第39話 女剣客、気分転換と謝罪と……

 『あ、シオちゃんいらっしゃいー!』


 オルハさんが住むタワーマンションのロビーにて部屋番号を入力するとすぐにアイリスさんの元気な声がマイク越しに聞こえてきた。


 「オルハさんいらっしゃいます?」

 『朝はいたんだけど、今は出かけちゃったみたいだね……バイクの鍵もないからそこら辺走ってるのかもしれないね』

 「そうですか……」


 ため息混じりに返すとアイリスさんは申し訳なさそうにごめんねという声が聞こえてきた。


 下北沢ダンジョンの一件から1週間ほどが経ったがあれ以降、ダンジョンには行っていない。

 ダンジョンに現れたあの魔族との戦いで、私の長年の相棒とも言える配信用のドローンが破壊された。

 

 ……まあ、それは配信での収益のおかげで新しい配信用ドローンはどうにかなった。

 痛い出費ではあったけど、また配信をやっていければ取り戻せるようになる。


 同時にオルハさんは大事を武器である刀を失った。

 あの刀は道雄さんから頂いた大事な刀だ。いつもは気丈に振る舞うオルハさんも申し訳ない気持ちだと何度も呟いていた。


 「2〜3日は怪我してたから家で引きこもってたけどね、その間話してくれなかったけど……」


 今度はアイリスさんがため息をこぼしていた。

 刀もそうだが、あの死霊使いの女性のこともあってかアイリスさんとの仲に亀裂が入っていたようだ。

 怪我の心配もあるが、アイリスさんとの間に入って仲裁しようと思い、何度もここを訪れているが会えずじまいだった。


 「まあ、せっかく来てくれたんだし、上がっていきなよ! 昨日クッキー焼いたからよかったら食べてって!」

 

 仕方なく帰ることを伝えると、アイリスさんがそう話し、ロビーの入り口を開けてくれた。


 「それじゃ、お言葉に甘えて……」


 そう伝えると、ロビーの奥へと進んでいった。


 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 

 「……それでは失礼いたします」


 拝殿にあるお賽銭箱の前で大きく手を叩いたあと、大きく頭を下げる。

 平日ということもあってか、拝殿の周りには人の姿はない。

 いたのは神社の関係者や近所の老夫婦ぐらいだ。


 「……どうしようかな」


 参拝を済ませてバイクを停めた駐車場までの参道を歩いていく。


 「……初詣以外で神社参拝するのはいつ以来かな」


 実家にいる時は祖母と一緒に実家の周辺にある神社を参拝していた。

 最初の頃は参拝した後に参道の外れにある茶店で桜餅を食べることを楽しみにしていたが、いつからか神社で参拝すると気持ちが落ち着くことに気づき、それ以降は気持ちが落ち着かなかったり、荒んだ時に神社を参拝するようにしていた。


 「……落ち着かない」


 家にいるのが気まずくなって、衝動的にバイクで飛び出し、気持ちを落ち着けるために神社巡りを始めたのはいいが、気持ちが落ち着く気配はまったくなかった。

 これまでは気分の赴くまま参拝すると気が晴れて行ったのだが……。


 ちなみに今、参拝した所で3箇所目になる。

 1日で何件参拝してもバチが当たることはないのだが、ここまで気持ちが落ち着かないのは話を聞いてもらっている祀られている神々に申し訳ないと感じてしまう。


 「……他も行ってみよう」


 スマホの画面に正午すぎの時刻が表示されていた。

 途中で食事をとりつつ、まだまだバイクを走らせていくのもいいかもしれない。

 そんなことを思いながら、バイクのシートの跨り、エンジンをかけていった。


 

 「……立ち寄らせていただきました、それでは失礼いたします」


 4件目に参拝した神社は先ほどと比べると小さなところだった。

 小さいどころではなく、拝殿やそれ以外の箇所も人の手が入っていないのかボロボロになっていた。


 祖母と色々な神社巡りをしていた際にもこういった神社を目にしており、そういった場所でも祖母は参拝をしていた。

 どうみてもボロボロなのに何で参拝するのか聞いた時には怒りながらも祖母は……


 『どんな場所にも神様は住み、様々なものから我々を守ってくださっている』と話していたことを思い出し、立ち寄ることにした。


 「……ここはどんな神様が祀られているんだろう」


 そう思い、辺りを見渡すと入り口付近に神社などの由来や成り立ちが書かれた由緒版を発見する。

 だが、長年の雨風の影響なのか文字が掠れてしまっており、読むことが不可能に近かった。


 「……金槌?」

 

 由緒版を最後まで見ていくと、その中で唯一わかるものが金槌の絵だった。

 その金槌を包むように真っ赤な火も描かれている。


 「……鍛治に関する神様が祀られた場所?」


 金槌と火で連想されるのはそれしか思いつかなかった。

 たしか天目一箇神あめのまひとつのかみが鍛治の神だと思ったので、ここは本社から祭神の分霊した分社なのかもしれない。

 そうだとわかると自分の意思とは関係なしにため息が漏れ出してしまう。


 「……ミチじいに合わす顔がない」


 1週間前の下北沢ダンジョンにて遭遇した魔族と対峙した際に使用していた刀、『月華』の刃が粉々になってしまった。

 そのおかげでエンジュさんを救うことができたのだが、あの刀はミチじいから頂いたものだったので、壊してしまったことに罪悪感があった。

 すぐにミナトの家に行ってミチじいに謝るべきなんだけど、罪悪感や自分の非力さから気持ちを落ち着かせることができなかった。

 

 あとはアイリスのこともあって家にいるのが居た堪れなくなり、飛び出すように家をでてしまっていた。


 「……すぐに謝れって言われてるのかな」


 何も考えずにきた先が鍛治に関わる神社というのは偶然ではあるが、鍛治の神にそう告げられてるような感じがする。


 「……うん、そうしよ今日は無理だから明日電話してミナトの家に行こう」


 口に出すと、さっきまで落ち着かなかった気持ちがスゥっと抜けていったような気がした。

 そしてもう一度、拝殿の方へと向きを変えると、心の奥で礼を告げながら深々と頭を下げていった。

 

 「ほら早くー!」


 顔を上げようとすると、子供の声が聞こえてきた。

 母親と参拝に来たのだろうか。


 「わかったから、そんなに急かすなよ……」


 その後ろから先ほどの子供の親だろうか。

 低い声なので父親なのかもしれない。


 顔をあげて入り口に向かおうとすると、その声の主とバッタリ顔を合わせることに。


 「うおっ!? な、何でオルハがここにいるんだよ!?」


 私の目の前には大きく目を開けてこちらを見ている榊木湊音の姿があった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

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