第40話 女剣客、同郷の友と再会
「うおっ!? な、何でオルハがここにいるんだよ!?」
大きく目を開けながら私のことを指差すミナト。
「……バイクで適当に走りながら神社巡りしてて、ふとここに立ち寄っただけ」
「神社巡りは相変わらずやってたんだな……」
ミナトは私の返答に納得がいった様子で返事をしていた。
「それよりもミナトは何でここに?」
「何でって、ここは鍛治の神様が祀られてる場所だしな」
そういえば実家にいる時、鍛治の神が祀られている神社に行っていたことを思い出した。
後々聞いた話ではここぞというときの刀を作る時にはお参りをしているだとか。
「ってかシオちゃんねるの切り抜きで見たけど大丈夫なのか? 途中で配信止まっちまったみたいだし」
心配そうな表情でミナトは私の顔を見ていた。
配信が止まったのはベローズの鎌で配信用のドローンが粉々になったからだ。
「……大丈夫」
「その顔で大丈夫と言われても説得力ないぞ、前に葉子ばあちゃんから聞いたけどオルハが神社巡りをする時って何かしら悩んでる時だって」
ミナトの言葉に黙ったままじっと見ていることしかできなかった。
「こんな所で立ち話も何だし、うちに寄っていくか? 明日になったらじいちゃんも実家に帰っちまうから顔出したらどうだ?」
「……ここからあの家って遠くない?」
私の返しにミナトは大きくため息をつく。
「方向音痴土地勘ゼロなのは相変わらずか……ここから俺の家までそんなに離れてないぞ」
またもやミナトの言葉に何も返せなくなってしまった。
そのまま神社を後にしようとすると、何かがミナトの背中に飛びかかってきた。
「ぐおっ!?」
そのままミナトは前のめりに倒れてしまっていた。
「……大丈夫?」
「へ、へいき……」
ゆっくり立ちあがろうとするミナト。
その前に何か気配を感じ、そちらへと視線を向けると……
「ワタシのことを置いていこうとしたでしょ!」
視線の先にはこげ茶のツインテールの髪型に、褐色肌の女の子が立っていた。
背丈は165cmの私の腰ぐらいまでの可愛らしい女の子だった。
だが、その小さな体にそぐわ無い大きな金槌が姿を見せている。
それにどこかでみたことあるような……
「……だからって蹴っ飛ばす奴がいるか!」
ミナトはゆっくりと立ち上がりながら目の前の女の子に向けて大声をあげていた。
「それにこの女は一体誰! ワタシいうものがありながら! これは浮気といっても過言じゃないわね!」
そう言いながら女の子は私を見ると同時に背負っていた大きな金槌を構えだした。
今にもこちらへ向けて攻撃してきそうな感じだ。
「勝手な解釈と妄想すんじゃねーよ! こいつは桜坂織葉といって幼馴染だ!」
ミナトが大声で説明すると女の子は驚いた顔をみせていた。
「ふーん……」
不服そうにそう呟きながら女の子は構えていた金槌を背中に戻しながら、私の顔をじっと見ていた。
「たしかにすごく綺麗だけど、ワタシに比べたら雲泥の差があるわね!」
すぐに自信たっぷりな表情でそう告げると、ミナトは大きくため息をつく。
その間に女の子は私の目の前に立つと、ビシっという音が聞こえそうなぐらい勢いをつけてこちらに指を向けてきた。
「ワタシはガーデニア! ミナトのフィアンセだから!」
ガーデニアと名乗った女の子がそう告げるとミナトは顔を真っ赤にして大声をあげていた
「ああああ! ちげーって言ってんだろ!」
「ワタシはあの時ミナトが言った言葉を忘れて無いから!」
「そういう意味でいったんじゃねーんだよ!」
2人が言い合っている間、私は何も言うことができなかった。
けど、同郷の知り合いとしてはこれだけは言っておかなければなら無いと思った。
「……ミナト」
2人の口論の隙を見て、何とか声をかけると2人は一斉にこちらへと振り向いた。
「……よかったねと言いたいけど」
そう言いながら、ガーデニアの方を見る。
「……人には趣味趣向があるって言うから余計なことを言うつもりはないけど」
アイリスが見ていたアニメで大学生と小学生のラブコメ作品を思い出していた。
その時はアニメだからと言って割り切っていたが、まさか現実に目の当たりにするとは思ってなかった。
「ちょっとまて、おまえ絶対に勘違いしているだろ!」
そう言ってミナトは私の方へと近づいてきた。
「……勘違い?」
「言っとくが俺は幼女趣向はねーし! むしろエロいお姉さんが好みだ! って今はそんなことを言いたいんじゃない!」
早口で捲し立てるように告げると、すぐにガーデニアを指差していた。
「こいつは人間じゃなくてドワーフなんだよ! 見た目はこんなだけど、俺たちよりもずっと年上なんだ!」
ミナトの言葉にガーデニアは先ほどと同じように自信たっぷりな表情を浮かべていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「じいちゃん帰ったぞー」
神社を出てから10分ぐらいで以前も来たミナトの住む家に着いた。
遠くまで来ていたつもりなのに、そんなことなかったことに驚いている。
そんなことを考えている間にミナトは玄関の引き戸を開けて中へと入っていった。
で、その後を追うようにガーデニアも入っていく。
——直前に私の顔を見上げると同時にこちらを睨みつけてから。
「随分早かったな、もうちょいゆっくりしてもよかったんじゃ……」
工房から顔を出したミチ爺はミナトに声をかけると私に気づき言葉を止めた。
「ほう、これはまたえらいベッピンさんを連れてきたなあ、さすがはワシの孫じゃな! にしてもオルハそっくりな子を連れてくるとはミナトもやっぱり——」
「オルハそっくりじゃなくて、オルハ本人だこのクソジジイ!」
「そんぐらいわかっておる! 老人のジョークも通用せんのか!」
そう言ってミチ爺はミナトの頭を小突いていた。
この2人は相変わらずのようだ。
「にしてもどうしたんじゃ、暗い顔をしておるが?」
ミチ爺は私の顔を見て心配そうに声をかけてきた。
ほぼ家族同然の付き合いだったせいか、私の顔を見て何かを感じ取ったようだ。
「……ミチ爺、ごめんなさい」
どう言おうか悩んだが、誤魔化すこともできなかったため謝罪の言葉と同時に納刀したままの月華を差し出した。
いつでもここへ持って来れるようにバイクのシート横にセットしていた。
ミチ爺は月華を受け取るとすぐに鞘から取り出していく。
「おぉ……これは派手にやったのぉ」
剣先が真っ二つに折れた月華を見て、ミチ爺は和かな表情で呟いていた。
「……ごめんなさい」
何を言えばいいのかわからなくなり、もう一度謝罪の言葉を口にした。
「そんなに謝らんでもよいよい、それにオルハを守るためにこうなったのならコイツも使命を果たせて本望じゃろ!」
そう言いながらミチ爺は豪快に笑っていた。
「だが、月華がこんなではダンジョンにいくのは厳しいじゃろうなぁ」
「……うん、焔纏刀はあるけどあれは長時間使うのは厳しいから」
ミナトの作った焔纏刀は素晴らしいものだけど、剣先の鉱石の関係もあってか普通の刀よりも重く感じていた。
短時間なら問題ないが長時間使うとなると、使いづらさを感じてしまう。
「うーむ、どうしたもんかのぅ……」
私の返答を聞いたミチ爺やミナトは唸り続けていると、ミナトの横に立っていたガーデニアが月華を手に取っていた。
「おじいさま、ちょっと工房を使わせてもらうわよ」
声をかけると同時にガーデニアは折れた月華を持って工房へと向かっていく。
「別に構わんが、どうするつもりじゃ?」
ミチ爺の言葉にガーデニアは振り向き、こう告げる。
「もちろん、この武器を直すのよ、しかもこれまで以上にすごいものにね」
それだけ言うとガーデニアは再び、工房の方へと向きを変えて歩き出していった。
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