第23話 女配信者、魔法を使えるようになる
『シオちゃん、ブラッドウルフがこちらに気づいたみたい、大丈夫そう?』
インカムからアイリスがシオンに向けて声をかけていた。
「だ、大丈夫です……!」
シオンはアイリスから渡された機械混じりの杖を地面に突きつけながら返事をしていた。
緊張からなのか、声と体が微かに震えていた。
「……シオン、緊張しなくても平気。 いざとなったら私が守るから」
『そうだよシオちゃん、ヤバいと思ったらオルハちゃんを盾にして逃げるんだよ』
アイリスに言われると何か納得したくなくなるが、そのつもりではいた。
そのため、いつでも刀を抜けるよう右手を柄に添え、モンスターの方を見ていた。
『そろそろ姿が見えてくると思うから、シオちゃん、術式の構築を開始して! ちなみにこれから発動させるのは1ページにあったやつだよね?』
「そうです……!」
シオンは答えつつも、両手で杖を掴むとゆっくりと目を閉じる。
「……魔法の詠唱ってどうやるの?」
『魔法にはそれぞれ術式と発動させるため構文があるんだけど、杖の中にあるエディタに書き込んで実行させると発動するんだけど——』
アイリスは淡々と説明してくれるが、何を言っているのかさっぱりわからなかった。
『ちなみにオルハちゃん、今ので理解できた?』
「……全然わからなかった」
『だと思ったよ、途中から返事がなかったし』
私の思っていることが筒抜けだったようだ。最後にため息をついていた。
『うまくいったら発動する魔法名を言うはずだから、その時は巻き込まれないように注意して』
「……わかった」
アイリスの話を聞いているうちに、目前にブラッドウルフが姿を見せていた。
あちらも私とシオンの姿が視界にはいったようで、いつでも飛びかかれるようにしているのか狙いを定めジリジリと近づいてきていた。
「……アイリス、あとどれくらいかかりそう?」
『こればっかりはシオちゃんしかわからないよ、でも今集中しているから声をかけちゃダメだからね!』
ブラッドウルフに目をむけると、餌にありつけて喜んでいるのか、口元からヨダレと思える液体が垂れていた。
私がずっと構えながら目をむけているためか、ブラッドウルフはこちらを見ようとせずシオンの方を見ている。
シオンは魔法を使う準備を始めてから、微動だにしない。あちらからすれば無防備に見えるのだろう。
そして、ブラッドウルフは待ちきれなくなったのか、後ろ足をバネのように弾ませながらしてシオンに向けて飛びかかってきた。
「……させない!」
すぐに刀を抜いて飛びかかってきたブラッドウルフに向けて横薙ごうとすると……
「ウインドカッター!」
後ろから突如、声が聞こえると、立てかけている杖の先端から刃が作り出され、打ち放たれた。
刃は飛びかかってきたブラッドウルフの体を両断すると同時に消え、ブラッドウルフだったものはシオンの目の前に落ちていった。
「で……できたぁぁぁぁぁ〜」
シオンは喜びの声をあげるが、そのまま床に座り込んでしまう。
「……シオン!?」
刀を鞘に収めながら彼女の元へと行くとシオンはゆっくりと顔をあげる。
「あはは、ドッと疲れがでちゃいました」
「……大丈夫?」
「体がちょっとフラフラしますけど、休めば何とかなりそうですよ〜」
元気を装っているが、表情は隠せないのか顔から疲れているのが出ていた。
「……アイリス!」
『初めて魔法を発動したことによるものによる反動だから、そこまで慌てなくても平気だよ』
「……魔法を使うのってこんなにも疲れるものなの?」
『シオちゃんはまだ魔力が低いからだね。 何度も発動させたり、慣れていくことで魔力が上がっていくから』
アイリスと話しているとふらふらになりながらもシオンが立ちあがろうとしていた。
「……まだ休んでた方がいい」
『シオちゃん、オルハちゃんの言う通りだよ』
「わかりました……」
シオンは不服そうな声を出してはいるものの、少し安心したような顔をしていた。
自分達の周辺にモンスターの気配がないことを確認してからシオンの隣に座る。
「……シオン、こっちに寄っていいよ」
シオンの肩を掴むとグイッと自分の体の方に寄せる。
「あ、ありがとうございます!」
突然やったので驚かせてしまったらしい。
シオンの声が裏返っていた。
「オルハさん……」
「……どうしたの?」
「この瞬間だけ配信していいですか!? リスナー達が喜びそうな気がするので」
「……休むことに専念しなさい」
「は〜い……」
不貞腐れたような声で返事をするシオン。
疲れてる時まで配信のことを考えなくてもいいのにと思ってしまう。
「オルハさん」
「……まだ休んでないとダメ」
「休んでるだけだと暇なので、お話がしたいだけですよ〜」
シオンの返答にアイリスが笑い出していた。
『お母さんみたいなこと言ってないで話し相手に付き合ってあげなよ』
そんなことを言うアイリスの方がお母さんみたいだと言いたいところだが、大声で色々言い出されると面倒なので素直に聞くことに。
シオンは子供のように「わーい」と喜びの声をあげていた。
「私、魔法が使えるようになったら役に立てますよね?」
シオンは少し寂しそうな声でそんなことを口にしていた。
「……何でそんなことを聞くの?」
「だって、ダンジョンだといつもオルハさんが戦っているじゃないですか、私はいつも後ろにいるだけですし」
「……そんなことないわよ、シオンのおかげでギルドも作れたし、念願だったポータルだって使えるようにもなったんだから」
ギルドの申請料も月々のポータル使用料も彼女の配信で稼いだお金を出してもらっている。
ギルドだって作れたのも、シオンが私に声をかけてくれたからだ。
まともに声をかけるすらできなかったことをシオンがしてくれたから、今こうして目標に向かっていくことができる。
「そんなの大したことじゃないですよ、オルハさんがやっていることに比べたら……」
シオンは私の腕をギュッと掴み始めていた。
「町田ダンジョンのあのバケモノスライムの時だって、オルハさん、痛い思いしたのに私は後ろで見てることしかできなかったんですから……!」
徐々にシオンの目頭に水滴が溜まり出していた。
「……私にはそれしかできないから」
今の私には刀で戦うことしかできない。
「……自分が傷つくのは別にいいけど、仲間が傷つくのはみたくないから」
私の剣の流派、『龍桜神妙流』の教えである 『人を助け、人を活かし、人を導く』にもあるように
人を助けるのが私にとってあたりまえのことだ。
「だったら私もオルハさんが傷ついていくのは嫌です……!」
シオンは頬を伝っていく涙を拭いながら私の顔をじっと見ていく。
「まだ、全然ですけど……いつかはオルハさんを守れるようになりたいです」
涙を拭っていくが、決壊したダムのように次々と涙を流していくシオン。
「……けど——」
『あーもう!!』
私が話をしようとしていると、インカムごしにアイリスが大声をあげだした。
「……アイリス、耳がいた——」
『何でオルハちゃんはそうやって自分だけで抱えようとするの、もう!』
「……だから大声で——」
『オルハちゃんは傷ついてもいいって言うけどね、それを見ている側のことも考えてあげなさいよ!』
アイリスは自分の思っていることを言うと最後にため息をついていた。
『ギルドを作るってことは、お互いに助け合うってことなんだからね、まったくシオちゃんみたいなまっすぐな性格の子なんか人間でもエルフでもそういないんだからね!』
「……わかったから大声で言わないで」
『わかったなら、シオちゃんに謝る! ついでに抱きしめてあげなさい!』
何か母親に怒られた子供のような気分になりながらもシオンの顔を見て「ごめん」と一言告げ、言われた通りに彼女の体を抱きしめた。
「わっ……ちょ、ちょっと心の準備というかぁぁぁぁぁ〜!」
抱きしめられながらシオンは大声をあげていた。
さっきより元気になったみたいでなによりだ。
『うへへ、2人のてぇてぇ独り占めしちゃってるわ、ごめんね、シオちゃんねるのリスナーたち』
遠く離れた一室にいるエルフが不気味な顔でやけていたことを2人が知る由もないのは言うまでもない。
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