第25話 女エルフ、思考を巡らす そして……(SIDEアイリスと+α)

 『……13階でポータル発見した』

 

 ——女剣客さん、シオちゃんおつかれ!!

 ——なんかポータル見ると落ち着くなあ

 ——はははは、大きな灯りだぁ!

 ——今日も2人が無事に帰れてオジサン安心したよ


 あれからオルハちゃんとシオちゃんは下北沢ダンジョンを進み続けていた。

 途中でモンスターに遭遇したりすることもあったが、2人で協力して撃退していた。

 

 「うん、こっちのカメラでも映っているよ」

 『よかったぁ……さすがに途中からフラフラになってました』

 

 ——2人ともがんばったよ!

 ——シオちゃんの頑張りにおじさん泣いちまったよ!

 ——2人ともこれで美味しいものでも食べて元気になってね![/10000]

 

 シオちゃんは比べて魔力が上がっているとはいえ、何度も発動させていたため魔力切れの心配になっていた。

 ポータルを発見したと聞いて安心していた。


 『……シオンもこんな状態だから今日は戻るから』

 「うん、夜も遅いから気をつけて帰ってきてね」

 『……わかった』


 オルハちゃんは返事をすると通信を終了させた。

 それと同時にシオちゃんも今日の配信を終了する旨を伝えていた。


 「さてと……飲みもの持ってきたらやることやっちゃおうかね」


 両腕を伸ばしながら立ちあがろうとすると腕と膝からパキパキと音がしていた。


 

 「さてと、こいつを調べるとしますか」


 机の上に小さな箱を置き、ゆっくりと開いていく。

 箱の中には数日前にオルハちゃんとシオちゃんが持って帰ってきた黒い石のカケラ。

 あのゾンビの近くに落ちていたものだが……。


 「私の記憶に間違いがなければ、あのダンジョンにあるべきものじゃない」


 この黒い石はおそらくパラケストーンと呼ばれる。この世界にない鉱石だ。

 魔力を貯めることができることから、魔力を好む精霊たちに好まれている。

 そのため、精霊たちと交流がメインである精霊師が使うことが多い。


 「……ここまで真っ黒ってことはまともなことに使われてないよね」


 このパラケストーンに貯めている魔力の属性で色が変わる。

 火の魔力を貯めているなら赤、水の魔力なら青といった感じだ。


 石がここまで真っ黒と言うことは、闇魔法である可能性が高い。

 ゾンビを使役させるための魔力を貯めていたなら、持ち主はネクロマンサーかもしれない。


 「だとしても、この石を真っ黒にするぐらいの闇の魔力を貯めるには膨大な魔力が必要だし、そもそも闇魔法は今の人間には使えないはず……」

 

 独りごちた私は全体重を椅子の背もたれにかけながらため息をつく。

 

 「この前の召喚魔法陣といい、この宝石といい、どう考えても人間ができることじゃないんだよなあ……やっぱり結論は1つしかないのかな」


 先ほど持ってきた飲み物を一気に飲み干す。


 「って、もうこんな時間か、オルハちゃんたち帰ってくるから夕飯の用意をしないと!」


 色々な思考を巡らせているうちに、かなりの時間が経っていたようだ。

 パソコンをシャットダウンさせると、タブレットを持って自分の部屋を出た。


 「いつも通りシオちゃんもくると思うし、多めに作っておけばいいか」


 オルハちゃんがたくさん食べるのは毎度のことだが、ここ最近シオちゃんもたくさん食べるようになっていた。

 十中八九、魔法を使うようになったからだ。魔法の術式を構築するには集中力が必要になり、それに合わせて体力を大幅に消費していく。

 そのため、お腹が空いてしまう。


 「まあ、作った料理を全部食べてくれることは悪い気がしないしね」


 まるで母親のようなことを口にしながら、冷蔵庫からとってきた豚肉とキムチを取り出して、コンロに火をつけた。


 「さてと、今日は何を流そうかな〜」

 

 キッチン用のカバーに収納したタブレットの画面をスライドしていく。

 調理中に音楽を流すのは日常茶飯事。このタブレットもそのために買ったようなものだ。

 配信動画サイトのアプリをタップして、TOPに表示された切り抜き動画に目が行ってしまう。


 【閲覧注意】ゾンビを作り出すエンジュたんの総集編


 「ど、どういうこと!?」


 すぐにサムネイル画像をタップして、動画を再生させる。

 閲覧注意と書かれている通り、モザイクがかけられているもののダンジョンで殺された探索者の亡骸が映っており、灰色の髪に真っ黒のドレスを着た女が亡骸の前に立っていた。


 「うへえ……何でそんなにマジマジと見てるの、そういう趣味の人なのかな?」


 グロテスクな映像から目を背けていたが、彼女が取り出したものを見て、食い入るように見てしまっていた。


 女の手には真っ黒に染まった石が握られていたからだ……。

 


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 

 「おいおい、夢なら覚めてほしいぜ……」


 オルハたちが下北沢ダンジョンを出てから数時間後のこと、男2人の探索者たちはダンジョンの一角でモンスターと対峙していた。

 

 口を開いている男の後ろには大量の血を流した遺体が転がっていた。

 動く様子がないことから、既に息絶えているのだろう。


 「俺たちはこうならないようにここはなんとか切り抜けるぞ!」


 男は隣にいる仲間に声をかけるが、仲間から返事がくることはなかった。


 「う、うわあああああああ!!!!」


 仲間だったものは首から上の部分がなくなっており、大量の血を吹き出していた。

 すぐにモンスターがいる方へと視線を向けるが、既にその姿はなかった。


 「ち、畜生!!! どこ行きやがった!!!!」


 男は震えながらも剣を構え、周囲を見渡していくと正面に先ほどのモンスターの姿を捉える


 「そこにいやがったか、仲間の仇だ! くたばれぇぇぇぇぇ!!!!」


 男は恐怖心を払拭するように怒号を上げながらモンスターの元へと駆けていく。

 それ以降、男の声は聞こえなくなった。

 


 「素晴らしいわ!!!」


 しばらくしてダンジョンの奥から女性の声が聞こえ、男と対峙していたモンスターに近寄ってきた。

 長い紫色の髪に全身を覆う漆黒のドレス。更に特徴を述べるとすれば……背中には禍々しさを連想させる翼。

 

 現れた女はモンスターに近寄ると、祝福するかの如く抱きしめていた。


 「エンジュ、そこにいるのでしょ、こちらに来たらどうかしら?」


 女はモンスターを抱きついたまま、ダンジョンの奥へと視線を向け、声をかけた。

 それに反応するように、彼女に近づく足音が聞こえてきた。


 「何の用よ、ベローズ」

 

 黒いドレスを纏ったエンジュはモンスターに抱きついているベローズと呼んだ女を目を細めてみていた。


 「ふふっ、離れろって顔をしているわね」


 ベローズはエンジュを揶揄うような笑みを浮かべながらモンスターから離れていった。


 「別に……」


 エンジュはベローズの赤い瞳から目をそらしていた。


 「それで、何の用よ。できることなら1人になりたいんだけど……」

 

 「この子のチューニングが終わったら、お願いがあるんだけどいいかしら?」

 「何を改まって?」

 「この子を使ってある探索者を仕留めて欲しいのよ」

 「誰を……?」

 

 エンジュの問いにベローズは妖艶な笑みを浮かべる。


 「今、動画配信で話題となっている女剣客よ」


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