第3話 俺がわが身可愛さに魔王に屈服したと、いつから錯覚していた?/魔王の配下になったふりをし、世界が滅ぼされないように誘導することで守るつもりだったのさ。……本当だよ?

 人間が宇宙空間に生身で放り出されたらどうなるでしょう?

 答えは簡単。

 死ぬ。


「お……ごえ……ぐ……」

「ふむ。ここまでくれば、爆発の衝撃で死ぬことはあるまい」


 いや、その前に死ぬ。

 何とかしてくれ魔王。


「ぐ……ごえ……」

「しかし、こうしてみると、なかなかきれいな星ではないか。離れてみると気づく美しさもあるものじゃな」


 すぐそばで汚いうめき声をあげている部下の声にも、いい加減気づいてくれ……。


 しかし魔王は、かたわらで窒息及び凍死並びに体液蒸発の危機に瀕している俺の存在をすっかり忘れて、青い惑星の美しさに見入っていた。


 ぐるじい……もう、いぎが…………あ……。


 ――。

 ――――。

 ――――――。


 ……は!?


「お、気づいたか小僧」

「あれ、俺……」

「死んでおったぞ」

「……でしょうね」

「すまんな。人族は海でも空でも生きられないということを忘れておったわ」

「……次からは、ちゃんと人間の生態を覚えておいていただけますかね」


 この魔王には言っても無駄だと思いつつも、形だけでもお願いはしておく。一応配下だからか、死んでも生き返らせてはくれるみたいだけど、そもそも死にたくない。苦しいし……。


「一応小僧の周囲にも儂の魔力で防壁を張ったから、これで万全じゃ。さくっとこの星を消そう」

「えーと、この星を消すの、ちょっと待ってもらっていいですか?」

「……まだ何かあるのか。そろそろ、うざいんじゃが」


 さすがの魔王もそろそろ機嫌が悪くなってきていた。このままだと燃やされかねない。何とか機嫌を取るべく俺は、無い知恵をひねり、とっさに思いついた、とある提案をしてみることにした。


「……なぜ、この星から異世界転生者が多く生まれるのか。知りたくないですか?」

「ぬ……。確かに興味はあるが……星ごと消し飛ばせば、そんなこと気にする必要もないじゃろ」

「考えが甘いですね。魔王様ともあろうお方が、甘すぎる」

「なんじゃ小僧。儂に喧嘩を売っておるのか?」


 やべ……ちょっと言い過ぎた。


「すみませんすみませんそんなつもりはないですごめんなさい。……ただ、ちょっと考えてみてほしいなって思っただけですはい」

「考えるじゃと? いったい何を」

「この星を今滅ぼしてしまえば、短期的には異世界転生者はいなくなるでしょう。しかし、またしばらくして異世界転生者が現れたら?」

「そしたら、またその星を消すだけじゃ」


 まあ、知ってた。この魔王なら間違いなくそう答えると思ってた。けど……。 


「……じゃあ、その次、また異世界転生者が現れたら、その星もまた消しに行くんですか? 毎回それをするのは、めんどくさくありませんか?」

「むむ。確かにめんどいの」

「でしたら、今せっかく異世界転生者が多く生まれるこの世界に来ているのですから、その原因を見つけ出して、もう二度と異世界転生者が現れないように対策を考えた方が、長期的に考えたら、よくないですか?」

「……なるほど。確かにその通りじゃ。小僧、頭いいな。その策は採用じゃ」


 ……あれ、なんか、思いのほか簡単に魔王を言いくるめられたな。

 案外ちょろいぞこの魔王。


「正直、小僧のことは、大して役に立たなかったし、この星を消滅させ終わったら、ペットの魔獣の餌にしようと思っておったが、異世界転生者が発生する原因究明のために尽力するというなら、儂の側近の一人に加えてやってもよいぞ」


 おいこの魔王しれっととんでもないことぬかしやがったぞ。俺はよくしゃべる猿どころか、ただのペットの餌として処理される予定だったらしい。

 どうやら思い付きの提案で、期せずして地球だけでなく自分の命をも救ってしまったようだ。

 ともあれ、この場は素直に魔王に従っておく方がいいだろう。


「ぜひとも、誠心誠意やらせていただきます!」


 俺は深々と頭を下げた。宇宙空間ゆえに、お辞儀の勢いで身体が縦回転を始めてしまい、自分では止まれなくなってしまったが、魔王には俺の誠意は伝わっただろう。

 

 しばらく回転したまま放置されていたが、俺が自分では止まれないことをようやく察した魔王がタイミングよく俺の頭をつかんで、回転を止める。そして、


「儂はエルダーアース含め七つの世界を統べる魔王、マキナ・クロステッドじゃ。小僧の名は何という」

只野真人ただの まさとです」

「ただのマサトか。ふむ、謙遜しなくともおまえはなかなか頭がいい。今日からはただ者ではないマサトと名乗ってよいぞ」

「あ、いえ、只野ただのはファミリーネームで……」

「え……」


 ――。


 気まずい沈黙。

 魔王は勘違いした恥ずかしさもあってか、口を半開きにしたまま固まっている。

 

 ……どうする? この際、仕方がないから、ただ者ではないマサトと名乗ってやって、魔王の失敗をリカバリーしてやるか?


 そんなことを無駄に悩んでいると魔王はようやく止まっていた時間が動き出したかのように口開く。


「……ふむ。タダノマサトか。特にとりとめのない感じの、よい名じゃな」


 おいこの魔王、さっきのミスったやり取りをなかったことにしようとしてるぞ。


「えーと――」

「――して、タダノマサトよ。これからどうするかの?」


 どうやら、なんとしてでも先ほどのやり取りはなかったことにして、話を先に進めたいらしい。まあ、配下としてここは主を立てるか……。


「そうですね……あ、呼びづらいでしょうから、俺のことはマサトでいいです。まずは俺の部屋に戻って作戦会議でもしませんか?」

「う、うむ。良い案じゃ! そうしよう」


 魔王は俺が茶番に付き合って話を進めると、ほっと胸を撫でおろし、俺の大したことの無い提案に大げさに頷いた。


 この魔王、間違いなくヤバい奴なんだろうけど、意外とうまく手綱を握れそうな気がしてきたんだが、気のせいか……?


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第3話を読んでいただきありがとうございます♪


真人はついに気づいてしまった。この魔王、意外とちょろいということに(゜o゜)

しかし、頭が弱めでも魔王は魔王。油断したりしくじると真人はすぐに消し炭になってしまうので、これからもぎりぎりのコメディが展開されていくことに……


面白いと思っていただけたら♡応援&☆レビューいただけると、執筆意欲が上がりまくって、作者が覚醒します\(^o^)/


ぜひ、次のお話も読んでいただけると嬉しいです。

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