第34話 女剣客、守り守られ

 「何の用よベローズ……」


 奥から現れた鎌を持った女に向けてエンジュさんは力が抜けた声で話す。


 「約束を果たしにきたのよ、わかっているでしょ?」


 ベローズと呼ばれた女は「ふふふっ」首を傾げながら微笑んでいた。

 エンジュさんは床に落ちたスマホの画面を見ると、ため息をつく。


 「なるほど、そういうことね……」


 エンジュさんはゆっくりと立ち上がり、顔を見上げていた。


 「好きにして……もう何か疲れたわ」


 エンジュさんの声に覇気が感じられなかった。

 彼女の目の前に立つベローズは不適な笑みを浮かべながら持っていた巨大な鎌を振り上げる。


 「ふふふっ、素直な子は嫌いじゃないわ、安心してあなたの魂は未来永劫大事にしてあげるから……」


 そう告げると、ゆっくりとエンジュさんの元へと歩み始めるベローズ。


 「……エンジュさんッ!!」


 その刹那、私の声を掻き消すようにキィィィンと金属という音が響き渡る。

 私の月華の刀身とベローズの巨大鎌の刃がジリジリとぶつかり合っていた。

 

 「あらあら、もしかして待ちきれなかったのかしら? 安心して——」


 ベローズは鎌を大きく横に振り払う。


 「すぐにあなたの魂もいただくから……!」

 

 反動に耐えきれなくなった私はそのまま吹き飛ばされ、背中を壁に打ち付けられてしまう。


 「オルハさん……!」


 その様子を見ていたシオンが私の元へ駆け寄ってくると、私の背中をさすっていた。


 「……大丈夫、平気」


 シオンにさすられた時に痛みはなかったため、骨は大丈夫だと思うが痛みで立ち上がることができなかった。

 その間に、ベローズはエンジュさんの元へと辿り着いていた。

 

 「それじゃいくわね。 大丈夫よ苦しまないように一瞬で終わらせてあげるから」


 ゆっくりと、鎌を振り上げていくベローズ。

 ふふふっと妖艶な笑みを浮かべながらエンジュさんの頭を目掛けて振り落とそうとしていた。


 ——エンジュさんの名前を呼ぼうとした時、私の目の前で何かが横切っていった。


 「ぎゃあああああああああ!!!!」


 その直後、ベローズの悲痛の叫びが聞こえてきた。

 

 「デッド……ベイブ……!」


 ベローズの首元には首から上だけ残されたデッドベイブの姿。彼女の首元から紫色の液体が流れていた。


 「こんの……死に損ないがああああああ!!!!!」


 苦しみからなのか、終始美しい表情を見せていたベローズだったが、凄まじい顔でデッドベイブの頭を掴む。

 ベローズの手には黒いオーラが纏っていくとデッドベイブの頭の一部分が膨らみ始めていった


 「え……ん…………じゅ」


 微かにだが、水を含んだようなゴボゴボという音の混じった声が聞こえてきた。


 「うそ……!?」


 真っ先に反応したエンジュさんはデッドベイブの方を見ていた。

 この声はデッドベイブから発せられているようだ。


 「……いま……まで…………あり……と……う」


 ゆっくりと話しながらも頭は風船のように膨らんでいった。


 「何でそんなこと……! 私はあなたを苦しめようとしてたのよ!!!」


 エンジュさんは涙声で叫び出していた。


 「そんなこと……言われる筋合いなんか……!!!」


 エンジュさんの声に反応してかデッドベイブはエンジュさんの方へとゆっくりと顔を動かす。

 こちらからでも見ることができたのだが、その時のデッドベイブの表情は——

 

 「笑っている……」

 

 エンジュさんの顔を見て笑顔を見せていた。

 

 「しあ……わ……せに——」


 その直後、言葉の途中でデッドベイブの顔は空気の入れすぎた風船のように弾け飛んだ。

 ドス黒い液体が飛び散り、エンジュさんやベローズにかかっていく。


 「何が幸せによ……ふざけないでよ!!!!」


 エンジュさんはそのまま大声を上げながら泣き崩れてしまう。

 

 「低俗な下等生物の分際で……!」


 ベローズは顔に形相を変えることなくかかったデッドベイブの液体を振り払うと、もう一度鎌を振り上げていく。

 

 「それじゃいくわよ、服も汚れたしさっさと帰って着替えたいわね」

 

 だが、その声に対してエンジュさんの反応はなかった。

 

 「……エンジュ、さん……!」


 もう一度それを止めようと、月華を杖代わりにして何とか立ち上がる。


 「オルハさん、無理しちゃ……!」


 隣にいるシオンの制止を振り払ってエンジュさんの元へと駆けつけ、月華を鞘から引き抜いて大きく薙ぎ払う。

 辺りに割れるような音が広がっていき、私の目の前ではボロボロと砕け散っていくものが見えた。


 私の月華とベローズの鎌の刃。

 

 「きさまぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


 ベローズは刃がボロボロになった鎌を床に叩きつけると、私の頭をガシッと掴みむと勢いよく持ち上げる

 

 「……ぐっ!」

 「オルハさん……!」

 「コレクションにしようかと思ったけどもういいわ、おまえはここで殺すわ!!!」


 先ほどよりもさらに険しい形相で私を睨みつける。

 頭を掴んでいる手に黒いオーラが纏い始める。先ほどのデッドベイブと同じことをするのだろう


 「さぁ、何もかも醜くぶちまけなさい!!! 私の邪魔をしたことを後悔するといいわ!!!」


 彼女の手から離れようと全身を動かすが、背中の痛みもあってかうまくいくことができなかった。


 「……こんなところで、終わりたくない!」


 痛みに耐えながら全身を動かしていくと、私の頭上で何かが弾けるような音がした直後。


 「ぎゃあああああああ!!!」


 突如襲った痛みに苦しむベローズ。

 彼女の肩に大きな穴が開き、そこから紫色の液体がこぼれ出していた。

 痛みに耐えきれなくなったのか、私の顔を掴んでいた手が離れすベローズ。

 そのまま私は床に転がり落ちていく。


 「大丈夫ですか……!」


 自分の元にシオンが私に手を伸ばす。

 彼女の手を掴み、ゆっくりと体を起こしていく。


 「……一体何が起きたの?」

 「わからないです、突然あの女の肩がボンって爆発して……」


 ベローズの方へ目を向けると、苦悶の表情を浮かべながら爆発したと思える右肩を抑えている。

 肩から紫色の液体がずっと流れ落ちているため、彼女の足元にボタボタと同じ色の水たまりができていた。

 

 「ふぅ、危なかったぁ!」


 私の後ろで明るい声が聞こえてきた。

 その声には聞き覚えがあり、すぐに声がした方へ振り向く。

 シオンも気づいたのか、一緒になって私と同じ方向を見ていた。

 

 「オルハさん、今の声って……」

 「……シオンも気づいた?」

 「オルハさんもそう思ってことは同じ人を思い浮かべてますよね」


 私たちの視線の先からゆっくりとこちらに近づいてくる姿があった。


 「あれ、でも2人いませんか?」


 シオンの言う通り、2つの姿が確認できた。

 その一人は、絶対にここにはいるはずのない人物だ。


 「うわ、目を離してる間にすごいボロボロになってない!?」


 驚いた表情で私を見ていたのは長く尖った耳が特徴のエルフで私の同居人であるアイリスだった。


 「アイリス、今はこっちに集中しろ」


 アイリスの隣にいるのは彼女と同じく尖った耳をしているエルフの男。

 黒いスーツに紺色のシャツの正装に近い格好をしていた。

 横にいるアイリスと同じ銀色の髪だが、彼女と違うのは鋭い目が印象的で、見られたら睨まれているようで落ち着かなくなりそうだ。


 「全く心配するぐらいいいでしょ!」


 アイリスは文句を言いながらパーカーのポケットからスマホを取り出して

 苦しむベローズに見せつける。


 「ようやく見つけたぞ、魔族!」


 男エルフは普段見せない険しい顔つきでベローズに向けて叫んでいた。


==================================

【あとがき】

読者の皆様お待たせしまして、大変申し訳ございません。

お読みいただき誠にありがとうございます。


本日から不定期ではありますが少しずつ更新していきますので

どうぞ、宜しくお願いいたします。



また、第9回カクヨムコンに参加していますので

お時間がございましたらこちらをお読み頂けますと幸いです。


▼タイトル

国王殺しの冤罪を着せられ国を追放された元勇者の俺、旅の女エルフと出会い旅にでる。

旅を続けていくうちに、女エルフのスキンシップが増えてるような気がするが考えすぎだろうか?

https://kakuyomu.jp/works/16817330667747565720


宜しくお願いいたします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る