第16話 女神様視点の燃えた後のお話 後編

「ふむふむ……」


 この目の前にいる少年は、剛田源之助ごうだ げんのすけというらしい。偶然にも先ほどの冴えない少年と同じ学び舎に通っており、今日から長期の休暇という状況だったようだ。


 この者の死の直前の行動を、魔法で作り出したスクリーンに映しだして追ってみると、体力づくりと称して学び舎の校庭でランニングをしている様子がうかがえた。この者の他にも、同じように校庭のあちこちで、部活動を行っている生徒たちが見受けられる。

 すると、不意に校庭の端で砲丸投げの練習をしていた生徒が、何を思ったのか身体を回転させながら勢いをつけて砲丸を放り投げた。遠心力が加わったことで、大きくアーチを描いて校庭のトラックに向かって飛んでいったそれは、ちょうどそのあたりを走っていた源之助の後頭部に――。


「あら……。どうやらあなたは、陸上部の方が練習中に投げた砲丸が頭に直撃して、死んでしまったみたいですよ。だから記憶がとんでしまったのですね」

「いや、それは覚えています。確かに痛かったですけど、それで死んではいません」

「え……?」


 そんな馬鹿なと思い、改めて映像を見てみると、確かに頭を痛そうに押さえながらも、そのままランニングを続行する源之助の姿が……。


「……結構頑丈なんですね」

「まあ、それだけが取り柄ですから」

「確かに……なかなか立派な筋肉をお持ちのようですし、強い男って感じがしますものね」

「え、あ、はい! 俺の筋肉を褒めてくれて、ありがとうございます!」


(何やらゴリ……源之助さんが異様に感激しているように見えますが、はて……?)


 とりあえず無視して、先を続けて見ていくと、その後帰り道で軽自動車に轢かれるもかすり傷で済み、少し痛がるだけで、源之助は平然と歩いていった。


「……あなた、なんで死んだんですか?」

「それは、俺が一番知りたいんですが……」


 この筋肉ゴリラ、本当に人間……? 死ぬところが想像できないんですが……。


 しかし、そのあと、ようやくこの者の最期に至ることになる。


 死因は溺死+α。


 夏休み初日でテンションが上がっていた源之助は、ランニングだけでは物足りず、そのまま海へ繰り出し、トライアスロンさながらの勢いで泳ぎ始めた。水を掻き分けるたびに躍動する筋肉が、さらなるハードワークを求めていると感じた源之助は、無我夢中で沖へと突き進んでいく。

 しかし、己の筋肉をいじめることに夢中になっていた源之助は正面から近づいてくる遊覧船の存在に気づくことができなかった。源之助は勢いそのまま船と正面衝突。船先の尖っている部分に脳天をかち割られて、激痛とともに海底へと沈んでいった。


「……船に頭割られて死ぬ人なんて、いるんですね」

「……そうですね。俺も見るのは初めてです」


 死因もわかり、自分が死んだことを理解したらしいので、私は愕然とした表情でたたずむ筋肉ゴリラ改め源之助さんに提案をしてみる。


「非常に残念な死に方をしてしまったあなたに、女神として慈悲をあげましょう。具体的にはチート能力を授けてあげますので、異世界という新天地でもう一度生きてみるというのはどうですか?」

「異世界……チート能力……一つ質問していいですか?」

「どうぞ」

「異世界へ行くとしたら、俺の筋肉はどうなりますか?」

「はい……筋肉? えーと、転生なので、当然今の肉体は失って生まれ変わることになりま――」

「それは困る!!」

「ひえっ……!」


 と、とつぜん、野生のゴリラのようにえないでください! びびって、悲鳴が出ちゃったじゃないですか……。


「あ、その、いきなり大声出してすみません。……えーと、この鍛え上げた筋肉とともに異世界へ行く方法はないんですか?」


 源之助さんが申し訳なさそうに謝りつつ、尋ねてくる。

 筋肉ってそんなに捨てがたいものなんですか? 私はゴリラじゃないので、これっぽっちも気持ちがわかりませんが……。


「て、転生ではなく、異世界転移であれば今の肉体のままですが……そうなると、今の肉体に適合するチートスキルしか付与できませんよ。場合によってはチートとは呼べない雑魚ざこスキルしかあげられない可能性もありますし、お勧めはしませんが」

「構いません! この筋肉さえあれば、それでいいんです!」

「そ、そこまで言うのでしたら……」


 どこまで自分の筋肉が好きなんだと半ば呆れつつも、私は仕方がないので、今の源之助さんの肉体であっても付与できるスキルを確認してみる。すると一つだけ、付与できそうなものが見つかった。しかしそれはチートと呼ぶのもおこがましい、ごく普通のスキルだった。


「えーと、大変残念なんですが、今の肉体のままだと身体強化のスキルしか付与してあげられません。まあ、女神である私が付与するので、一般の者が使う身体強化魔法よりもはるかに強力ではありますが、はっきり言って、それでもチートと呼ぶほどではない、たいしたことないスキルです」

「それで構いません!」

「マジですか……」


(こんな雑魚スキルを与えたゴリラをエルダーアースにはなったとして、魔王への嫌がらせになるのでしょうか……)


 そうは思いつつも、他に何かいい考えがあるわけでもないので、私はゴリ……源之助さんにスキルを付与して、さっさと異世界へ転移させてしまうことにした。


 転移魔法の輝きに包まれて、源之助さんの姿が光ににじむ様にして消えていく。


「エルダーアースの支配権を魔王に握られているせいで、私が使う転移や転生は、場所の指定ができなくなってしまったんですよね。……さて彼はどこへ転移したのでしょうか。ヤバい魔物の巣とかだと、戦闘力がわかってちょうどいいんですが」


 魔王への嫌がらせになりうるか確認する意味もあって、私は源之助さんの転移先の映像を神聖魔法で映し出してみた。すると……。


「げっ……ここって、エルダーアースの魔王が根城にしている魔王城では……」


 先ほど魔王が強引に空間転移をしてきたことで繋がったパスがまだ残っていたのか、源之助さんは魔王城の玉座へと転移してしまったらしい。



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第16話を読んでいただきありがとうございます♪


雑魚スキル片手に魔王城の玉座へとぶち込まれてしまった源之助の運命やいかに……!


ぜひ、次のお話も読んでいただけると嬉しいです。

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