第34話 誰が一番力(影響力)を持っているかをしっかりと見極めないと、痛い目を見ますよ。

「なんだオメエ、まさかシルバー級冒険者であるオレたちと、やり合うってのか……?」

「やり合うもなにも、儂とおまえらでは実力差がありすぎて戦いにならん。……これから始まるのは、ただの拷問じゃ」


 悪い冒険者二人が武器を構えた瞬間、魔王は構えていた指を弾いた。


 魔王がここで使ったのは、やはり『全身をズタズタに引き裂くが致命傷を与えず苦しめる拷問魔法』だった。


 彼らは一瞬にして、鮮やかな赤い花を咲き誇らせて、地面へと崩れ落ちる。

 そんな彼らは俺とは違い、さすが銀級冒険者といったところか。倒れた後も気を失うことなく、体中の裂傷から血を吹き出しながら、苦痛に耐えきれず叫び声をあげのたうち回っていた。

 ……中途半端に強いってのも、逆に地獄だ。


「……魔王様、これ、どうするつもりなんですか? ……痛々しすぎて見てられないんですけど」

「まあ、すぐ終わるから待っておれ」


 魔王が次に指を弾くと、彼らの身体は黒い炎に包まれて、体中の裂傷が癒されていく。しかし、完治した瞬間にまた、指を弾いて冒険者たちを血の海に沈めた。

 魔王は、特に彼らと問答をすることもなく、それを数度繰り返した。


 地面が鮮血で真っ赤に塗りつぶされる頃には、レザーアーマーの冒険者が根を上げる。


「お、オレらが、悪かった――ッ! ゆる――」


 パチン。


「ぐぎゃっ」


 魔王に情けの心はないのか、許しを求めるように謝罪をする冒険者の声に耳を傾けることなく、まるで単純作業をするように回復させては魔法で瀕死にさせるという行為を続けていった。


 そして、そのうち冒険者たちは、謝罪すら口にすることが無くなり、拷問のインターバルにおいて、ただ廃人のように嗚咽を漏らすだけの状態となっていた。

 ……こんなのされたら、精神崩壊しそう。


「……おい」

「ひいいいいい! 許してください許してください許してください――!」


 魔王が声をかけると、二人の冒険者は雷にでも打たれたかのように、そろって跳ね上がり、即座に土下座して、額を地面にこすりつけた。


「……そろそろ死ぬか?」

「お願いします殺さないでください! オレたちにできることなら何でもしますから!」


 もはや、悪い冒険者二人組は完全に心が折れてしまったらしい。


「……だそうだ、マサトよ。おまえが生かしておく利があるといったんじゃ。こやつらを好きに使うがよい」

「ええ……そうなりますか」


 利はあるとは言ったけど、別にこんな性根の腐ったおっさんたち使いたくないな……まてよ、そういえば。


「魔王様って、人間の配下はいるんですか?」

「マサトだけじゃ」

「じゃあ、この人たちを人間界のスパイとして使ってはどうですか?」

「こんなしょーもない者どもをか? 役に立つんか?」

「立つと思いますよ。彼らは冒険者ですから、日常的に冒険者ギルドに入り浸っています。なので、冒険者ギルドにやってきて急に台頭を表すような冒険者や明らかに人智を超えた強さを持つ冒険者が現れたら、俺たちに報告させるんです。そういうやつらは、異世界転生者の可能性が高いですから」

「なるほど。確かにそれならば、使い道はありそうじゃ。魔族の者をずっとギルドに潜伏させておくわけにもいかぬからのう」


 魔王もこの冒険者たちを生かすことに、一定の利を見出してくれたようだ。


「異世界転生撲滅のために、この者たちを使いましょう」

「……わかった。この件はマサトに任せるぞ」


 魔王から許可が下りたので俺は、土下座を続けるおっさんたちに声をかける。


「あのさ、あんたらのことを好きにしていいって言われたんだけど」

「お、お願いします命だけはお助けください……!」


 俺は命乞いマシーンと化したおっさんたちに、先ほど魔王と話した意向を伝えた。それさえすれば命は助けてやると。


「……冒険者ギルドでの監視……そんなことでいいんですかい?」

「あと、このジャイアントボアーもエレクトランまで運んでくれないか」

「それくらいなら、たやすいことですが」


 魔王が行った心を折る拷問(?)がよほど堪えたのか、彼らはだいぶ従順になった。

 ちなみにレザーアーマーのよく喋る冒険者がデッコス。チェインメイルの割と無口な方がボコールという名前らしい。こいつらはこれまでも、今回みたいに駆け出しの冒険者から手柄をせしめたり、カワイイ女の子の冒険者などにナンパしたりしていたらしい。幸い人死には出してはいないらしいが、立派な小悪党だ。


「それから、もうこんな駆け出しの冒険者を襲うような真似はするなよ。むしろこれからは、駆け出しの冒険者を積極的に助けてやってくれ」

「わかりやした。マサトの兄貴」

「あ、兄貴?」

「ええ。うっすらと何か話してるのはきこえてて、きっと、マサトの兄貴がオレたちを生かすように、そこの悪魔のような貧乳女に言ってくれたんすよね?」

「まあ、そうだが……」


 あ、悪魔のような貧乳女って……こいつら死ぬ気か。


「……おい。今、儂に対して、不敬な口を利いたか?」

「ひいいいいいいい。マサトの兄貴、たすけてくだせえええええええ」


 魔王に殺意の乗った視線で射すくめられた二人は、慌てて俺の背に隠れる。


 おい待ておまえら、まさか俺の方が魔王よりと強いと勘違いしてないか?


「俺はこの人の配下なんだが……。つまり、当然この人よりもはるかに弱いぞ」

「「え……?」」


 ……おい。二人そろって、やっちまったみたいな顔すんなよ。


「あ、よく見たら、とっても美しいですね!」

「……とってつけたような賛辞で、取り繕えるとでも思っておるのか……?」


 死を予感させる魔王の返答に、二人は震えあがった。


 ……せっかく助けた(?)命を散らせるのもなんだし、少し助け舟を出してやるか。


 俺はデッコスとボコールに、魔王に響くであろう言葉をいくつか耳打ちしてやる。


 それを受けて、二人はさっそく必死になって言葉を並べ立てる。


「本心からの賛辞です! あなた様は圧倒的に美しい」

「……!」


 魔王の方眉がピクリと動く。


、品格があります」

「それに、マサトの兄貴を信頼して託すその姿、まさしく


 それから、息をつく間もなく、二人は、魔王が女神ルーナよりもあらゆることで素晴らしいと称賛し、理想の主であることをこれでもかというくらい褒めちぎることで、やがて魔王は、まんざらでもない表情を見せ始める。


「……まあ、貴様らも少しは見る目があるようじゃ」


 ひとまずは生かしておいてやると、魔王が怒りの矛を収めたことで、二人は胸を撫でおろし、ほっと息をついた。


「……マサトの兄貴。ありがとうございやした」

「……助かりました」

 

 二人に小声での感謝と、尊敬のまなざしを向けられる。


 小悪党どもから、いらぬ敬意を受けることにはなったが、まあ無事に小悪党じみた行動をする腐った性根を改心させることが出来たので良しとしよう。早速ジャイアントボアーの死骸を二人に運ぶように命じて、エレクトランへの帰路につく。


「便利な配下が増えたではないか。マサトよ」

「え……この人たちは魔王様の配下では……?」

「この件は任せるといったであろう。つまり、こやつらの主はおまえじゃ、マサト。幸いにして慕われているようじゃしのう」

「ええ……」 


 どうせ配下にするなら、こんな年上のいかついおっさん(元小悪党)なんかじゃなくて、もっとかわいい女の子の方がよかったんだけど……。


====================

【あとがき】

第34話を読んでいただき、ありがとうございます♪


10万字到達しました~なんとかなった~。


次回は2月4日に投稿予定です。

引き続き、お読みいただけると嬉しいです♪

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