第5話 妹キャラに幻想を抱いてる奴は一人っ子か男きょうだいしかいなかった奴だけだから。現実に妹がいる奴は妹キャラは絶対推さないから。……え、そんなことはない?

「ふぐ……うぅ……なんで……なんで、死んじゃったの……いやだよぅ……」


 俺は、そっと妹の部屋の扉を閉じた。


 ……。

 …………。


 …………んん??


 なんであいつ泣いてんの??


「マサトよ。儂には、おまえの妹はおまえの死を心から悲しんどるように見えるのじゃが」

「えーと……確かにそんな風にも見えましたね」

「そんな風にしか見えんかったが」

「うーん……」


 ……意味が分からない。

 あいつは俺に対して、真夏に飛び回る蚊に向けるのと同等くらいの感情しか待ち合わせていないと思っていたんだが。


「……とりあえず、ここはスルーして、外に行きませんか?」

「さすがに畜生ちくしょう過ぎぬか? 魔王の儂ですら、それは引くぞ。……とりあえず声をかけてみよ」

「ええ……」


 声をかけるったって、俺、この世界では死んだことになっているんですが。そんな状況で妹に話しかけたら、いったいどんな反応をされるのやら。


 しかし、声をかけてみろという魔王の命令(なのか?)に逆らうわけにもいかない。万が一魔王のご機嫌を損ねようものなら、俺はきっと、即座に燃やされることになる。


 ちらりと魔王に視線をやると、俺のことをじっと見つめて、早く話しかけろよと言外に圧力をかけてくる。……わかりましたよ、話しかけますよ、話しかければいいんでしょ。


 俺は再び、こっそりと妹の部屋のドアを開けると、ちょうど気持ちが落ち着いたのか、ベッドの上で身体を起こした玲奈と目が合った。泣きはらして真っ赤になっていた目が俺の姿をとらえて、大きく見開かれた。


「え……。おにい、ちゃん……? なんで……」

「よ、よう。おつかれ」


 いやいやいや。妹に対しておつかれってなんだよ。いきなり目が合ったもんだからついバイトで言い慣れてる挨拶が出ちゃったよ。


「……そっか。そういうことか」

「え……」


 なぜか玲奈はすべてを察したかのような表情を浮かべた。

 えーと、何を察したのこの子。


「……天国に行く前に、幽霊になって、最後に私に会いに来てくれたんだ」

「え……いや、ちが……」


 俺達って、そんな素敵なイベントが発生するような仲でしたか? 違うよね?


「私、お兄ちゃんにはひどいこと言ってばっかだったよね……ごめんね」

「あ……うん」


 なんか勢いで、今生の別れ際の懺悔みたいなのを受け入れるかのように頷いてしまったけど、俺まだ生きてるよ。それをまずは妹に伝えないと。


「えーと、俺さ――」

「でもね。あれは全部本心じゃないんだよ。なんていうか、その……私も、もう15だし、面と向かってお兄ちゃんと話したりするのは、なんか照くさくって……ついつい、思ってもないことをいっちゃってたというか……」

「あ……そういうこともあるよね。年頃だもんね。で、俺さ――」

「でも本当は、私、お兄ちゃんのこと全然嫌いじゃないというか、むしろ好きというか……いや、もちろん、家族として! 人としてだから! そこは、勘違いしないでほしいというか……」

 

 ちょっとまてなんか勢いよく語り始めたんだがこの妹。しかもこれ絶対あれだろ。俺が死んだと思っているからこそ言える系の話だろ。こんな話聞いちまったら、後が怖いんだが……。


「でも、お兄ちゃんは、交通事故で死んじゃって……」

「死んでないよ」

「え……。いや、死んじゃって……」

「いや、死んでないよ」

「え……」

「死んでない」


 時が止まる。


 ……。

 …………。


「……でも、さっき電話で病院の人から、お兄ちゃんは首の骨が折れて即死だったって……」

「なんやかんやあって、実は死んでなかったというか」

「だって、首の骨折れたんだよ……?」

「いやー、最近の医学ってすごいよなー」

「でも、即死……」

「……目の前にいる俺が、幽霊に見えるか?」


 玲奈は恐る恐る俺の顔に手を伸ばしてくる。そして肌に触れた瞬間、驚きに目を見開いた。


さわれる。あたたかい……生きてる?」

「そうだよ。おまえが大好きなお兄ちゃんは、ちゃんと生きてますよ」


 しかし、まさか玲奈が、実は俺のことをしたっていて、暴言は単なる照れ隠しだったとは。これからは罵倒されても無暗に嫌悪せず、温かい目で見守ってやるか。


「……それは、話が違くない?」

「はい……?」


 さっきの語り口的に、てっきり俺が生きていたことで、喜びをあらわにするかと思いきや、玲奈は表情が抜け落ちたような、むしろ、見慣れたいつもの嫌悪感を表出させた顔で俺のことを睨みつけてきた。


「……さっきの話は全部、嘘だから」

「それは、俺のことが大好きって話のこと?」

「大好きなんて言ってない。虚言きょげんくなきもい」


 たしかに、好きとは言っていたが、大好きとは言われてなかったか。しっぱいしっぱい。


「……もうだめだ。このままだと、私がお兄ちゃんのことを好きなブラコンだという根も葉もない噂を、お兄ちゃんにSNSとかで広められて、私は社会的に死ぬことになる」

「いや、それやったら俺も被害を受けるからね」


 むしろ、実の妹をたぶらかした鬼畜なシスコンとして、世間から後ろ指刺されることになる俺の方が、ダメージでかくないか。


「……こうなったら、お兄ちゃんを殺して、私も死ぬしか……」


 玲奈は机に置いてあった鋏をつかみ取ると、俺に向けてくる。


「ちょ、ちょっと待て。と、とりあえず話し合おう。文化的に解決しよう。な?」

「話し合いなんて無駄。お兄ちゃんの記憶を消し去るか、それとも命を消し去るか。それ以外に解決の方法はない!」

「ちょっとまてええええええええええ」


 玲奈は躊躇なく鋏を振りかぶり、俺のことを突き刺そうとして――


 ――寸前のところで魔王が間に割って入り、玲奈の鋏を素手で受け止めた。


「話は全て聞かせてもらった。儂に任せるがよい」


 魔王はそう言うと、玲奈の手から鋏をあっさり奪い取り、床に放り投げた。




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第5話を読んでいただきありがとうございます♪


妹キャラを登場させてみました。

難しいお年頃の女の子(割と凶暴系)なので、扱いが大変そうですが、きっと今後の物語を面白く盛り上げてくれるはず……


面白いと思っていただけたら♡応援&☆レビューいただけると、執筆意欲が上がりまくって、作者が覚醒します\(^o^)/


ぜひ、次のお話も読んでいただけると嬉しいです。

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