第11話 絶対死なないだろと思っていた奴に限って、あっさり死ぬのは、割とよくあることでしょうか?

 魔王の感情の高まりを受けて、周りの空気がにじむように揺らぐ。まるで真夏の陽炎のように。


「……マサト。おまえが、女神の配下とやらを倒せ。負けることは許さぬ」


 いやいやいや。無理でしょ。俺、一般人だし。なんなら、もし女神がそこら辺の喧嘩慣れした不良(一般人)を繰り出してきたとしても、勝てる自信が全くないんだが。そもそも喧嘩とかしたことないし。


「えーと、魔王様。俺、あの時女神からチート能力をもらったわけでもないし、ただの雑魚い人間なんですよ。もし女神がチート能力持ったやつとか繰り出してきたら、たぶん瞬殺されます」

「……仕方ない。これを使うがよい」


 魔王は、そういうと右手に何やら禍々しいオーラを凝縮し始めた。そして、手渡されたのは真っ黒い物体。それは、身に着けるのはさすがにイタいなと思ってしまうゴツメの黒光りする指輪だった。


「魔王様。これは……」

「儂の魔力の4分の1を込めた。それがあれば、負けることはあるまい」

「ちなみに魔王様の魔力の4分の1って、実際はどれくらいの力があるんですか……?」

「儂がマサトの星を破壊しようとした時があったじゃろ。その時生成した魔力球くらいなら、3発は撃てる」

「マジすか……」


 俺はどうやら、地球を3度破壊できるだけの力を魔王から授かってしまったらしい。これ、ある意味女神からもらうチート能力よりヤバい代物では……?


 魔王によると、指輪を身に着けているだけでそれなりに身体が頑丈になり、さらには魔法をイメージするだけで、魔力が続く限りそれが行使できるとのこと。そして、発動に呪文の詠唱等は一切必要ない。いわゆる無詠唱魔法が打ち放題ということらしい。


「あれ、でも魔王様はいつも、魔法を使う時に指パッチンしてません?」

「それは……、む、無言で魔法使うより、その方がかっこいいじゃろうが……!」


 ちょっと照れ臭そうに、魔王は顔をそむけた。怒りに満ちていた雰囲気が若干和む。


 とにかく、余裕で戦えそうな力……むしろ加減が難しそうな力を手にした俺は、女神の方へ視線を向ける。すると女神は腕を組み、目を瞑ってぶつぶつ言っていた。


「えーと、そちらの配下の方は?」

「ちょっと待ってください。今、ついさっき異世界転移させてあげた者と交渉中なのです」

「あ、そうですか……」


 女神の方には常設の配下などいないらしい。あれだけそれっぽいことを言っていたものの、やはり本当のところは、自分で魔王と戦うのが嫌だっただけなのだろう。


 そして、またしても異世界転生者(今回は転移者のようだが)を生み出したという女神の言葉を聴いて、魔王の怒りは再燃し、額に青筋を浮かべていた。


「マサトよ。何なら最大出力で広範囲に獄炎魔法を放って、敵を女神もろとも消し去ってしまってもよいからな」

「……いやいや、女神の相手は魔王様に任せます」


 どうやら魔王は、女神を燃やしたくて仕方がない様子。


 とはいえ、さすがに神を殺すなんて罰当たりなので、俺が直接女神に手を下すのは嫌だ。そういうのは、魔王自身の手でやってもらいたい。


 そんなやり取りをしているうちに、女神の方も交渉が終わりそうな雰囲気になっていた。


「……わかりました。この際、仕方がありません。あなたの追加の望みをかなえましょう。ですから、私に仇を成す、極悪非道にして冷酷無比の巨悪、異世界の魔王の手先と戦ってください」


 話がまとまったらしい女神は手をかざすと、黄金に輝く魔法陣が出現した。まばゆいばかりの輝きを放つ光の柱が形成され、そこから一人、おそらく女神が呼び寄せたであろう異世界転移者が歩み出てくる。


「さて、女神様を困らせる極悪非道の魔王の手先とやらはどいつだ?」


 光の柱から現れた人物を見て、俺は一瞬言葉を失った。


「……あれ? げん?」

「ん……? なんで真人まさとがこんなとこにいるんだ?」


 なんと女神が召喚したのは、俺の唯一の幼馴染である剛田源之助ごうだ げんのすけであった。


「確か転移者を呼ぶって……てことは、げん。おまえ、死んだの?」

「おお。実は今朝、死んじまってな。女神様に異世界に転生というか、転移させてもらってたんだわ」

「マジかよ」


 こいつも夏休み初日に死んでたのかよ……。なんか、死って、意外と身近に転がっているんだな。しかし、いったい何でこいつは死んだんだ。正直死ぬ姿が全く想像できないんだが。


 剛田源之助ごうだ げんのすけは俺の唯一の幼馴染だ。できるなら小柄で可愛い女の子と幼馴染になりたかったのだが、こいつは俺の望む幼馴染像とはあらゆるステータスにおいて真逆を行く存在である。身長180㎝超えの大男でゴリ……古代ローマの屈強な戦士のような筋骨隆々の体躯。趣味と生きがいは筋トレで、特技はベンチプレス200キロまで上げられる事。

 正直、トラックに轢かれたくらいじゃ死ななそうなんだが……。


「こやつは、マサトの知り合いか?」

「ええ、俗にいう幼馴染というやつで、唯一の気心知れた友達ですね」

「そうか……」


 これから俺が戦う相手が親しい者だと知って、魔王が少し申し訳なさそうな顔をした。


「おい、真人。そちらの可憐な女の子は、まさかおまえの彼女とか言わないよな?」

「そんなわけ。この方は魔王様で、俺はその部下ってことになってる」

「なに? じゃあ、おまえたちが女神様に仇成す敵ってことなのか?」

「まあ、そうなるね」


 げんは女神様の方へと振り返り、問いかける。


「女神様。なんか聞いてた話とは違いそうなんですけど。片方は俺の幼馴染なんですが……。こいつら、いうほど極悪非道で冷酷無比の巨悪なんですか?」

「そ、そうですよ! 少年の方は正直よく知りませんが、魔王の方は間違いありません。世界を統べる女神である私のことを、獄炎魔法で焼き尽くそうとしたのですから!」

「そうですか。うーん、でも真人と戦うのは気が進まないんだよなあ」

「いいんですか? そんなこと言ってると、さっき約束した追加の願い……その、で、デート、してあげませんよ?」


 女神が若干照れくさそうに頬を染めて、そんなことを口にした。


「それは困る! 俺にとっては人生初の女性とのデートなんですから! ……わかりました。涙を呑んで、俺は真人と戦います」


 なるほど。さっき女神が交渉の際に口にしていたげんの追加の願いとやらは、女神とデートすることだったか。確かに彼女もおらず女っ気のない人生を送ってきたげんにとっては、壮大な願いに違いない。しかし、俺との友情より女神とのデートを取るのか……。まあ、逆の立場だったら俺も女神とのデートを取るか。


「真人、親友であるおまえならわかってくれるよな? 女の子と一度もデートできずに死んじまった俺の無念さを」

「まあ、わからんでもないけど……」


 確かに残念だよな。同情はするよ。

 

「なら、すまんが俺と戦ってくれ。なに、できるだけ死なないように加減はするから安心してくれ」


 げんは俺に向き直り、拳を構えた。


 向こうがやる気ならしょうがない。

 喧嘩なんてしたことないから、よくわからないけど、とりあえず拳を握りそれっぽい構えをしてみて、戦う意志を示した。



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第11話を読んでいただきありがとうございます♪


新キャラはゴリゴリの筋肉男子!

果たして真人は、幼馴染のゴリラに勝てるのか……?


面白いと思っていただけたら♡応援&☆レビューいただけると、執筆意欲が上がりまくって、作者が覚醒します\(^o^)/


ぜひ、次のお話も読んでいただけると嬉しいです。


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