第13話

 年棒一億。


「ど、どうしたんですか……?」


「どうしたもこうもないだろ。えっ……?何、一億?達成したと?」

 

 小学生の頃。

 雑に三人へと年棒一億稼げるようになってね!という無茶ぶりを課した記憶はあるが……え?実際にやったの?

 

「何を言っているんですか?和葉くんが年棒一億稼げるようになってから会いにこいって言ったんじゃないですか」


「……何をして?」


「起業です。うちの母は芸能人で父は顔をも出している実業家……共に自分の世間体は大切なはずなのに両親共に不倫してて家には帰ってきませんし、私は家に一人。ネグレクト気味ですからね。家でのことをバラされたくなければと、金銭を要求し、それで得た金銭で起業し、成功を収めました……事業はどんどん拡大していて、更に年棒は増えていきますよ!」


「……なるほど、なるほど」

 

 年棒一億か……僕一人をヒモにするには十分すぎる金額だな。


「あっ!もしかして私たちが達成出来ないって思っていたんですか?私た……私であれば問題なく一生和葉くんを養える自信がありますよ。どうでしょう?必要とあれば金銭面に関する情報も開示しますが」


 これ、愛梨だけでなく他の二人もちゃんと達成している感じか……むむぅ。なんで三人も釣れてしまったんだ。

 どれだけ僕の精神操作は見事だったんだ?


「どうでしょう?ぜひ私と……」


「いや、なしだな」

 

 僕はずいっとこちらへと身を乗り出してきた愛梨から距離を取って拒絶の言葉を口にする。


「な、なんで?」


「僕はお前を知らない」


「……ん?」


「小学生の頃のお前はそんなデカくなかった。引っ込み思案で僕の方へと自分から距離を詰めてくるなんてなかった。自分からクラスの輪に入り、彼女らを言葉で丸め込んで僕にぶつけようなどという小賢しい真似をすることはなかった……ここ数年で愛梨は成長し、その精神には確かな変化があった。しかし、僕がその変化がどのようなものであったが知らないし、今の愛梨の精神構造がどうなっているかもしらない」

 

 小学生の頃と違い、今の僕は愛梨の何もかもを把握しているわけではない。


「故に、僕はお前の愛を信じていない。いつ捨てられるかもわからない自分の理解の範疇にいない愛梨を僕の寄生先にするなどありえない」

 

 安心。

 それは僕が生きる中でそこそこ大事にしている指標の一つだ。


「愛梨には信用がなく、僕は安心できない。だから却下だ」

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