第22話 誤解を招くような言い方をしておいて、勘違いしたことを責めるのはやめてもらっても、いいですか?

 俺が自室の扉を開けると、部屋で待っていた魔王は俺の姿を見て、ねぎらいの言葉をかけてくれた。懸念していたことが無事終わったと思って表情がわずかにほころんでいるようにも見えたが、そんな安堵の時間は脆くも一瞬で崩れ去る。


「マキちゃんお待たせ! 私のために素敵な旅行を考えてくれてありがとう!」


 俺の後ろから現れた玲奈れなの姿が目に入り、途端にほころんでいた表情がひきつる魔王。


「ど、どういうことじゃ……なぜマサトの妹がこの部屋に……というか、旅行? 話が見えんのじゃが」


 俺は困惑する魔王の傍に素早く近づき、事の顛末を手短に伝えた。


「ばか……何をやっとるんじゃ! おまえは何のためについていったんじゃ……!」

「す、すみません……さすがにお出かけをドタキャンしたうえ、一人で留守番させるのは、かわいそうで」

「むう……。まあ、確かに可哀そうじゃな」

 

 最初こそ、魔王も怒っていたが、同情を誘うように言い訳をすると、案の定強く責めては来なくなった。


「しかし、本当にエルダーアースにつれていくんか? 少し危険な気もするが……」

「俺と魔王様がいれば、玲奈一人くらいなら何とかなりません?」

「まあ、そうじゃな……。しかし、女神め……余計なことをしおって」


 魔王は女神に対して憤るが、すぐそばに玲奈がいるため、表立って女神を責めることが出来ない。


「マキちゃん、ありがとね♪」


 先日の魔王が使った好感度上昇の魔法によって、まるで付き合いの長い親友かのような状態になってしまった玲奈は、人目もはばからず魔王に抱き着いた。


「う、うむ……礼には及ばぬ。そ、それより……く、くるしいから、離れよ……」

「えーいいじゃん! マキちゃん小柄で抱き心地いいし、なんかいい匂いがするし、ずっとこうしていたいかも……」

「わ、儂はいやじゃ……マサト、たすけよ……」


 玲奈にぎゅうっと抱きしめられた魔王は、必死な表情で俺に向かって手を伸ばす。そんな様子を傍らで見ていた女神は、女の子同士(?)が絡み合う微笑ましい光景を見るにはふさわしくない、邪悪な笑みを浮かべていた。


「やはり、魔王は玲奈さんに対しては、成す術なしということですね」

「……! そうか、玲奈を異世界に連れて行こうとした目的はこれか」

「ふふふ。そうです。玲奈さんはいずれ、魔王が私に対して理不尽な暴力を振るおうとしたときに、止めてくれる存在になると思いましたので♪」

「相変わらず、やることがブレないな……」


 女神が玲奈を異世界につれていくと言い出したのは、己の保身のためだったようだ。


 玲奈に抱き着かれて、助けを求めてくる魔王を救うために、俺は玲奈に声をかける。


「玲奈。そんなことしてないで早く旅行の準備をしてきたらどうだ? 持っていかなきゃいけないものとか、多分あるだろ?」

「……そうね。旅行となると着替えとかいろいろ用意しなくちゃ。出発はいつ?」

「決めてないけど、おまえの準備が出来次第かな」

「え……それを早く言ってよ。すぐ準備してくる」


 玲奈はそう言うと、魔王を解放して、そそくさと自分の部屋へと戻っていった。


「すまぬマサト……助かった」

「いえ、こちらこそ妹がすみません」


 魔王は抱き着かれていた間に魔力でも吸い取られたのかと思うぐらい、疲弊してぐったりと座り込んだ。玲奈の準備が整うまで、魔王のことはそっとしておいてやろう。


 そこで俺は時間潰しがてら、先ほどから一言も発していないげんの方へと視線を向けた。こいつは確か玲奈のことが好きだったはずだが、玲奈が部屋に入ってきてからずっとうつむいたまま会話に入って来なかったんだよな。いったいどうしたんだろうか。


「なあ源。おまえ、なんでずっと黙ってたんだ? せっかく玲奈と話せる機会だったのに」

「……俺は、玲奈ちゃんに合わせる顔がないんだ」

「は? どういうこと? とりあえず詳しく話してみ?」


 俺が源を促すと、源は顔を上げて、先ほど一言も話さなかった理由を語り始めた。


「……俺は玲奈ちゃんのことが好きだ」

「知ってる」

「だが、女神様のことも好きになってしまった」

「それも知ってる」

「昨日俺は、あの後女神様とデートして、その……」


 源が言いにくそうに言葉を区切る。

 俺との戦いに参加する条件として、源は女神とデートをする約束をしていた。寿司屋を後にして、俺と魔王は、女神たちとは一旦別行動となったわけだが、どうやら女神は源との約束をちゃんと守り、あの後しっかりとデートをしたらしい。

 

「うやむやにされず、ちゃんとデート出来てよかったな」

「ああ。でも、そのデートで俺は……大人の階段を昇ってしまったんだ」


 大人の階段? あれ、キスは確か勝たないとしてもらえないんじゃなかったっけ?

いやまて、源は自分の命を顧みず女神の命乞いまでしていたし、特別サービスということもあり得るのか。……それはちょっとうらやましい。


「……ちなみにどうだったんだ? その、初めては」

「ああ、そうだな……女性の肌が、あんなに柔らかいものだとは思わなかった……」

「おいちょっと待ておまえ。一気に大人の階段を駆け上がり過ぎだろ!?」

「ん? 手を繋いだだけだが」

「え……? ああ、なんだそういうことか」

「……なんだと思ったんだよ真人まさと

「……う、うるさい」


 言い方が紛らわしんだよ。そもそも女性と手をつなぐのを大人の階段を昇ったって言うな。

 

「……まあ、でも、それくらいなら別に玲奈は気にしないさ。それにこれから一緒に異世界に行くのに、旧知のおまえに無視されたら玲奈も悲しむと思うぞ」

「むむ……それもそうか。玲奈ちゃんを悲しませるのはまずいな。わかった。玲奈ちゃんにはいつも通り接しよう」

「そうしてくれ」


 せっかく一緒に行くのだから、ギスギスするのは魔王と女神だけで十分だ。しかし源にとっては行き先が異世界とはいえ、好きな女性二人と旅行に行くことになるわけか。……なんだそのリア充過ぎる夏休みの過ごし方は。俺にもあっちで可愛い女の子とのいい出会いがあればいいなと、願わずにはいられない。


 そんなことを思っていると女神に肩を小突かれる。


真人まさとさん、さすがに今の勘違いはあんまりですよ」


 どうやら俺と源のやり取りに聞き耳を立てていたらしく、女神は頬を膨らませ不満顔で俺に抗議してきた。


「え……?」

「あなた、女神わたしの貞操観念を舐め過ぎじゃないですか? 女神わたしがそんなに簡単に下等種族にこの身を許すとでも?」


 そうは言うが、俺が玲奈を使って源を篭絡しようとした時に、だいぶ必死に貞操観念を投げ打って抵抗してきたような……。


「……なんですか。その目は」

「いや、なんでも」

「ならばよいです。今後、私に対して不敬な想像はしないように」


 釈然としないが、この女神は意外とプライドが高そうなところもあるからな。これから一緒に異世界に行くことになるし、ここで変に機嫌を損ねられても面倒と思い、諸々もろもろ指摘するのはやめといた。


 そんな具合に適当に雑談していると、旅支度を終えた玲奈が、部屋に戻ってきた。



====================

【あとがき】

第22話を読んでいただきありがとうございます♪


女神の企ては現時点ではうまくいき、魔王は玲奈に対してたじたじですが、果たしてこの先も女神の思惑通り、うまくいくのでしょうか……?


そして、ついに次話で、異世界へと旅立ちます!


次話は1月10日(水)投稿予定です。

引き続き、お読みいただけると嬉しいです♪


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