第35話 女剣客、同居人のことを知る

「何でこんなところにエルフがいるのよ……ついてないわね」


 ベローズは大量に紫色の液体がこぼれ出す右肩を押さえながら彼女の目の前に立つ男エルフを険しい目で睨みつけていた。

 

 「そんなことを貴様に言う必要はない、どうせおまえはここで消えるのだからな」


 男エルフは静かな口調でそう告げると、右手に持っている銃でベローズを撃つ。

 引き金を引くと銃口に魔法陣が描かれ、そこから青く光る閃光がベローズに放たれる。

 

 「ふふっ……こんなもので私が消せるとでも思ってるのかしら?」

 

 ベローズは自分に向けられた閃光をかき消すと、ゆっくりと立ち上がり、男エルフに向けて手を伸ばす。


 「何だ、命乞いか? 悪いが貴様らに慈悲を与える義理はない」

 「ふふふっ、別にそんなものは求めていないわよ」


 黙ったまま対峙する、ベローズと男エルフ。

 だが、その沈黙をかき消すように風を切る音が響き始めていた。

 音の方へと視線を向けると、刃先がボロボロになったベローズの鎌が勢いよく回転し、男エルフの方へと向かっていった。

 

 「バル兄! 後ろ!!!」


 アイリスが男エルフに向けて叫ぶと男エルフは横に飛び退きながら鎌に向けて閃光を放つ。

 キンッ!と耳に響く金属音を上げながら鎌は持ち主であるベローズの左手へと戻っていった。


 「さすがに分が悪いわね……今日のところはやめておくわ」


 ベローズの視線は項垂れるエンジュさんへと向けられている。


 「覚えておいてねエンジュ、あなたの魂は私の物よ」


 そう告げたベローズの体が薄くなっていく。


 「逃すと思っているのか!」


 男エルフはベローズに向けて銃口を向けると、再び閃光を放つ。

 だが、閃光はベローズの体を通り抜けていく。


 「ふふふっ、またね、エンジュ……そしてエルフのボウヤ!」


 ベローズの笑い声が響くと同時に姿が消えていった。


 「ちっ……」


 その様子を見ていた男エルフは苛立った表情のまま舌打ちをしていた。


「大丈夫2人とも?」


 閃光に貫かれていくベローズを見ていると、横からアイリスが声をかけてきた。


「……何でここにいるの? 表に出れないんじゃなかったの?」


 これは本人から聞いたことだ、たしかその時はエルフなんて知られたら大騒ぎになるからと話していたような気がした。

 

 「もちろん、表にでることはできないけど、今回は話が別だよ」

 「……今回?」

 「うん、あいつらのような奴を発見したらってこと」


 そう言ってアイリスはベローズの方へと視線を向ける。

 

 「よく理解できないんですけど、あの女の人は何なんですか!?」


 私と同じく状況を把握できなかったシオンがアイリスに向けて声をかける。


 「あの女は魔族だよ」

 「ま、まぞく……?」

 「うん、我々含め全種族の敵。私たちはずっとあいつらを探していたんだよ」


 正直理解に苦しむ内容だった。

 隣にいるシオンも同じようでわかりやすく頭を抱え込んでいた。


 「……でも、何でアイリスが?」

 

 私が問いかけると、アイリスは男エルフの方を見ていた。

 それに気づいたのか、男エルフはこちらへとやってきた。


 「申し遅れてすまない、ダンジョン管理局捜査局長のバルムだ、いつも妹が世話になっているな」

 

 バルムと名乗った男は私とシオンを見ると、頭を下げる。


 「だ、ダンジョン管理局のそ、そうさきょくちょう……???」

 「あ、ちなみに捜査員に関しては管理局も一部の人間しかしらないから外で言っちゃダメだからね」

 

 横でアイリスが口を挟む。


 「……それじゃアイリスもダンジョン管理局の?」

 「うん、捜査員だよ、ごめんね今まで黙ってて」


 アイリスは申し訳なさそうな顔で私を見ていた。

 

 「私たちの目的はすべての種族の敵である魔族を探すことなんだ」

 「魔族ってさっきの女の人のことですよね?」

 「魔族はあの女だけじゃないけどね」


 アイリスがシオンに説明していると、バルムはゴホンと咳払いをしていた。


 「2人とも松下太一郎のことは覚えているな?」

 「お、覚えてますよ!」

 

 シオンは大きな声で返していた。

 

 「あの男は裏で魔族と接触をしていた、君たちの前に現れたデモンウーズもそこから手に入れたようだ」

 

 デモンウーズという言葉を聞いたシオンは体を震わせていた。

 私もあの時の戦いを思い出して思わず息を呑んでしまう


 「それがわかり、こちらもすぐに松下と接触しようと試みたが、時すでに遅し、松下は殺されてしまった」

 「……魔族に?」

 「あぁ、奴が殺された現場に若干だが魔力が残っていた。 松下やその取り巻きが魔法を使うことができないのはわかっているため、奴を殺した魔族のものだろう」

 

 説明を終えたバルムは後ろへと振り向く。彼の視線の先には項垂れるエンジュさんの姿が。


 「だが、今回は無事に魔族と接触した人間は無事のようだな」


 そう告げるとバルムはエンジュさんの元へと向かった。


 「槐堂円珠だな、魔族と接触し、奴らの力を得たのだな」


 バルムの問いにエンジュさんはゆっくりと顔をあげた。


 「そうよ、だから何だって言うのよ……」


 吐き捨てるように話すエンジュさん。


 「ならば、貴様の身柄を拘束させてもらう」


 バルムが右手をエンジュさんの元に向けると、彼女の腕と足に輝く糸のようなものが巻き付けられた。


 「ぐっ……なによ、これ!」

 「魔族について知っていることを洗いざらい話してもらうぞ」

 

 バルムは再びこちらを顔を向ける。


 「アイリス、私は先に戻る。 2人を外まで保護したら取調室まで来い」

 「わかったよ」


 アイリスの返事の直後、バルムとエンジュさんの姿が消えていった。


 「……アイリス、どういうことなの?」

 「さっきも言った通り、私たちは魔族を追っているの」

 「……でも、何でエンジュさんが」

 「槐堂円珠は魔族と接触したことで、あいつらが得意とする闇の力を得ていたのよ」

 「……エンジュさんはどうなるの?」

 「魔族と接触しただけではなく力を得てるから、極刑は免れないかもね」


 アイリスの言葉に私は息を呑む。


 「……でも、エンジュさんは——」

 

 私の話を遮るようにアイリスは静かに「オルハちゃん」と、私の名前を呼んだ。


 「この前、道の駅で彼女と出会って過ごしていたのは知っているし、オルハちゃんが言いたいこともわかるけど、彼女が魔族と接触したことは事実だから」


 アイリスは一緒に過ごしてきて見たことのない真剣そのものの表情をしていた。


 「魔族を放っておけば、この世界が滅ぶとも言われてるの、それを食い止めるのが私たちの使命だから……」

 「……でも!」

 「そのためには手段なんか選んでられないの……」


 そう告げるとアイリスは踵を返す。


「この先にポータルがあるからそこから地上へ戻ろう……」


 アイリスはフロアの先へと向かっていった。


「オルハさん……」


 不安そうな表情のシオンは私の腕を掴んでいた。


「……戻ろう、今のままじゃ戦えないし」


 シオンにそう告げると、刀身がボロボロになった月華を手に取ると、先を進むアイリスの後ろをついていった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

【あとがき】

お読みいただき誠にありがとうございます。

今年も宜しくお願いいたします!


【◆◆◆ブラウザバックする前に少しだけお付き合い頂けますと助かります◆◆◆】


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▼タイトル

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