようじゃな」

「……ちなみに、何があったんだ?」


 俺が源に二手に分かれた後、一体何があったのか尋ねた。すると源は、別行動になってからの行動を順に語り始めた。


====================

【あとがき】

第35話を読んでいただき、ありがとうございます♪


王宮勤務から冒険者ギルドに転属されたばかりの異世界公僕レジーナさんは人手不足で毎日残業中です。


そして、目を離すとすぐにやらかす女神様。

別行動中にいったい何があったのかは、次回のお楽しみです♪


次回は2月6日に投稿予定です。

引き続き、お読みいただけると嬉しいです♪

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