第6話 妹があまりにも好戦的すぎるんですが、思春期の女の子ってみんなこうなの?って聞きたいけど俺には女友達なんて一人もいないんだった……かなしみ( ;∀;)

「……はあ? てか、あんた誰? お兄ちゃんとは、どういう関係?」


 玲奈れなは金髪ツインテを揺らしながら、赤い瞳(カラコン製)を細めて魔王を睨みつける。


 おいおいやめとけガン飛ばすな。こいつ魔王だから。燃やされるぞ。


「儂は魔王マキナ・クロステッドじゃ! おまえの兄は、我が軍門に下ったゆえ、いまは配下の一人じゃ」


 魔王は生意気にもガンを飛ばしてきた玲奈に対して、意気揚々と胸を張って威厳を示す。

 まあ、今はスーパーアイドルのアイルたんの姿ゆえに可愛さの方が先に立つが。


 そんな魔王を、軽蔑の色を深めた半眼で、負けじと睨み返す玲奈。


「……魔王? あんたお兄ちゃんと同じ高校の制服を着てるってことは、私より年上よね? いい年して自分のことを魔王とか言ってて、恥ずかしくないの?」

「は、恥ずかしいじゃと……」


 おい待てなに魔王に喧嘩売ってんの? 死ぬぞ?


「あと、お兄ちゃんのことを配下とか、マジでなに言っちゃってんのって感じなんだけど? なんかのオタク的なプレイとか? ……キモいんだけど」

「わ、儂は――」

「しかも儂って、なに? しゃべり方もババ臭いし。ああ、もしかしてこれが、お兄ちゃんがよく言ってる、ロリババアってやつ? リアルでやってるとか、普通に引くんだけど」

「――ッ」


 おいいいいいい! 魔王様が怒りで震えてらっしゃるぞ!


 俺は魔王が怒りに任せて妹を消し炭にしてしまわないように、二人の間に割って入った。万が一手違いで俺が燃やされたとしても、さすがに生き返らせてくれるだろ。


「魔王様! 妹の無礼は代わりに俺が謝ります! だから何卒、妹を消し炭にするのだけは……って、あれ?」


 てっきり怒り任せに指パッチンをして魔法を発動してくると思いきや、魔王の様子がおかしい。


 何やら俯いて、肩を震わせてらっしゃる。耳を済ませれば、かすかに嗚咽のようなものが……。


 ……。


 ……あれ。もしかして、泣いちゃった?


「あのー。魔王様?」

「うっ……えぐ……なんなのじゃ……おまえの妹はなんなのじゃ」


 魔王は妹の言葉攻めでメンタルをやられてしまい、号泣していた。


 この魔王、強いくせにメンタルは豆腐なのかよ……。


「儂はただ、おまえらのいさかいを止めるためにマサトの記憶を消して、この場をおさめようとしただけなんじゃぞ……それなのに……なぜこんなに、ボロクソにいわれなきゃならんのじゃ……っ」


 魔王は嗚咽交じりに、涙交じりに、恨めしそうな視線を向けてくる。


 ……た、たしかに。

 俺の記憶を消し飛ばそうとしたことはさておき、善意で仲裁を買って出てくれたにしてはあまりにも酷い仕打ちであることには同意できる。


 さすがにかわいそう。


「なあ、玲奈」

「な、なによ」

「さすがに泣かせることは、ないんじゃね?」

「う……、ま、まあちょっと言い過ぎたかもしれないけど」


 玲奈はバツが悪そうに顔を背けた。


「謝っといた方がいいんじゃないか?」


 メンタル回復した後が怖いし……。おまえ、もしかしたら女神様と同じ末路をたどるかもしれんぞ……。


 俺が玲奈の罪悪感を掻き立てるようにじっと視線を送り続けると、玲奈は観念したように息を付き、魔王に向き直った。


「あの……言い過ぎました。ごめんなさい」


 玲奈は魔王に、頭を下げた。基本俺以外に対しては素直に謝れる妹だった。


「もう、儂のことを悪く言わんか……?」

「それは……まあ」

「……ならば、許そう。もう二度と儂にあんな恐ろしい言葉攻めをするでないぞ」


 魔王はなんとか落ち着きを取り戻しつつあった。


 しかし、そもそもこの魔王、当初言っていたことはどうしたんだろうか。出会い頭にさっさと魔法で玲奈の記憶を改竄かいざんしてしまえば、むやみにののしられることもなかったんじゃなかろうか。


「で、私のことを止めたんだから、当然何かいい方法があるってことなのよね? なんか記憶がどうとか言ってたけど」


 玲奈は魔王に向かって、何故か上から目線で問いかけた。こいつ絶対魔王を舐めてる。もしかしたら玲奈の奴、魔王のことを頭のおかしい気弱な女子程度にしか思っていないのではなかろうか。


 魔王はなぜか俺の方を向くと、小さな声で何やら言ってくる。


「おまえの妹、さっきから怖いんじゃが……どうにかならんか?」

「記憶を改竄するとか、服従させる魔法とか、そういう便利な魔法を使えばいいんじゃないですかね?」

「おまえ……自分の妹に対して意外と冷たいのう……。おまえの妹じゃからといきなり魔法をかけるのを遠慮していた儂がアホみたいじゃないか」

「さすがに燃やすとか言い出したら止めますけど、ちょっとコミュニケーションを円滑にするための魔法をかける程度であれば、別にいいんじゃないですか」

「そこまで言うなら、儂も遠慮せんが……」

 

 魔王は玲奈に向けて、いつもの指パッチンを行った。

 すると、玲奈の目から挑戦的な雰囲気が消え去り、穏やかな表情になる。そして魔王に向かって、親し気に話しかけ始めたではないか。


「ねえ、マキちゃん。もし暇だったら、これから一緒にお出かけしない? せっかくだから日本の楽しいところ、いっぱい案内してあげるよ?」

「うむ。儂はこの後用事があるのでな。また今度頼むぞ」

「え~残念。マキちゃんと一緒にお出かけしたかったのに~。じゃあ、明日! 明日行こうね!」


 さて、魔王はいったい玲奈にどんな魔法をかけたのか。完全に別人になってるんだが……。


「とりあえず、先ほどマサトが言っていた通りの記憶改竄に加えて好感度を上げる魔法をつかってみたんじゃが、……好感度を上げすぎたかもしれんな」

「好感度を上げるとか何その超絶便利魔法。それ使えば俺も最強のモテ男になれるじゃないですか!」

「なんじゃマサト。おまえモテ男になりたいのか?」

「それはもう! ぜひとも!」

「割りと魔力使うからあんまし使いたくないんじゃが、まあ部下の頼みじゃ。一回くらいなら使ってやろう」


 そういうと魔王は、パチンと小気味よく指をはじいた。


 ……玲奈にむけて。


「おいまてなにやってんだあああああああ。貴重な一回をよりにもよって、この世で一番やる必要ないやつにつかうなああああああああ」


 俺は絶叫した。


 いや、妹の好感度上げてどうすんねん。


 終わった……。


 さらば、モテ男の夢……。


 愕然として肩を落とした俺のことを訝しげな表情で、じっと見つめてくる玲奈。 


 好感度が上がったことで心配でもしてくれているんだろうか。

 でもね、俺は妹じゃなくて、かわいい女の子に心配されたかったの。


 でもまあ、仕方がないか。

 今更文句を言ってもしょうがない。どうせ、棚から牡丹餅ぼたもち的な話だったわけだし、終わってしまったことはもう忘れよう。


 まあ、妹に好かれるのもいいじゃないか。

 少なくともこれまでのように罵詈雑言を浴びせられなくなるだけで、精神衛生は改善されるわけだし。兄妹仲が良くなるのはいいことだ。


「なあ、玲奈。お兄ちゃんのこと、好きか?」

「…………………はあ? いきなり何言ってんのキモ過ぎ。顔見てると吐きそう。さっさと部屋から出てって!」


 俺は玲奈に蹴飛ばされて、部屋から追い出された。


 ……あれえ? 好感度あげる魔法って一体……?



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第6話を読んでいただきありがとうございます♪


魔王様はこれまで圧倒的な力で敵対するものをねじ伏せてきたので、口喧嘩とかはよわよわで言葉攻めに晒されるとメンタルが持ちません。

回を重ねるごとに魔王様が弱体化しているような気がしますが……バトル小説じゃないのでまあ、良しとします(笑)


面白いと思っていただけたら♡応援&☆レビューいただけると、執筆意欲が上がりまくって、作者が覚醒します\(^o^)/


ぜひ、次のお話も読んでいただけると嬉しいです。

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