第3話
さっさと退け。
簡潔に告げたはずの僕の言葉はどうやら目の前の女には届かなかったようで退くどころか僕の方へと近づいてくる。
「ふふふ。久しぶりに会って恥ずかしいからってそんな冗談言わなくて良いのよ?私にはぜーんぶわかっちゃうんだから」
「何をほざいているの?」
まるで僕の言葉を聞いていない様子の女へと少しだけ困惑しながら口を開く……何だ?別に美人だからって話聞かなくとも許されると思うなよ?
少なくとも僕は許さないからな。
話を聞かない奴など大嫌いだ。
「私ね、ちゃんと言われたことはこなしてきたの」
だが、そんな僕を無視して勝手に話し続ける。
「そうか」
言われたことってなんだよ。
というか、まずそもそもお前は誰だよ……すべてにおいて僕を置いていかないで欲しい。
マジで何なの?こいつ。
僕ってば蚊帳の外に置かれて話を勝手に他者が進めるっていう状況嫌なんだけど……んー、いくら考えてもこの女に関する記憶なんてない。
全然知らない奴だ……マジで、なんなんだ。何を企んでいる?
「私……和葉のためなら何でもできるわ……ぁあ、だからね?」
名も知らぬ女からそんなことを言われる恐怖。
「え?じゃあ、僕は喉乾いたからジュース買ってきてくれない?あぁ、財布はジュース買うための200円だけぬいた状態でここに置いて行って」
そして、沸き上がる僕の金銭欲。
「……ッ!頼ってくれてありがとう!!!あぁ、またッ!ふふっ。任せて、今。和葉の喉を潤してあげるからね」
僕の言葉に頷き、財布をその場に置き、200円だけもってどこかへと走り去っていく女。
残されたのは一つの財布と何もかもに置いて行かれていた僕と玲衣だけ。
「金だぁー」
僕は一瞬の躊躇もなく女が落としていった財布を拾って、中身を確認した後に自分のカバンの中から黒いケースを取り出してそこの中へと財布を入れてからカバンへと仕舞う。
ふふふ……五万近くの臨時収入ゲット。
「えぇ!?取っちゃうの!?大丈夫?」
「問題ないだろ……向こうが勝手に落としただけ。僕の冗談を真に受けてアホが財布を落とし、それを僕が拾った。何かあれば返すよ」
「そ、そう……」
僕の言葉に玲衣はが頷く。
「ということで、逃げるぞ。玲衣」
「えっ!?逃げるの!?」
そして、続く僕の言葉に玲衣は更に驚愕の表情を浮かべる。
「当たり前だ……あんな面倒そうなやつ、スルー以外の選択肢ないでしょ」
僕は迷いなく逃げを選択し、玲衣と共にこの場を立ち去るのだった。
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