第31話 女剣客、願わぬ再会

 『オルハちゃん、シオちゃんの様子はどう?』

 「……う……ん?」

 

 しばらく周囲を警戒をしていたが、瞼が重くなってきていた。

 アイリスの声が無ければ寝ていたかもしれない。

 私の方にもたれかかっているシオンの方へと目を向けると、先ほどと同じようにスゥスゥと心地よさそうな寝息を立てて眠っていた。

 

 「……シオンならまだ寝てる」

 『そっか、さすがに魔力消費の多い魔法はまだ実践向きじゃないかな』


 ——シオちゃんぐっすり寝てますな

 ——魔法を使うって結構体力使うみたいだしな

 ——シオちゃん、ワイの膝あいとるで

 ——何言ってんだ、シオちゃんが今、特等席にいるんだぞ

 ——そうだそうだ! てぇてぇを邪魔するんじゃない!


 自分のスマホを見ると、さっき見た時よりもコメントの流れが多い気がしていた。

 時よりみえる『てぇてぇ』って言葉が目につく。


「……アイリス、リスナーが言っている『てぇてぇ』って何?」

『それを語るには万物の創世記から話さないとダメだね』

「……ごめん、余計疲れそうだからいい」

 

 肉体の疲れがでているのに、それ以外の疲れがでると動けなくなりそうだ。

 家に帰ったら直接本人に聞いてみよう。


 それからだいぶ時間が経ったが、シオンが起きる気配はなかった。


 「うぅ……ん」


 ゆっくりと頭を上げていたのでようやく目を覚ましたかと思ったが、糸のきれた人形のように再び倒れ込んでいった。

 倒れたのは私の方ではなく膝の上。


 ——お、女剣客さんの膝枕だとぉ!?

 ——う、うらやまけしからん……いやこれはたまらん!

 ——女剣客さんの膝気持ち良さそうだな

 ——FSS! FSS!


『ここのリスナーさんはいろんな性癖の持ち主がいるんだねえ』


 インカムのスピーカーから若干呆れた口調のアイリスの声が聞こえてきた。

 

 暫く、自分の周辺は静寂に包まれていた。

 アイリスに周辺の監視をお願いして自分も少し目を閉じようとしていた。


「う、うわああああああああ!」


 私の願いは突如聞こえた声によって叶うことはなかった。


 ——うおっ、何だ今の声!?

 ——なんだなんdあ!?

 ——どう見ても2人の叫び声じゃないよな?

 ——どうみても男の声だったろ?

 

 「ふ、ふぇ……!?」


 シオンは突拍子もない声を出しながら、倒していた体を起こした。

 

 「にゃ、にゃんのこえですか……今のは!?」


 どうやら完全に目が覚めたわけではないようだ。


 「……アイリス、近くに反応ある?」

 『ううん、オルハちゃんの周辺にはないよ、結構距離離れてるのかも』


 私は2本の刀を持つと、すぐに立ち上がって声がした方へと視線を向ける


 「ど、どうしたんですか、オルハさん!?」

 「……見てくるから、シオンはここにいて」


 シオンに伝えると、すぐにアイリスを呼ぶ。


 「……シオンのことお願い」

 『いいけど、無理はしちゃダメだからね!』

 「……わかった」


 返事をすると、奥に向かって駆け出していった。


 先へと進んでいくと、キン!キン!と何かがぶつかり合う音が聞こえてきた。


 「どうなってんだよ、管理局のデータベースに載ってなかったぞこんなモンスター!」

 「今は逃げることだけ考えろ、俺たちが敵う相手じゃない!」


 探索者だろうか、3〜4人の姿が確認できた。


 「ぐああっ!」


 その刹那、肉を斬るような音と男性の叫び声が聞こえてきた。


 「大丈夫か!?」

 「足をやられた……俺がこいつを抑えるから今のうちに逃げろ!」

 「そ、そんなこと!」


 会話の内容からしてどうやら1人が負傷したようだ。動けなくなった人が犠牲になろうとしているのだろうか。


 「……そんなことは絶対にさせない!」


 走りながら、焔纏刀を抜いて探索者の横を通り、勢いよく炎を纏った刀を振り上げていく。


 「うぼおおおおおおお!!!」

 

 炎に驚いたのか、彼らを襲っていたゾンビは泥を含んだような声を上げて後ろへと下がっていった。


 「……ここにもゾンビが」


 私の目前にはかろうじて人の形を保てているが、皮膚は崩れ落ち、所々から骨が見えていた。

 そこまでは倒してきたゾンビとは変わりはなかったが、腕から白い刃が飛び出している。

 どうやらこれで彼らを攻撃していたのだろう。

 

 「も、もしかして女剣客さん!?」

 「うそっ、本物!?」


 探索者たちは私を見て、驚きの声を上げていた。


 「……ここは私に任せて早く逃げて」


 振り向きざまに探索者たちにそう告げる。


 「す、すみません……!」


 探索者の1人が、足を負傷したであろう巨漢の男の肩を組むと深々と頭を下げていた。


 「女剣客さんもお気をつけて!」


 残った女性2人も私に頭を下げると、男たちの後ろを歩いていった。

 助けることができたことに安堵するのも束の間、ゾンビがこちらに向けて走り出すと、腕から飛び出した刃で大きく払ってくる。

 狙いはどうやら私の首元のようだ。

 

 「……やらせないッ!」


 刀を縦に構えて、敵の攻撃を刀身で受け止めるとキィィィンという鈍い金属音が辺りに鳴り響いていく。

 体全体を使ってモンスターを押しやり、体を捻った勢いで斬りつけようとするが……


「どうやら、噂通りの強さのようね……」


 突如聞こえてきた声が耳に入り、動きを止めてしまう。


「……この声」


 奥からゆっくりとこちらに近づいてくる足音が聞こえてきた。

 モンスターは声の主を出迎えようとしているのか、私への攻撃を止めていた。

 

「また会ったわね、桜坂織葉さん」


 灰色混じりの黒いドレスを身に纏った姿が私の目の前に姿を現した。

 

「……何で、こんなところにいるんですか、エンジュさん」

 

 その場に現れた人は数日前に出会った、槐堂円珠。

 だけど、あの場所で会った時のような優しい雰囲気が感じられなかった。

 

「できることならここ以外の場所で会いたかったわね……」


 そう告げた後、エンジュさんは肩にかけていたバッグから赤い小型ドローンを取り出し、起動ボタンを押下したのか、ドローンがゆっくりと浮き始めた。


「皆様、ごきげんよう……」


 すぐに自前のスマホの画面をタップすると、不敵な笑みを浮かべながらそう呟きだした。


 ——ごきげんよう!エンジュ様!

 ——お、今日の贄はこの女か!

 ——もしかして、この女が噂の女剣客か!?

 ——この女なら強い死霊になりそうじゃな!


「それでは始めましょうか……!」


 そう言ってエンジュさんはゾンビへと視線を向けるとすぐに私を指差す。

 その動作は彼女の隣に立つゾンビへ指示を出すかのように……


「やりなさい、デッドベイブ! あの女剣客を始末しなさい!」


 彼女の声に反応してデッドベイブと呼ばれたゾンビは私の方へ攻撃を再開した。


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