第4話 さすがに魔王の姿をさらけ出して街中を歩くわけにはいかないですよね。でもよく考えたら売れっ子アイドルに化けさせるのも目立ちすぎる気がしないでもない

 何とか地球を消滅させようとする魔王をたしなめることに成功した俺は、再び自分の部屋に戻ってきた。


「さて、マサトよ。まずはどうするんじゃ?」

「そうですね。ひとまず、街をぶらつ……調査してみるのは?」

「ふむ。確かに、異世界転生者どもの暮らしぶりには興味がある。その策、採用じゃ」


 早速部屋を出ようとする魔王を俺は慌てて止める。


「ちょっと待ってもらってもいいですか?」

「……またか。今度はなんじゃ?」

「さすがにその格好で外に出るのはまずいというか」


 魔王は中身はさておき、見た目は美女ではあるものの、それを差し引いても余りあるほどに凶悪な悪魔のような風体なので(羽とか角とか生えてるし……)、このまま外を出歩くと、街の人から頭のイカレたコスプレイヤーとして奇異の目で見られたあげく通報されかねない。


「魔族など、珍しくもなかろう。儂も羽をたためば、一般の魔族に見えなくもない」

「そもそもこの世界に一般の魔族なんていないんですが」

「え……」

「いませんよ魔族」

「魔族がおらん世界とか、あるんじゃな……」


 魔王は今日一番の衝撃を受けたと言わんばかりに目を丸くした。


「ですので、見た目をどうにかしていただかないと、さすがに外には……」

「そうか……。ならマサトよ。儂は擬態魔法で変身するゆえ、何かよさげな素体なりを示すがよい」

「それって、こんな感じでって言ったら、そのとおりの姿になれるってことですか?」

「当然じゃ。儂に不可能はない」


 マジか。すげーな。こういうところはさすが魔王。


「ちょうどいい例があるので、俺のスマホをいったん返してもらってもいいですか?」

「スマホ……ああ、さっきのか」


 魔王は懐から俺のスマホを取り出すと、素直に返してくれた。


 俺はスマホを起動すると、画像フォルダを漁る。

 さて、と。どんな姿にもなれるっていうんなら……当然、めちゃくちゃかわいい俺がイチオシの美少女になってもらう以外あるまい。

 そうでなくともついさっきこの魔王によって、チートスキルの獲得と異世界転生のチャンスを潰されたのだから、少しくらい俺に役得がある変身をさせても罰は当たらないだろ。


「……で、これになれと?」

「そうです。これ以外にあり得ません!」

「やけに推すな……。して、この風体は魔王としての威厳を損なうものではないのだな?」

「当然です。なんならこの世界(の一部)で崇められます」

「よかろう。ならば、この世界での儂の姿は、これにしよう」


 魔王は例のごとく指パッチンをすると、瞬く間に全身が邪悪な闇のオーラに包まれた。そして数秒後、霧が晴れるようにオーラが霧散していくとそこには、俺の最押しの黒髪清楚系アイドル様がいた。


「アイルたん……」

「は……? いきなり気色きしょく悪い顔してどうした。もしかして失敗したか?」

「いやいやいや、完璧で究極に成功してますありがとうございます」

「????」


 魔王は俺の様子を見て、怪訝そうな表情を浮かべるが、アイルたんの顔でそんな表情をされても可愛すぎるので困る。本当は異世界転生チート無双ハーレムしたかったが、これはこれでありかも……!


「で、これなら外に出ても構わんか?」

「さすがにライブ衣装のままだと目立ってしまうので、こんな感じのファッションに変えてもらえますか?」

「注文が多いな。まあよいが」


 しぶしぶ魔王は俺がスマホに映し出した、我が母校の女子制服(ブレザー)にまたまた魔法の力で着替えてくれた。


「……これで、もうよいか?」

「ばっちりです」


 俺はサムズアップして魔王の偉業をたたえる。まさか、うちの高校の制服を着たアイルたんを拝むことが出来ようとは……。


「そうじゃ。外に出る前に一つ、確認しておかねばならんことがあった」

「何でしょう?」

「この家にもう一人、人間の気配を感じるのじゃが……。マサトの家族か何かか?」

「ああ、それなら一個下の妹の玲奈れなですね。両親は海外出張でいないので」

「そうか。そやつがマサトの妹だというのなら、事前に言っておくが、儂はこれから出会う者に対して、儂の存在を疑問に思われぬよう記憶をいじってまわることになるが、かまわんか?」

「えーと、それは魔法で?」

「そうじゃ」

「それを使うと、何か人体に悪影響とかは?」

「少し記憶をいじるくらいなら、とくにはなかろう。まあ、他の記憶とあまりにも矛盾が起こると頭痛がするかもしれんが」


 まあ、大きな問題がないなら大丈夫か。


「ちなみにどういった感じで記憶改変するんですか?」

「よくぞ聞いてくれた。それはマサトよ、おまえが考えるんじゃ」

「え……俺?」

「儂はこの世界の常識に疎い。だから、儂がこの家に居ても何ら不自然でない理由をマサトが考えよ」


 この魔王、はじめから俺にそれを考えさせるつもりでこの話を振ったのか。


 しかし、魔王がこの家に同居していても不自然でない理由か……。まあ、ありきたりだがこんなかんじでいいだろう。


「魔王様は海外からの留学生で、うちの親の伝手つてで海外からのホームステイ先として、我が家に泊まっている。……ということでいいんじゃないですか」

「うむ。よくわからんが、その案で行こう」


 方針が決まり、魔王は部屋出ていこうとするので、俺はそれに続く。


「そういえばマサトの妹はどんな娘なんじゃ?」

「生意気なクソガキですよ。顔を合わせれば罵倒しかしてこないし、金髪で赤いカラコンなんかしちゃってる痛々しいギャルです」

「言ってる言葉に一部意味が分からん単語が混じっていたが、その言い草は、不仲であるという認識であってるかの?」

「そうですね。最近は会話もなく、顔を合わせてもうざい、きもい、死ねとしか言われた記憶がないです」


 車に轢かれて死ぬ前にした最期の会話(?)も、階段で偶然鉢合わせたときに、俺が挨拶してやった返答として頂戴ちょうだいした「うざ、死ね」というお言葉だった。

 昔は「大きくなったらおにいちゃんとけっこんする~♡」みたいなことを言って、俺の後ろをひょこひょこついてくるような、かわいげのあるキッズだったのに、いつからか俺に対しては罵倒BOTみたいになってしまった。


「……本当に不仲か?」

「それはもう。今頃うざい兄が死んで歓喜の涙でも流してるんじゃないですか?」

「なら、その扉をこっそり開けて、中を覗いてみるがよい」


 魔王が指さす先は、まさしく妹の部屋だった。扉には可愛く♡で囲われたプレートにひらがなで「れな」と書かれている。


「なんでこっそり? まあ、ノックしても部屋に入れてくれる可能性はゼロだから、別にいいですけど」


 俺は、音を立てないように扉をそっと開けて隙間から、部屋の中を覗き込んだ。


 そこには、ベッドにうつ伏せになり、枕に顔をうずめてすすり泣く、妹の姿があった。


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第4話を読んでいただきありがとうございます♪


描写が少なすぎて忘れ去られていたかもしれませんが、魔王様はこれまでずっと魔王様フォルム(角とか羽とか生えてる状態?)で動いていたので、さすがに人間界では別の恰好を……ということ魔王様アイドルフォルムが爆誕しました。


面白いと思っていただけたら♡応援&☆レビューいただけると、執筆意欲が上がりまくって、作者が覚醒します\(^o^)/


次話は新キャラ『妹』が登場する予定です。


ぜひ、次のお話も読んでいただけると嬉しいです。

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