第24話 魔王の裁きは少し甘くないか? ……まあ、俺がやらかした時にも甘々の裁きをお願いしたいので文句は言わないけど

 ――。


 ――――。


 ――――――はっ!?



「ここは……? どうなって……」

「気が付いたかマサトよ。おまえ、死んでおったぞ」

「え……マジですか。…………あ、そういえば氷の塊で押しつぶされて……」


 俺は、ぼんやりとする頭を振るい、さっさと意識を覚醒させようとする。その過程で、死ぬ直前のことを思い出してきた。


「あ、そういえば魔王様。なんかここ、魔王城じゃないみたいですけど」

「女神城とか言われたのじゃろう。どうやら儂の留守中にこの城を女神が占領しておったみたいじゃな。……のう?」


 魔王がそばに立っている女神を睨みつけると、女神は慌てた様子で首を振る。


「わ、私のせいではありません! 源之助さんが勢い余って魔王城を陥落させてしまっただけで……そうですよね? 源之助さん?」

「え、えーと、そうっすね。俺がやっちゃいました。すいません」


 源はそう言って魔王の前で土下座した。


「……まったく。ゲンは、なぜこんな駄女神を好んで庇いおるのか……。そもそも、結果的に魔王城をゲンが落としたとはいえ、元はといえば、儂に嫌がらせする目的でおまえがゲンをエルダーアースに送り込んだんじゃろ?」

「そ、そんなことは……」

「……言っておくが駄女神よ、今からこの件で、おまえが儂に嘘をついた場合、問答無用で燃やすからの」


 魔王の本気マジの目で射すくめられた女神は、思わず身震いした。今の魔王をこれ以上怒らせるのはまずいと直感的に判断したらしく、女神はあきらめて己のしたことを全て自白する。


「……ごめんなさい。あなたに燃やされてむしゃくしゃして、どうにかして嫌がらせしてやろうと源之助さんをエルダーアースに送り込みました。魔王城に転移してしまったのは偶然です。ゆるしてください」


 そのまま源の隣に並ぶように土下座した。


「……始めから素直に謝っておればよいものを。この際じゃから言っておくが、己の保身のために配下に罪を押し付けるその言い逃れの仕方、儂は嫌いじゃ。儂の前では二度とするでないぞ」

「もうしません。反省します……」

「……まあよい。業腹じゃが、とりあえず邪魔なゴリラの石像をすぐに撤去して原状回復すれば、今回は罪には問わぬ」


 魔王は女神と源への裁きを終えると、今度は傍で片膝を付き、頭を垂れていた燕尾服の男に呼びかける。


「……して、イグニスよ」

「ははっ」


 俺を問答無用で殺してきたイグニスという魔族の男は、魔王の呼びかけに応じて顔を上げる。思い切り殴られでもしたのか、左頬は赤く腫れあがり、鼻からは血が滴っていた。……とりあえず鼻血拭いたら?


「……おまえは魔王軍一の知将で、儂の不在時の守りの要であったはずじゃが……何故、真っ先に降伏したんじゃ?」


 魔王の詰問に、イグニスは腫れあがった頬を痛そうに擦りながら、弁明を述べる。……ああ、魔王に殴られたのか、それ。


「そ、それは……魔王様が女神の成敗に失敗し討ち取られてしまったものと思い魔王城の魔族たちを守るために……」

「儂がこのポンコツ女神に負けると、本気で思ったのか……?」

「いえ、その時は源之助殿しかおられなかったので、女神の実力は未知数で……状況から魔王様が敗北してしまったものだと判断してしまいました……申し訳ございません」

 

 イグニスは深々と頭を下げる。


「……まあよい。結果的に無用な血を流さなかったということで今回は許す。引き続き儂を支えるのじゃ」

「はっ! 全身全霊忠義を尽くします!」


 俺を勘違いで殺してきたイグニスもどうやら今回は不問ということで、魔王の裁きはこれにて終了らしい。まあ、勘違いしてたわけだから、あんまり責めるのも可哀そうか。俺も殺されはしたものの、こうして魔王に生き返らせてもらっているし……。


「マサト。不満そうな顔をしておるな。儂のあの者らに対する裁きが気に食わぬか……?」


 魔王は俺の浮かない顔を見て、問いかけてきた。


「……いいえ別に。これからのことを考えると、妥当な判断だと思いますけど」

「む……。やはり、納得いかなそうな様子じゃな」


 魔王は俺の声音と表情で、俺が殺され損だったことにちょっとばかし不満を持っているのを察しているようだった。


「……イグニスは、頭は回るが少し頑固なところがあってのう。こうだと思い込んだら止まらんところがある。今回の件もあやつなりに魔王城にいた魔族の者たちを守るためにとった行動には違いないんじゃ」

「俺を氷塊で押し潰したこともですか?」

「……うむ。しかし、だからと言ってイグニスを許すことをマサトに強要するのは違うの……。もし、イグニスを罰したい気持ちがあるなら、代わりに儂が償う。それでイグニスのことは水に流してやってはくれぬか」


 この魔王は、やっぱり部下には甘いというか、部下のことを本当に大切にしているのだなと思う。どうしてそんなに部下想いなのかは知らないが、自分がイグニスのようにミスをした側の立場だったとしたら、これほど頼りになる上司もいないだろうな。


 俺は今回ばかりは部下想いの魔王に免じて、言う通りにすることにした。……償いとか別にいらないんだけど、せっかくだから何かしてもらっとくか。


「魔王様は代わりに償うと言ってくれてますが、それは何かしていただけるってことですか?」

「うむ。儂にできる事であれば、できる限り望みは叶えるぞ」

「じゃあ……日本に戻ったら、俺とデートしてくださいよ」

「でーと、というと、女神とゲンがしたやつのことか?」

「そうです」


 何気に、源に先を越されてしまったので、俺もこの機に大人の階段って奴を昇っておこうかなと、軽い気持ちで言ってみた。まあ、断わられたら何か別のことを頼もう。

 そうだな……例えば、クラスで一番かわいい子に俺の好感度を上げる魔法を使ってもらうとか――。


「それくらいであれば、たやすいことじゃ」

「そうですか。じゃあ……え、いいんですか?」

「うむ。女神とゲンがしたやつ以上の、すごいのをしてやるぞ」


 マジか。……それは意外と楽しみかもしれない。中身は魔王とはいえ、見てくれは俺の推しの可愛いアイドルそのものだし。


「それで……イグニスのことは許してくれるのか?」

「それはもちろん」


 俺は頷くと、それが口だけではないことを示すため、イグニスの元へと歩いていった。


「あの、イグニス、さん?」

「これは、真人まさと殿。先ほどは勘違いしていたとはいえ、話も聞かず殺してしまい、申し訳なかった」


 イグニスが頭を下げ謝罪を述べてくる。


「まあ、勘違いは誰にでもあることです。もう気にしていないので大丈夫ですよ。そんなことより、俺も魔王様の配下に加わりましたので、これからはよろしくお願いします先輩」

「おお、なんとお心の広いお方だ。こちらこそ、よろしくお願いいたす」


 イグニスと、とりあえず和解の握手をして魔王に見せてやる。そんな俺の気遣いが通じたのか、魔王は安心したように顔をほころばせて、微笑んだ。



====================

【あとがき】

第24話を読んでいただき、ありがとうございます♪


あれ、抑止力(玲奈)はどこに……?

ちょっと事情があって、外していますが、

その理由は次回でしっかり(?)描いていきます。


次話は1月15日(月)投稿予定です。

引き続き、お読みいただけると嬉しいです♪

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