第19話 やるべきことが具体的になってくると、話が進みそうな雰囲気になるよね。……雰囲気だけだけどね

 制限結界についての話が一段落したところで、魔王が話題を変える。


「そういえば、女神よ。おまえには、他にも聞きたいことがあったのじゃ」

「な、なんでしょう……?」

「おまえ、ゲンの他にも儂の世界に異世界人を放り込んでおるじゃろ?」


 ギクッ、という効果音が聞こえてきそうなほど、肩をビクつかせた女神は、魔王から顔を背けて、口ごもる。


「えーっと、どうでしたかね……」

「今、正直に言えば、そのことではおまえに危害は加えんと約束してやるが」

「少なくとも、あと十数人は送り込んでいます」


 あっさりと暴露する女神。どうでもいいけど、その異世界転生者、多分魔王がただでは置かないと思うんだが、そんなにあっさりとばらしてしまっていいんだろうか。


「エルダーアースの平穏のために、その者らは始末せねばな。して、いったい、どこに転生させた? 与えたスキルも全員分教えよ」

「え。……エルダーアースの魔王。い、いくら何でも私を見くびりすぎでは? 彼らの命が危ういとわかっていて、素直に教えるとでも?」


 女神は不敵な笑みを浮かべた。しかし、その頬には一筋の汗が伝う。そして、魔王に挑戦的な言葉を放ったにしては、笑みがやや引き攣っているように見えた。


「……実は、儂の得意な魔法に対象の体内にある内臓を魔力で直接捻り潰すというものがあってじゃな。これならば屋内おくないでも使い放題なんじゃが」

「ほら、源之助さん。さっそく出番ですよっ!」


 女神はさっと、肉壁要員である源之助の背後に隠れる。そして、源之助の肉厚な肩口からひょっこりと顔だけ覗かして、魔王の出方を伺っていた。


「あのー、女神様。体ん中を直接攻撃されちゃあ、俺の筋肉では防げないんすが……」

「安心してください。防ぎきれずに何度内臓が捻り潰されて死にそうになっても、何度でも魔法で回復させて、死なせませんから」

「えぇ……」


 ……それは、死ぬよりよっぽど酷い拷問なのでは。


「あの、魔王様。流石に源がかわいそうなので、その魔法は使わないでほしいんですが……」

「安心するがよい。先ほどはあえて言わなかったんじゃが、儂は、女神の生殺与奪の権利を握っておるゆえ、やろうと思えば、いつでもどこでも物理的な障壁に関係なく女神を直接攻撃できるのじゃ」

「なるほど、そうだったんですね。なら別にいいです」

 

 俺がひとまず安心して胸を撫でおろしたのと対照的に、女神は青ざめてガタガタと震えだす。魔王対策で連れてきた源という肉壁を失った今、女神は丸裸で腹を空かしたライオンの前に立っているようなモノだろう。魔王の気まぐれ次第で、いつ殺されるかわからない状況は恐怖でしかない。


「さて、もう一度だけ聞くが、異世界転生者について話す気はあるか?」

「あ、あります! ありますけど……その……さすがに全員分は覚えてなくて……」

「……まあ、おまえほどの駄女神であれば、仕方あるまい。ひとまずは覚えているだけで構わぬ」


 女神のおぼろげな記憶によると送り込まれた転生者(転移者)は――。


1人目:転生者 男

転生場所:人族のどこかの村(農業をやりたいという希望があったので、それっぽいところに生まれ変われるようにしてあげました)

スキル:豊穣の加護(農作物が育ちやすくなるスキルだった気がします)


2人目:転生者 男

転生場所:人族の王都(一番デカい国だったはず)の王族(第一王子)

スキル:鑑定、魔法無効、状態異常無効、不死身、勇者、対魔王耐性、魔王殺しの剣、魔族探知、王のカリスマ、女神の加護(魔王をってくれそうだったので奮発していろいろスキルをあげました)


3人目:転移者 男

転移場所:人族のどこかの村(私に迫ってきてキモかったので、適当なところに飛ばしてしまいました)

スキル:魅了、魔力向上、無限の精力(なんか、ハーレムを作るとか言っていましたよ)


「――っと、こんなところですかね」

「おまえ、十数人と言っていなかったか……まさかこれだけしか覚えとらんのか……?」

「あ、あと、最近で言うとあらゆる攻撃を反射するスキルを持つ男の方を……」

「そやつはもうった。他は……?」

「……」


 残念ながら女神が覚えていた異世界転生者又は転移者は三人~四人ということらしい。それ以上の情報は待てど暮らせど、女神に口から出てくることはなかった。


「……はぁ。もうよい。思い出すことがあったらその時に追加で教えよ。して、マサトよ。どう思う?」

「そうですね……1人目と3人目はしばらく放置してもよさそうな気がしますが、2人目の異世界転生者はそのうち俺TUEEEE!!のテンプレムーブを始めそうで危ないですね。何なら仲間とかあつめて魔王討伐に来そうな気が……」

「おれつえーってなんじゃ?」


 魔王は、俺が放った聞きなれない言葉に小首をかしげる。


「俺TUEEEEっていうのは、簡単に言うと転生者がチートスキル等によって圧倒的な強さを持っている状態のことです。大体その手の奴は、その力を誇示して、普通の人では倒せないような人類の脅威を倒してもてはやされたり、自分に敵対する人間を倒して悦に浸ったりするんです。ちなみに大体の場合、現地の人では太刀打ちできません」

「なるほど。そんな奴を放置しておったら、世界が乱れるではないか。面倒な者を送り込みおって……」

「おっと、約束はちゃんと守ってください。正直に話した以上、この件で私に危害を加えるのは無しですよ」


 怒りのボルテージが上がっていく魔王に対して、女神が釘を刺す。


「わかっておるわ……。さて、そうなると今後は魔道具の作製と女神が送り込んだ異世界人の排除を同時に進めていかねばならぬな」


 魔王は一呼吸置くと、俺に向き直る。


「マサトよ。儂は今から一度エルダーアースに戻り、魔道具作製を配下に命じて、居場所の分かっている異世界人の駆除にあたるが、おまえはどうする? この世界での生活もあるだろうし、無理についてこいとは言わぬが……」


 そんなこと聞かずに強引に連れていくこともできる力を持っているのに、そうはせず、律儀に尋ねてくる魔王。やはり身内には何故か優しいらしい。


 しかし、異世界か。


 そんなの当然、行きたいに決まっている。しかも今は夏休みで両親もいないのだ。異世界行きを断る理由なんて微塵もない。

 むしろ、土下座してでもついていきたいところだ。

 それに、まだ地球が破壊される可能性が残っている以上、魔王から目を離すのは得策じゃない気がする……。


「俺も一緒に行きますよ。異世界転生についてはそれなりに知識もあるから、役に立てると思いますし。あ、一応玲奈には長い留守番をさせることになっちゃうので、一声かけてから魔王様の世界に行く感じにしてほしいですけど」

「それはもちろんじゃ。……ちなみに女神はどうせ暇じゃろうから、エルダーアースに同行せよ。魔道具作製については、おまえに主となって動いてもらう必要があるからの」

「……わかりましたよ(……どうせ拒否権なんてないでしょうし)。源之助さんもしばらくは私に付き合ってくださいね。……多分あなたのことが必要になると思うので」

「……? もちろんです、女神様」


 源之助は快く異世界行きを了承した。


 さてと、それじゃあ、さっさと玲奈に事情を説明して留守番してもらうとするか。


====================

第19話を読んでいただきありがとうございます♪


女神によって異世界にばらまかれた異世界転生(転移)者は意外と多いし、ヤバそうなやつもいて全て始末するのは大変そう笑

前途多難なマサトの夏休みが始まってしまいました(^o^)


次話は明日投稿します。

続きのお話も読んでいただけると嬉しいです♪

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る