第26話 怒るよ?ってすでに怒ってるやつのセリフですよね?

 魔王たちの魔道具作製に関する話し合いが終わったらしいので、俺たちも合流する。


「魔王様。地球に制限結界を張るための魔道具は作れそうですか?」

「うむ。イグニスによればなんとかなりそうじゃ。ただ、ひとまず設計図を作ってみないことには作製するのに必要な材料がわからんようじゃから、こちらはしばらくイグニスに任せて待ちの状態になるの」


 設計図が完成したら、改めて魔道具作製の上で不足する素材や材料を集める必要があるらしい。制限結界を張れるようになるまで、思っていた以上に時間がかかりそうではあるが、作製自体は可能なようでひと安心だ。これで、うまく制限結界を張ることが出来れば、魔王に地球を破壊されずに済みそうだ。


「イグニスが設計図を作っとる間に、儂らはエルダーアースに来たもう一つの目的を果たすとするかの」

「それは、異世界転生者のどうにかするって話ですか?」

「そうじゃな。幸い一人だけ居場所の推測が立ちそうな奴がおったじゃろ?」


 女神が覚えていた異世界転生(転移)者3人の内、転生先が分かっていたのは、二人目の男で、たしか人族の王国の第一王子だったか。


「確かに場所の予想は立てやすそうですけど、なんか持っていたスキルがヤバそうでしたし、ラスボスっぽい雰囲気あるんで、最後にした方がいいんじゃないですか? ほら、農家のやつとかなら見つけさえすれば、すぐ倒せそうですし、そっちからの方が」

「何を言っておるマサトよ。やばいスキルを持っておるからこそ、早めに潰しておかねばならんのじゃ。時間を与えるほどそやつは力を増すし、それによって、世はよけいに乱れるのじゃ」


 まあ、言われてみれば、野放しにしておく方がリスクか。別にRPGゲームというわけではないし、弱いやつから順番に倒していってレベル上げとか不要だもんな。そもそも魔王は最初からすでにレベルカンストしてるくらい強いから、こちらに成長の余地がない以上、あちらが成長する前に倒すのはむしろ合理的か。


「さすが魔王様。その通りですね」

「そうじゃろう!」


 魔王は自身の考えを肯定されて、嬉しそうに笑みを浮かべた。


「ちなみに人族の王都に転生って話でしたけど、心当たりはあるんですか?」

「人族の国で、王国と呼ばれる国は二つあるのじゃが……おそらくエクレール王国の方じゃろう」


 魔王によると人族の住む領域において、大きな国は三つある。一つはハイペリオン帝国。人族の国で最も大きいが、今回は関係なさそうな国なので、あまり詳しくは聞かなかった。そして、残り二つは、エクレール王国とオスキュリテ王国だが、オスキュリテ王国は魔王と同盟及び不可侵条約を結んでいるらしいので、女神が転生者を送り込むとしたらエクレール王国しかないとのこと。


「確かに私が転生者を送り込んだのは、エクレール王国だった気がします。あの国はいいですよ。国民の皆さんが魔族も魔王も大嫌いなので」

「確か、ポンコツ女神を信仰しとる不憫ふびんな国じゃったな」

「女神を信仰することは、人としてあるべき姿ですよ?」

「何をたわけたことを……人は、こんなポンコツ女神などには縋らず、自らの足で立って歩いていくべきなんじゃ」

「いいえ、それは違います。万民が私のような美しい女神をあがめることで足並みがそろい、人の世は安定するのです。信仰こそが平和をもたらすのですよ」

「……おまえとは、やはり分かり合えぬらしいの」

「下界の魔王風情が、天上の存在である女神わたしと分かり合えるわけがないじゃないですか。不敬ですよ?」


 魔王と女神が一触即発な雰囲気でにらみ合いを始める。俺はどうしようかと思い、ちらりと源に視線を送るが、やれやれと首を振るのみで、静観するつもりのようだった。まあ、女神自身も力では魔王に勝てないことはわかっているだろうし、魔王も制限結界のことがあるから、これくらいの言い争いで女神を亡き者にはしないだろう。そうであれば、いつものことだし、止めに入る必要はないか。俺も静観する感じで。


 しかし、静観に徹しない者がいた。


「ちょっと、二人とも! せっかくの旅行が台無しになっちゃうから喧嘩はしないで!」


 旅行エンジョイ勢として参加している玲奈れなが、魔王と女神の小競り合いを止めようと声をあげる。


「むう。しかし、この女神が……」

「いえ、魔王、あなたが……」


 なおも言い合いを続けようとする魔王と女神に対して、玲奈は俯き、はぁ、と一つ溜息をつく。

 そして、再び玲奈がゆっくりと顔を上げた瞬間、部屋の温度が数度下がったような気がした。






「……ねえ。…………怒るよ?」






 その声音に感情の色は無く、鼓膜は震え、背筋が凍る。

 玲奈の目元には影が差し、前髪の隙間からは見開かれた赤い瞳が除く。それは、わからず屋二人を凍てつかせるには、十分すぎる凄味を帯びていた。

 少し離れたところにいた俺ですら、少しぶるっときてしまったくらいだ。やっぱりこの妹こえぇ……。


 凍り付いてガタガタ震える二人に対して、今度は笑みを作って話しかける玲奈。ただし、目は笑っていない。


「ねえ、マキちゃん。私はせっかくの旅行だからみんなで仲良くしていたいの。……ダメかなぁ?」

「う、あ……だ、だめじゃ、ない……」


 魔王は涙目になりながら、震える唇で、やっとのこと言葉を絞り出す。地球を三度滅ぼせる力を持つ魔王が、玲奈の前では、ただ恐怖におびえる子犬のようだった。

 玲奈は、魔王が喧嘩する気を失ったことを確認すると、今度は女神の方へと首を傾ける。


「……あなたは、マキちゃんと仲良くできるかなぁ?」


 女神は玲奈に話しかけられた瞬間、あまりの圧に、ビクッと肩を跳ねさせたが、すぐさまこくこくと頷く。


「も、もちろん、仲良くします。み、みんなで楽しい旅行にしましょう」


 魔王と女神が互いに矛を収める(無理やり収めさせる)と、先ほどまでの有無を言わさぬ威圧感は急になりを潜め、コロッと表情を変えた玲奈は、嬉しそうに笑った。


「……二人とも、わかってくれて嬉しい!」


 そして、強制的にわからせられた魔王と女神は、玲奈によって仲直りの握手をさせられて、ひとまずこの場は収まった。


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【あとがき】

第26話を読んでいただき、ありがとうございます♪


玲奈は喧嘩が嫌いなので、身内が目の前で喧嘩すると止めます。

それでも止まらないとキレます(笑)


ちなみに真人と源も小さいころ喧嘩したことがありますが、その時に玲奈が泣きながら二人の喧嘩を嫌がったので、もう二度と玲奈の目の前では喧嘩しないことを約束しました。


次話は1月19日(金)投稿予定です。

引き続き、お読みいただけると嬉しいです♪

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