第30話 絶対ないと言っていたことの方が、実際はよく起こるんですが、これはいったい何故なんでしょう?

 俺は次の案として、冒険者ギルドで依頼をこなし、報酬で銀貨を手に入れる方法を魔王に提案した。もっとも、この世界にも異世界モノのテンプレである冒険者ギルドに類するものがあるのなら、だけど。


「ほう、冒険者ギルドか……。まあ、それなら銀貨を稼げそうじゃな」

「あ、やっぱりこの世界にも冒険者ギルドはあるんですね。でも、魔王様。冒険者ギルドのこと、よく知ってましたね」


 初めて異世界に来た俺が、異世界に住んでいる魔王にそんなことを尋ねるのも変な話だが、てっきり人族の制度とか全然知らないんだろうなという勝手なイメージを持っていた。


「人族の情勢を探るために潜入したことがあると言ったであろう。その時に身分証が欲しくて冒険者登録したのじゃ」

「へえ。じゃあ、この世界の冒険者制度については詳しいんですか?」

「詳しくはないが……基本的なことは知っておる」


 エルダーアースにおける冒険者とは幅広い雑多な仕事を受ける何でも屋であり、ギルドで冒険者登録をした者が仕事を受けられるとのこと。そして、冒険者には階級があり、基本的には自分の階級に見合った依頼をこなすとのことだった。


「俺が知ってる冒険者ギルドと大体同じ制度ですね」

「マサトの世界にも冒険者ギルドがあるのか?」

「いえ、俺は知識として知っているだけです。多分日本にはないんじゃないかな」


 似たような仕事の斡旋とかはありそうだけど。


「とりあえず、冒険者ギルドに行きましょう」

「それなら、集合場所にした青龍亭の隣に東地区の冒険者ギルドがあるぞ」

「ちょうどいいですね。じゃあそこで依頼をすぐ受けて、銀貨をさっさと稼いでしまいましょう」

「うむ」


 俺と魔王は、ひとまず第一王子の情報収集を中断し、冒険者ギルドに向かうことになった。

 鮮やかな暖色系の建物が並ぶ街並みを進んでいくと、次第に街を行き交う人々の装いが、変わっていく。目的地に近づくにつれ、鎧を身につけた人や、弓を背負った人など、明らかに戦いなどを生業としているように見受けられる者たちと多くすれ違うようになってきた。


 ただ、多種多様な装備を身に着けており統一性がないことから、王都の衛兵ではなさそう。きっと彼らがこの世界の冒険者なのだろう。


「ここじゃな。数年ぶりに来たが、全く変わっておらんの」

「へえー。この大きな建物が冒険者ギルドですか。なんかようやく異世界に来たって感じがしますね」


 しっかりとした赤煉瓦造りの建物の正面には、鉄で縁取られた木製の門扉があった。早速それを押し開けて、中に入ってみる。


「うわ……、なんか、すごい場所ですねここ。冒険者ギルドって実際に来ると、こんな感じなのか」


 足を踏み入れた瞬間、キツめのアルコール臭が鼻腔を満たし、思わず声が漏れてしまった。そして入り口付近はどうも飲食エリアとなっているようで、四人掛けや六人掛けの机には人が集まり、食事と酒を楽しみながら談笑している。それ以外にも酒杯を片手に立ち話に興じる者たちの姿もちらほらと見えた。


「相変わらず酒臭くさくてかなわん。においが染みつく前にさっさとゆくぞ」

「そうですね……」


 魔王に促されて、俺は飲食エリアを通り過ぎて、その奥にある冒険者向けの依頼掲示板の前へとやってきた。高校の教室の黒板並に大きな掲示板には所狭しと乱雑に紙が張られている。


「さてと、この中にすぐに銀貨6枚稼げるものがあればいいですけど……、あ」

「どうしたんじゃ?」

「……俺、この世界の文字読めないんですけど」


 掲示板には依頼内容が書かれているとおぼしき紙がたくさん貼ってあるが、日本語で書かれているものは一切なかった。当然だが。


「何じゃそんなことか。儂が与えた指輪の力を使えば読めるじゃろ。魔力を目に集中して、意味を理解しようと思いながら文字を眺めれば良いだけじゃ」

「え、この指輪、そんな機能があったんですか。でも、目に魔力を集中って言われても」


 俺はとりあえず、なんか目にパワー的なもの(魔力?)を集めるようなイメージをしてみた。すると瞳の表面辺りに、仄かに熱を持った膜が張られたような感覚を得られる。そのまま先ほどのミミズが踊り狂っているような意味不明な文字列に視線を走らせてみると……。


「あ、なんか読めないのに意味は分かる」


 相変わらず文字はけど、文字からイメージのようなものが脳内に想起される感覚があった。例えば、「驫」って漢字はいまだに読み方を知らないけど、馬がたくさん走っているんだろうなというイメージが湧いてくる、みたいな感じ。ただ……。


「読めない字の意味というかイメージが勝手に頭に湧いてくるのは、なんか気持ち悪くて酔いそうなんですが……」

「それは、慣れるしかないのう」


 どうやら慣れでどうにかするしかないようだが、それ絶対時間かかるよね。……酔って来たら、回復魔法でも使うか。


「さて、ちょうどよい依頼はあればよいのじゃが……」

「あ、その前に冒険者登録はしとかなくていいんですか?」

「登録なんぞすぐに済むんじゃ。よい依頼を見つけたら、受けるついでに登録も済ませてくればよかろう」

「そうなんですね。わかりました」


 俺と魔王は目を皿のようにして、掲示板に張られた依頼に、次々と視線を移していく。

 その中でひとつ気になる依頼を見つけた。


「見てくださいこの依頼」

「む、良さげな依頼でも見つけたんか?」

「いや、そうじゃないですけど……これ、魔王様の討伐依頼じゃないですか?」

「なんじゃと……! どれどれ……」


 掲示板の端に長い間張られていたのか、他の依頼に比べてだいぶ傷んだ紙にこの世界の文字で大きく魔王討伐の依頼内容が書かれていた。魔王は、そんな自身の討伐依頼が書かれた紙を興味深そうに眺める。


「ふむふむ。魔王を討伐した者には金3万枚の報奨金と侯爵としての地位及び領地を与えると……大盤振る舞いじゃな。依頼主は……まあ、当然エクレールの国王か」


 魔王討伐って、もっと王様が大々的に勇者とかに依頼するようなものなのでは……と、思っていたのだが、どうやらこのエルダーアースでは、違うらしい。


「ちなみに金3万枚って、どれくらいの価値なんですかね?」

「人族の貨幣価値はわからんが、確か前回イグニスと来たときに銀貨100枚で金貨1枚と交換できると言っておったような」


 この世界での金貨と銀貨の交換レートは1対100ということか。

 さっき食べた肉串が1本で銀貨2枚だから、体感で銀貨1枚千円くらいの価値なのかなと思うと、金貨1枚で10万円くらいになるのか。つまり魔王を倒すと金貨3万枚だから……30億円か。それだけあれば、一生遊んで暮らせるな……。


「……なんじゃマサト。なぜ儂のことをじっと見ておる? ……まさか報酬に目がくらんで儂を討伐しようとか、下らぬことを考えとるんじゃなかろうな?」


 ぎくり。


「いやいやいや。さすがにそれは……! 魔王様は俺にとって大切な主君ですから」

「うむ。それならばよい。……まあ、どうせこの世界には儂より強い者などおらん。この依頼が果たされる日は永遠に来んじゃろ」


 そうだよな。この魔王が負ける姿は想像できない。世界の管理者である女神ですら太刀打ちできないんだから……。


「しかし、こんな依頼受ける人いるんですかね?」

「まあ、おらんじゃろ。だからこんなに隅の方で、依頼票がぼろくなっても放置されておるのではないか。……それよりもこの依頼はどうじゃ? これならちょうどいいのではないかの?」


 魔王が指さした先には、報酬が銀貨20枚の魔物討伐依頼が貼り付けられていた。内容は……ジャイアントボアーの討伐。


 え……。

 さっき食べた肉……。


 ジャイアントボアーって、魔物だったのかよ。普通においしくいただいてしまったんだが、あとでお腹壊したりしないよな……?


 ……まあ、屋台で売られてるくらいだから、さすがに大丈夫か。それに食用の肉にされるくらいなら、そんなに強い魔物でもないだろう。魔王もいるから、たとえ戦闘になったとしても心配はなさそうだし、受ける依頼はこれにしておくか。


 俺は依頼票を剝がすと、それ手にして依頼を受ける手続きのために、窓口へと向かった。


====================

【あとがき】

第30話を読んでいただき、ありがとうございます♪


今回はやむを得ず、この世界の設定等を語るシーンが多く続いてしまいました( ゚Д゚)

会話等を織り交ぜて、できるだけ読みやすくしたつもりではあるのですが、どうだったでしょうか……。


次話は土日どちらかに1話投稿しようかなと思ってます。

無理だったら、予定通り1月29日(月)に投稿します。


引き続き、お読みいただけると嬉しいです♪

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