第55話 女聖魔法使い、寄り道をする
「うぅ……」
アイリスの案内を受けながら図書館の中を進んでいると、後ろでシオンが気分悪そうにしていた。
「……シオン、大丈夫?」
声をかけるとシオンは「はっ」とした顔をしていた。
「だ、大丈夫ですよ! 別に体調が悪いとかじゃないので!」
そう言って両手をブンブンと左右に振るシオン。
「……夏休み前のレポート地獄で大学の図書館に籠ってたのでついつい、っていうかオルハさんもそうでしたよね?」
ため息混じりに話していた。
「……そうでもなかったけど」
レポートの量はたしかに多かったが、大学の図書館に籠るまでにはならなかった。
早めに対処していたので、そこまで苦しむことはなかった。唯一かかったとしたら資料探しぐらいか
「てっきりオルハさん、レポートでも仲間だとおもってたのに……」
シオンの言葉に何故か罪悪感を感じてしまう。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
『次は右に曲がって、すぐに左へまがって次は……』
インカムから聞こえる案内に集中しながら黙々と歩いているが、目的の場所に辿り着くことはなかった。
ふと後ろを向くと、オルハさんとシオンちゃんの姿はない。
シオンちゃんが疲れていたので、オルハさんが見ているのかもしれない。
「ちょっとストップ」
『どうしたの?』
「あとどれぐらいかかるのよ?」
『まだまだかかるかよ、ってオルハちゃんとシオちゃんの姿見えないと思ったら、あんな所にいる!?』
突然の大声に思わず耳を両手で抑えつけてしまう。
よくよく考えたら逆効果だった。
「オルハさんにも言われてると思うけど、突然叫ばないでほしいわね……耳がおかしくなったらどうしてくれるのよ」
『ここなら鼓膜を治療する本があるからそこの場所まで案内するとかでいい?』
コメントなら最後に「w」が表示されそうな口調で言われたので、大きなため息で返した。
「2人が休んでるなら、私も少し休ませてもらおうかしら」
そう言って目についた木製の小さな椅子のに腰掛けた。
「……それにしてもどこからこれだけの本を集めてくるのよ」
辺りを見渡す限りに設置された本棚には本が収納されている。
来た道にも、そしてこれから向かおうとしている先にも。
『さすがに私もわからないかな。 何せこの図書館、私や局長が産まれる前からあるみたいだし』
「エルフが産まれる前って……考えるだけで気が遠くなりそうね」
そう言いながら、たまたま目についた本を手に取る。
表紙には今までに見たことのない文字が書かれていた。
開いて数ページめくってみるが、表紙と同じような文字がひっきりなしに書かれている。
『ページ捲る音が聞こえたけど、気になる本でもあった?』
「目についた本を手に取ってみたけど、得体の知れない文字が書かれてるだけね」
『そこにあるのは基本的にはエルフたちが使うアールヴ言語だしね……ってか魔法使えるなら読めるんじゃないの?』
「あの時は日本語に翻訳してもらったファイルを送ってくれたからそれをずっと見てたわ」
『珍しいなぁ、バル兄のことだから分厚い本をぶん投げて圧かけながら読めとだけ言いそうなんだけど』
あの男エルフは実の妹にもそんなふうに思われているのか……。
開いた本を閉じ、元にあった場所へと戻す途中で、ある本に目がいき思わず手が伸びる。
「……うわぁ」
本を開いてすぐに声を上げてしまう。
『ど、どうしたの!?』
「とんでもない本を見つけたわ……」
ペラペラとページをめくりながら答える。
何を見つけたのかと言うと、猥書、春本……
誰もがわかりやすい言い方をするならエロ本である。
絵柄からしてここ数年の作品だろうか。
それを伝えると、インカムから大きなため息が聞こえてきた。
『たまにいるんだよねぇ……エルフでもそういったものに興味を示すのが』
そういえば、前にあの男エルフが話していた気がする。
「ちなみにエルフが色々される内容のようね」
『聞きたくもないし! ってか何で読んでるの!』
インカムから慌てふためく声が聞こえていた。
「途中までは純愛物だったけれども、途中から傾向が変わってきたのよね」
内容からして男性向けだろう。
一緒にいたあのクズ男が偶に似たような内容の本を買っていて、暇つぶしに読んでいたので抵抗がないわけではない。
「それにしても何で、こういった類の本のヒロインってありえないぐらいの豊満なのよ」
『知らないよ! ってか聞いてないのに話の内容話さないで!』
声からして相当慌てている様子が読み取れる。
顔を真っ赤にしているのだろう。
「あ、いたいた!」
声が聞こえて、そちらを振り向くとシオンちゃんとオルハさんがこちらに向かって歩いていた。
少しして私の前に立ち止まると、シオンちゃんが私の持っている本の存在に気づいた。
「何読んでいるんです?」
無言のまま、本の中身をシオンちゃんにみせた。
「う、うわあああああ!」
『見せるな、この変態女! シオちゃん!オルハちゃん目を閉じて!!!』
インカムからの声に対し、オルハさんはすぐに目を閉じていた。
「……シオンちゃん、指の間からのぞいてるのバレてるわよ」
「き、気のせいです! 決して興味があるわけとかじゃなく!」
慌てふためくシオンちゃんにそのまま本を渡すと、恐る恐る受け取り、じっくりと中身を読んでいった。
「そういうお年頃だから仕方ないわよね〜」
私の言ったことにインカムの先から「やっぱりこの女を引き受けるんじゃなかったー!」などの叫び声が響きわたっていったのだった。
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