第30話 女配信者、新たな魔法を発動させる

 「……ウェアウルフ?」

 『わかりやすく言うなら、ブラッドウルフの進化系かな。 一説では戦いを重ねるうちに肉体と一緒に脳が発達してるとか言われてるけど』


 ——何こいつ、ウルフなのに二足歩行だと!?

 ——ウェアウルフじゃなかったか? 他の配信でもみたことあるぞ

 ——あのでかい爪で人間の体を裂けるってマ?

 ——女剣客さん、大丈夫か!?

 ——いや、危険なのは女剣客よりもシオちゃんじゃないか?

 ——そういやこいつら弱いと思った相手を狙うからな

 

 アイリスの説明を耳にしながらウェアウルフを見る。

 同じ黒い毛や口元には刃のような鋭い歯があり、ブラッドウルフの面影が残っているとも言える。

 

 ウェアウルフはそれぞれの手から伸びた爪同士で研ぎながらこちらに狙いを定めると、ブラッドウルフたちに指示を出すためか、右腕をこちらに向けた。

 すると、2匹のブラッドウルフが交互に位置を入れ替わりながらこちらに向かって駆けてきた。


 『オルハちゃん! ブラッドウルフの狙いはシオちゃんだよ!』

 

 アイリスの声に反応するように、シオンの前に立ち、刀を構える。

 シオンは杖を地面に突き立てて、魔法の発動準備に入っていた。

 

 1匹がこちらに向けて飛びかかってきたところを月華でなぎ薙ぎ払うと、ドサっと重い音を立てて落ちていった。


 ——さすが女剣客さん! 素晴らしい刀捌き!

 ——迷いがない!

 ——女剣客「つまらぬものを斬った」

 

 残ったブラッドウルフは恐怖から一瞬、踏みとどまっていた。


 「グォォォォォッ!!」

 

 ——うおっ、なんだ!?

 ——ウェアウルフの雄叫びだ!

 ——ヘッドフォンして聴くんじゃなかった、キーンとしてるわ

 

 その様子を見ていた、ウェアウルフが後ろで耳に突き刺さるような雄叫びを上げると、動きを止めていたブラッドウルフがこちらに向かってきた。


 ——ウェアウルフ「前進あるのみだ!」

 ——上司に逆らえないブラッドウルフくんかわいそう

 ——モンスター界にもブラックの風潮が……

 ——止まるんじゃねーぞ。

 

 ブラッドウルフの動きに合わせて刀を振り下ろそうとしていたが……


 「オルハさん、離れてください、魔法行きます!」


 後ろからシオンの声が聞こえてきたので、その場から離れる。


 「ウインドカッター!」


 シオンが魔法名を告げると同時に杖の先端から空気を圧縮して作られた刃がブラッドウルフを両断していった。

 私が斬った個体と同じように断末魔の声をあげることなく、ブラッドウルフだったものは骸と化していた。


 ——うおおおおおっ! シオちゃんすげえええ!!

 ——魔法の詠唱早くなってないか!?

 ——あんなに可憐だったシオちゃんが遠い存在になってしまっとる

 ——馬鹿野郎、うれしいことじゃねーか!

 

 「残るはあのウェアウルフだけですね……!」

 『シオちゃん、油断しちゃダメだよ!』


 残ったウェアウルフはゆっくりとこっちへ歩き始めていた。

 

 「……シオン、私から離れないで」


 目の前の敵に目を向けながら、シオンに声をかける。

 このモンスターの狙いは私ではなく、弱いと思われているシオン。

 彼女を守りながら戦うのは厳しいけど……でも——


 「……シオンは絶対に守ってみせる」


 心の中で自分に言い聞かせながら、刀を構える。

 するとウェアウルフは勢いよく地面を蹴り、こちらへ駆け出した。


 ——ちょ、はっや!?

 ——いやいや、全然見えねーぞ!?

 ——目で追う、なんてできねーぞ


 ウェアウルフは縦横無尽に走りながらこちらに近づくと大きな爪を上から振り落としてきた。

 刀身で抑えると、刀と爪がぶつかり合い、辺りにキィィィンと鈍い音が広がっていった。

 

 「グルアアアア!!」


 ウェアウルフは先ほどのような雄叫びを上げながら後ろへと下がっていったが

 またすぐにこちらに近づき、今度は両手の爪で私たちを挟み込むような仕草をとってきた。


 「……くっ!」


 月華のみでは防ぎきれないと判断し、焔纏刀を抜き出し、片方ずつ抑えることができたが、ジリジリと鋭利な爪が私の顔に近づいてきていた。

 だが、無意識のうちに焔纏刀を持っている手に力が入ったのか、ボッと音を立てて赤い刀身に炎が纏い始めた。

 

 「グルオオオオ!!?」


 炎に驚いたのか、ウェアウルフは後方へと飛び退いていった。

 人間のような動きをしているが、本能なのか火に対する恐怖感は残っているようだ。

 

 ——あっぶなぁぁぁぁ!

 ——綺麗な女剣客の顔に傷をつけるなんて万死に値するぞ!

 ——火だけにヒィィィィってか!

 ——空気嫁!


 「オルハさん、離れてください! ウインドカッター」


 私が防いでいる間、シオンは魔法の構築を行っていたようで、大声で魔法名を告げると風の刃を目の前の敵に向けて放つが、爪を大きく振って風の刃をかき消していた。

 

 「うそ……っ!?」


 驚愕するシオンを嘲笑うかのようにウェアウルフは素早い動きで攻撃を仕掛けてきた。

 交互に大ききな爪を薙いでいく。2本の刀を交差させながら刀身で防ぐ。


 「……ジリ貧ね」


 ウェアウルフの攻撃を受けながら、思わず声がでてしまう。せめて狙いが私なら楽なのに。


 『シオちゃん! この前渡した本どこまで読んでる?』

 

 インカム越しにアイリスの大声が聞こえてきた。


 「え、えっと……まだ10ページぐらいですけど」

 『そこまで読んでるなら大丈夫、スマホに送ったこの術式の構築をして!』

 「えっ……わっ!?」


 後ろからシオンの慌てる声が聞こえてきた。


 「で、でもこれ始めてですけど……!」

 『今のシオちゃんなら大丈夫! 自信もって!』

 「は、はい……!」


 アイリスに返事をしたシオンはガン!と勢いよく杖を地面に突き刺した。


 『オルハちゃん! シオちゃんがこの状況を打開する術式を構築してるから、終わるまで耐えて!』

 「……どのくらいかかる?」

 『シオちゃん次第!』

 

 つまりはわからないということだ。

 

 「……わかった」


 シオンが頑張ってくれるなら、私だってそれに応えるしかない……!

 

 「……お願いね、シオン」


 私は後ろで術式の構築を始めた仲間に向けて小さく声をかけた。

 

 

 「グオオオオオオオン!!!!」


 それからウェアウルフの猛攻が止まることなかった。

 私も隙をついて攻撃を仕掛けるも致命的なダメージを与えることができなかった。

 自分から踏み込めばその可能性もあるが、下手をしたら後ろにいるシオンが無防備になってしまう。


 こちらの歯痒さを知ってか、ウェアウルフは嬉々として大きな爪を振りかざしてくる。

 ウェアウルフも気分が良くなっているのか次第にモンスターからの攻撃が重くなってきていた。

 さすがにこれ以上続けられると流石にきつくなりそうだ……。


 「オルハさん……行きますよ!」


 後ろから自信たっぷりのシオンの声が聞こえてきた。

 

 「ローズバインドッ!!」


 シオンが初めて使う魔法の名前を告げるとウェアウルフが立っている床からバラの蔓が生え始め、足や腕を棘で突き刺しながらまとわりついていく。


 「ブォォォォォォォ!!」


 身動きが取れなくなったウェアウルフは苦しみから逃れるために雄叫びをあげていた。


 「オルハさ……ん! いまです……!」


 息を切らしながらシオンが告げると、両方の手に持っていた刀を交差させるように斬りつけていく。


 「グオオオオオオオ!!!」


 傷口から大量の紫色の血を吹き出しながらウェアウルフは断末魔の声を上げると、そのまま地面へを体を落としていった。

 しばらくの間ピクピクと動きを見せていたが、すぐに動きが止まった。


 ——す、すげえ……

 ——2人ともすげぇぇぇぇぇぇ!

 ——さっきの魔法どうなってんだ!?

 ——ウェアウルフの動きを止めたぞ!

 

 「や、やりました……ね」


 シオンの声に反応して彼女の方へ振り向く。


 「……シオン!」


 フラフラになりながら、杖を使って体を支えている彼女の姿を見て、自分の方へと抱き寄せる。


 「アイリス、シオンが……!」

 『初めて使う魔法だから、大量の魔力を消費したみたい、命に別状はないから安心して』


 アイリスの言葉に安堵する。


 「……少し休もうか」


 そう言ってシオンを座らせてからその隣に腰掛けてると、彼女を自分の方へ寄せる

 安心したのか、シオンはすぅすぃと心地よい寝息を立てて眠り出した。


 ——シオちゃんおつかれー!ゆっくり休んでね!

 ——アカン、尊すぎる

 ——いいなあ、ワイも女剣客さんの方にもたれかかりたい。

 ——今北産業、ってかなにこのてぇてぇのは!?


 シオンの小型ドローンのカメラが私とシオンを覗き込むように見ているが、疲労でそんなことに構ってる余裕などなかった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

読者の皆様に作者から大切なお願いです。


「面白そう」

「続きが気になる」

「応援する」


などと少しでも思っていただけましたら、


【フォロー】や【ブックマーク】をしていただけますと作者は大喜びします!


また、『楽しかった!』 『続きが気になる!』という方は★ひとつでも、★★★みっつでも、

思った評価をいただけると嬉しいです!

最新話or目次下部の広告下にございますので、応援のほどよろしくお願いします。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る