第25話 実の妹の心情を理解するのに、偏差値ってどのくらい必要ですか? マジでわからないんで助けてください。

「そういえば、玲奈の姿が見えませんが……?」

「うむ。レナは泣きが…………なにやら、ばえそう? だからこの魔王城を見て回りたいと言っての。配下のバロスにこのフロアを案内させておる」


 バロスって誰……? なんか、出オチのかませ犬っぽい名前なんだが。まあ、魔王の配下なら心配はいらないか。


「ちなみに玲奈にはここが異世界だってことは……?」

「……先ほどマサトがレナを向こうの世界につき返してきた時に、レナはマサトが氷塊に押し潰されるとこを見てしまったようでの。精神を安定させる魔法をかけながら、一応の事情は説明したんじゃ」

「なるほど。それは大変でしたね。きっと俺が潰れるグロテスクなシーンを見てしまって、キモいだのと騒いだんでしょう」

「いや、レナは泣きながら取り乱して、早くお兄ちゃんを助けに行かないと死んじゃうと喚いていたぞ」


 ……え?


「嘘だー。あの玲奈に限って、そんなことあるはず――」

「マサトの肉体を儂が再生させるまで、玲奈は潰れた死体のそばで、ずっと泣いておったがな」

「またまた。玲奈が恐ろしいからって、妙に肩持たなくていいんですよ。魔王様」

「そんなことはしとらんのじゃが……うーむ。レナはマサトが思っている以上に、マサトのことを好いておると思うんじゃがのう」


 さすがにそれはないって。まあ、魔王の好感度を上げる魔法が効いたのか、今日は玲奈とまともに会話できていますけど。


 魔王は話し終えると、玲奈が帰ってくるまでにエルダーアースに来た目的の一つである魔道具の作製について話すと言って、女神を伴い、イグニスと話し始めた。どうやら、魔王が言っていた魔道具について任せるつもりでいた部下というのはイグニスのことだったらしい。


 手持ち無沙汰となった俺は適当にげんに話を振る。


「なあ、源。俺はこれから多分魔王様のやることについていくことになると思うんだけど、源はどうすんの?」

「俺もしばらくは女神様に従おうかと考えてるが、そのあとの具体的な見通しはないな。でもとりあえず当面は、俺たち、一緒に行動することになるんじゃないか?」

「そうだなー。異世界転生者を排除するって言ってたし、女神も連れていくならしばらく俺らも一緒だな」


 何があるかわからない異世界でしばらく滞在することになるので、源と一緒なのは正直心強い。何ならまともに戦ったら、俺よりも強いし。


「あ、お兄ちゃん……」


 源と雑談していると、魔王城を散策していた玲奈がようやく帰ってきた。傍にはおそらく魔王が言っていた配下のバロスなる魔族がいた。浅黒い肌に角の生えた頭部。イグニスと違いこちらは一目で魔族とわかる風体をしていた。

 うん、普通に強そうだ。出オチのかませ犬っぽい名前だと思ったことは、心の中で丁重に謝罪しよう。


 玲奈はバロスに軽くお礼を言ってから、俺たちの元へと近づいてくる。ただ、玲奈の案内をしていたバロスはこちらの話に交じってくるつもりはないらしく、少し離れたところで立ち止まったままだった。


「……よかった。ちゃんと生き返ったんだ」


 玲奈は傍に来るなり、俺の身体を隅々まで見回してくる。そして、無事な様子を確認すると、安心したように、ほっと一息ついた。


「なんだ。心配してくれたのか?」

「はあ!? ち、違うし。私の目の前でグロテスクに潰れたまま死なれでもしたら、一生もののトラウマになるから、死んでほしくなかっただけだし」


 慌てて否定し、不機嫌そうに眉を顰め、睨みつけてくる玲奈。しかし、細められた瞳の淵が、ほんのり赤く腫れているのが見えてしまい、先ほどの魔王の言葉は本当だったのだと、気づいてしまった。


 俺が死んでる間、ずっと泣いていた、か。


 にわかには信じがたい。むしろ俺が死んで清々したとばかりにうれし泣きしたというのならまだわかるが……と、昨日までならそんな風に一蹴していた。でも、昨日俺が死んだときも玲奈の奴、自室で泣いて悲しんでいたんだよな……実は俺、そこまで嫌われてはいないのか。


 俺は玲奈の顔をじっと見つめる。中学生のくせに髪の毛は金髪に染め上げて赤いカラコンなんてしている小生意気なギャルは、俺と目が合うと、数秒間睨みつけてきた。いつもなら俺がすぐに視線外してしまうところだが、あえてじっと見続ける。すると玲奈の色白の頬が徐々に朱に染まっていき、やがて照れたように視線を逸らした。


「な、何じっと見つめ返してきてんのよ……」


 抗議とともに今一度、俺のことを上目遣いに見返してくる。しかし、すぐにまた耐え切れなくなったのか、顔を背けてしまった。

 

 え……なにこの反応。


 初めて見る玲奈の様子に俺は困惑する。困惑して、馬鹿なことを考えてしまった。

 普段言われ続けていた、うざいきもいしねも、俺と一緒にいると照れてしまうから、それを回避するための単なる照れ隠しだったのではないか。そして、そもそもなぜ、俺に対して照れるのかというと……答えは一つしかない。


「なあ、玲奈」

「な、なに?」

「おまえ、俺のこと好きなのか?」

「……は? あんたの目の前にいるのは実の妹なんだけど。それを正しく認識しての発言?」

「まあ、うん」

「…………きっしょ」


 おいいいい! やっぱり全然好かれてないんですけど!!


 玲奈は俺のことを、犯罪者を見るような軽蔑しきった目で一瞥し、傍にいた源の背後に隠れる。


「源君助けて。キモいお兄ちゃんが実の妹によこしまな感情を抱いてるっぽい」

「お、おう。俺はいつだって玲奈ちゃんの味方だ」


 どうでもいいが、玲奈に背中にしがみつかれて、真っ赤な顔して鼻の下を伸ばしている源の方がよっぽどよこしまな感情をいだいていると思うんだが……まあそれでも、実の兄が好きだのなんだの言い出すよりはキモくはないか。


 うーん。やっぱり魔王様の見立ては外れているみたいですよ。俺、玲奈にはがっつり嫌われてますもん……。


====================

【あとがき】

第25話を読んでいただき、ありがとうございます♪


魔王様の見立ては外れていませんが、真人と玲奈はやっぱりうまくいきません。

真人も惜しいところまで行ったんですが……。

そして、次回はそろそろ異世界人排除のために動き出します。


次話は1月17日(水)投稿予定です。

引き続き、お読みいただけると嬉しいです♪

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