第26話 女剣客、新たな武器を手にいれる

 「オルハか? ワシじゃよ! 元気にしとったか?」


 下北沢ダンジョンを13階まで行った翌日、リビングでアイリスの作ったご飯を食べていると、滅多になることのない自分のスマホが鳴り出す。

 画面にはミナトの名前が表示されていたが、出てみると、ミチ爺の大きな声がスピーカーから流れ出した。


 「……うん、元気。 ミチ爺も相変わらず元気そうだね」

 『そりゃワシから元気がなくなったら何も残らんしなぁ!』


 ミチ爺は最後に豪快に笑っていた。


 「……それでどうしたの?」

 『この前来た時、ミナトのやつに頼んでいた刀があるじゃろ? やっと完成したんじゃよ』

 「……ホント!?」


 珍しく大きな声をあげたからか、キッチンで洗い物をしていたアイリスが目を大きく開けてこちらをみていた。


 『昨日やっとできたんじゃよ、すまんのぅ、ワシじゃったらすぐにできたんじゃが、ミナトが自分でやると強情になってな、まったく誰に似たんじゃがな』


 悪態をつくミチ爺だったが、口調からは嬉しそうにも感じていた。


 「……でも完成したら、ミナトが持ってきてくれるって言ってたけど」

 『それがじゃな、ずっと無理してやってたせいで、できた途端気絶するように寝込んじゃったんじゃよ』

 「……大丈夫なの?」

 『単なる疲れじゃよ、さっき見たら、イビキかいて寝とるわ』

 「……よかった」

 『それでなんじゃが、申し訳ないが取りに来れないかのう?』

 「……私が?」

 『ちょっと使い心地を確認してもらいたくてな、試し切りの青竹は用意しといてはあるんじゃ』


 ミチ爺の言う通り、刀の使い勝手や斬れ具合などは使ってみなければわからない。

 ミナトの腕を疑うわけではないが、何かあった時にすぐに対応してもらえるのは心強くもある。


 「……わかった、今からそっちに行くよ」

 『今からか? 大学の方は大丈夫なのか?』

 「……ホントは午後から授業があったけど休講になったから大丈夫」


 午後の授業の教授が昨日の夕方に熱中症にかかったとメールが来ていた。

 することもなく暇を持て余していたのでちょうどよかった。

 

 『そっか、すまんのう。 また今度あそこの旅館に泊まれるように手配するかな!』

 「……大丈夫だよ、ミチ爺にはいつもお世話になってるから」


 あの旅館で、酔ってたとは言えみっともない姿を晒してしまったこともあり、行くことに躊躇してしまっていた。


 『待っておるからのう、慌てずに気をつけてくるんじゃぞ!』


 そう言ってミチ爺から通話を終了させた。


 「この前の鍛冶師のところに行くの? たしかミナトさんだっけ?」


 ダスタークロスで私が使った皿を拭きながらアイリスは声をかけてきた。


 「……そう、頼んでいた刀が完成したみたいだから、取りに行ってくる」

 「たしか、ドワーフのいた洞窟にあった鉱石で作るってやつだよね?」

 「……うん、刀身に炎が纏う刀」

 「って話してたね、この前も下北沢のダンジョンでゾンビに遭遇したからちょうどいいね」


 1人で行った時や先日シオンと行った時にゾンビと戦ったが、完全に動けなくなるまでに相当な体力を消耗した。

 アイリスが言うにはゾンビは火に弱いから燃やせれば楽だと話していたが、今回ミナトが作った刀はそれに適っていた。

 

 「ってかオルハちゃん1人で平気? シオちゃんと一緒に行った方がいいんじゃ……」

 「……シオン、レポートに追われてるから無理」


 午後からダンジョンに行く予定だったが、昨日の夜にシオンからレポートが溜まってるとLIMEでメッセージとスタンプが送られてきた。

 ここ数日、アイリスから渡された魔法の本を読むことに夢中になっていて、レポートのことをすっかり忘れていたようだ。


 「本当にオルハちゃん1人で大丈夫!?」

 

 心配してくれるのはとても嬉しいが、必要以上に心配されるのは心外な気分になり、ムッとした顔でアイリスの顔をみていた。


 

 バイクのエンジンをかけ、ハンドルの中央に取り付けたホルダーへスマホをセットする。

 スマホの画面にはナビアプリが表示されており、目的地にはミナトの家の住所がセットされている。

 対応したのはもちろんアイリスだ。

 

 「……心配しすぎ」


 ため息をつきながらバイク用のインカムを装着したヘルメットを被る。

 ナビアプリの音声が聞こえることを確認してからギアをローに入れてからゆっくりと発進していった。

 

 平日なのもあってか渋滞につかまることなく、見覚えのある山道まで来ることができた。

 ミチ爺の軽トラで通った細道を走っていき、ミナトが住んでいる小屋に辿り着くことができた。


 バイクを停めてから、玄関にあるインターフォンを押していくと見た目とは想像できないリズミカルな音が部屋の中に流れていった。


 「おぉ! 待っておったぞ!」

 

 すぐに引き戸タイプの玄関が開き、姿を見せたのはミチ爺。

 

 「まあ、こんなとこでなんじゃし、中で話すかの」


 そう言って、ミチ爺は家の中に入っていったので私も続いて中に入ると、囲炉裏がある応接間へと案内された。

 

 「……ミチ爺、ミナトは?」

 「奥でまだイビキかいて寝てるぞ」


 そう言ってミチ爺は奥の部屋を視線を向けていた。

 たしかに奥の部屋からグゴォォォという音がうっすらと聞こえていた。

 

 「ちょっと待っておれ」


 そう言ってミチ爺は工房がある部屋へと向かっていった。

 

 「ほれ、これが完成した刀じゃよ」


 戻ってきたミチ爺は1本の刀を私に差し出した。

 実家を出る時に渡された刀だったので、受け取った時、馴染んでいた感触が戻ってきた。


 「……ありがとう」

 

 お礼を言うと、すぐに渡された刀を鞘から引き抜いていく。


 「……すごく綺麗」

 

 刀身の部分があの洞窟で見つけた鉱石のように赤く染まっていた。


 「……ミチ爺」

 「どうしたんじゃ?」

 「……試し切りしていい?」

 「もちろんじゃ、外に用意してあるぞ」


 そう言うとミチ爺は軽快な足取りで工房の奥の勝手口を開けて外へと出ていった。

 勝手口から外に出ると木の柵で覆われており、その一帯には何もないため、気兼ねなく刀を振うことができそうだ。

 

 「ほれ、そこに試し切り用の青竹があるじゃろ?」


 ミチ爺が指差した先にはいくつもの青竹が並べられていた。


 「ある程度用意しておるから、好きなだけ試してみても構わんぞ」

 「……うん、ありがとうミチ爺」


 軽く頭を下げると、受け取った刀を左手に持ち、斬る対象を一心に見ながら、鞘から刀を抜くと刀身に炎が纏い始めた。

 そのまま青竹に向けて刀を振り下ろすと、刀身に纏った炎が青竹に移り、勢いよく燃え上がっていく。


 「……すごい」


 パチパチと音をあげて高く燃え上がっていく青竹を見て驚きの声をあげてしまう。

 いつもの流れで刀を鞘に収めると、刀身に纏っていた炎がスッと消えた。


 「ふむ、問題はなさそうじゃのう」


 一連の流れを見ていたミチ爺が安心した様子で私を見ていた。


 「……うん、ありがとうミチ爺」

 「これこれ、お礼を言うのはワシじゃなくてミナトにじゃぞ」


 ミチ爺はいつも通り豪快に笑っていた。

 

 

 「……それじゃ、そろそろ行くね」

 

 刀をバイクのシートの下にしっかりとマウントさせてからエンジンをかけた。


 「今度はお友達とゆっくりとじゃな」

 「……うん、わかった」


 返事をしてからシートに跨り、ヘルメットを被る。


 「あ、そうじゃ一つ言い忘れておった」


 声が聞こえてきたので、ヘルメットの正面にあるシールドを上に上げる。


 「……どうしたの?」

 「ミナトのやつから伝えるように言われておったんじゃが」

 「……何を?」

 「ミナト曰くじゃが、その刀の名前は焔が纏う刀と書いて焔纏刀ぜんでんとうって言うそうじゃ」

 「……『ぜんでんとう』ね、わかった」


 最後にミナトによろしくと伝えると、ゆっくりとバイクを発進させた。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 

 「ミナト、オルハ行ったぞ」


 ミチ爺はミナトのいる部屋のドアを開ける。


 「まったく、若いからした方ないと思うのじゃが、いい加減にしたらどうじゃ?」

 「それは俺じゃなくてこっちにいってくれ!」


 ミナトは自分の右腕を左人差し指で差す。

 そこにはミナトの腕にしがみつく姿があった。

 長く真っ赤な髪に健康的に見える褐色肌。顔つきからして女の子だとわかる愛くるしい顔をしていた。

 

 「こんなところ、オルハに見せれるわけないだろ!」

 

 ミナトの言葉にミチ爺は大きくため息をついていた。


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