第21話 女剣客、彷徨える死霊を滅する
——うっわ……ゾンビなんて初めてみた、生で見るとキッショいな
——ゾンビって魔法が有効的って聞くけど、どうするんだ?
——ゾンビに噛みつかれたらゾンビになっちまうのか?
「……う”う”う”う”う”う”う”う”う”!!!!」
ゾンビは耳を塞ぎたくなるような声をフラフラと体を横に揺らしながら、近づいてくると持っている剣を振り落としてきた。
キンという金属同士が激しくぶつかり合った時の鈍い音があたりに広がっていく。
「……そこッ!」
相手の剣を刀身で受けたまま全体重をかけて、ゾンビを前に押し出すとすぐに刀を勢いよく振り落とすとベチャッと音を立てて、片方の腕が地面に叩きつけられた。
——おお! 見事な腕前!
——一瞬のことで見えなかったぞ!!
——にしても嫌な音がしたな、飯食う前でよかったぜ
普通の人間なら、腕を切り落とされたら痛みでのたうち回るところだが、目の前のゾンビはそんな様子を見せることなく、再びこちらに向かって剣を振り落とそうとしていた。
「腕切り落とされてるのに何で平気で向かってくるんですか……!?」
『ゾンビには痛覚なんかないみたいだね、脳みそも腐ってるから麻痺してるって言った方が的確かも』
淡々と語るアイリスの言葉に対しシオンは「ひぃぃぃぃ」と恐怖の声をあげていた。
『オルハちゃん、前に戦ったことがあるから覚えてるかもしれないけど、ゾンビを倒す方法は——』
「……切り刻めばいいんでしょ?」
前に1人で来た時に大量に現れたゾンビと戦ったことがある。
体を両断するだけでは無力化できなかったので、全て寸断して対処できた。
そのおかげで体力のほとんどを消耗し、無我夢中で戻らなければならなくなったのだが……
「……シオン」
「な、何でしょう!?」
「……私から離れて、下手したらシオンも被害が及ぶ可能性もあるから」
「えええええ!?」
彼女に告げると、一度刀を鞘に納めてからもう一度柄に手を添える。
——おっ、どうしたんだ女剣客さん!?
——刀を鞘に納めている?
——ま、まさかとは思うけど、諦めたわけじゃないよな?
——いやいやまさか、我らの女剣客さんがこんなザコに負けるわけないだろ?
——これはすごいものが見れるかもしれませんぞ!
ゾンビは私に向けて剣を振り落とそうとしていた。
けど、それよりも早く刀を鞘から抜き、ゾンビの体を斬りつけると、残っていた腕がクルクルと舞い上がり、天井に剣が突き刺さった。
「『龍桜神妙流 桜閃舞ッ!』」
そのままの勢いを殺すことなく、体を大きく捻りならが剣を大きく横薙ぎ、ゾンビの体を両断する。
「……まだまだッ!」
真っ二つになってもゾンビは動き続けることが可能なのはわかっている。
右足をドンと地面に叩きつけ、駆け抜けるようにゾンビの前に立つと同時に大きく刀を振り下げていく。
その後も、何度もゾンビを斬りつけていくうちに私の周りにはゾンビの肉片や来ていた服の破片などが散りばめられていた。
「す、すっご……」
その様子をみていたシオンは大きく目を開けながらこちらをみていた。
——す、すっげぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!
——ありのまま思ったことを(ry 気がついたらゾンビがバラバラになってた
——目で追うこともできなかった
——な、何がおきたんだってばよ!?
一息ついてから刀身についた肉片や液体を振り払ってから鞘に収める
『リスナーさんとシオちゃんが驚きまくってるよ』
「……そうなの?」
スマホを取り出して画面を見ると、毎度の如くコメントが画面を埋め尽くしていたため、内容に関しては全くわからなかった。
『あれ……?』
スマホをしまっているとインカム越しにアイリスの声が聞こえてきた。
「……どうかした?」
『何かオルハちゃんの足元に何か光ってるものがあったんだけど』
「……ちょっと待って」
そう言われて、足元を見ていくと微かにだが、こちらに向けて光を放つ物体があった。
よく見ると、そこには黒いカケラが落ちていた。
拾うために宝石を掴もうとすると……
「……ッ!」
指先に電撃のようなものが走り、とっさに指を離してしまう。
若干だけど指先がビリビリと痺れている感覚が残っている。
「オルハさん、どうしたんですか!?」
「……この宝石を触ったらビリってきた」
『もしかしたら防衛魔法かもしれない、よほど触られたくないのかもしれないね。 できるなら持ち帰ってほしいけど、厳しいかな』
アイリスが半ばあきらめたような声で話していると、隣にいたシオンがふいに宝石に手を伸ばし始めた。
「シオン、ダメ……!」
私がとめるもシオンの指は宝石へと触れてしまっていた。
「あれ? 私には何もないですよ?」
シオンは平然な表情で何度も宝石を触っていた。
『マジ……? シオちゃんやせ我慢とかしてないよね?!』
「してないですよ!」
彼女の顔を見る限り、我慢をしているようには見えない。
けど、何で……?
『もしかしてシオちゃん……』
「……どうかしたの?」
「オルハちゃん、一度シオちゃんと一緒に戻ってきてくれない?」
「……別にいいけど、シオンは平気?」
「大丈夫ですよ!」
「……それじゃ、私の家に行こうか」
もっと先に進みたかったが、先ほどのゾンビとの戦いによる疲れがでていたのもあったのでちょうど良かったかもしれない。
周囲に気を配りながら、ポータルのところまで戻っていった。
——なぁ、これから女剣客さんの家に行くみたいだぜ
——しかもなんかムードある感じに誘ってたよな?
——も、もしかしてこの前の続きが!?
——お、おまえらも、もちつけ!
——まずはおまえがおちけつ!
——オマエモナー
リスナーたちの桃色の妄想が繰り広げられていたことは2人が気づくことはなかった。
「ってことで、今日の配信はここまでにしますね!」
——シオちゃん、女剣客さんおつかれー!
——これから2人の時間ですなニヨニヨ
——おいおい、2人だけじゃなくて俺も混ぜろよー
——↑万死に値する
ポータルから入り口まで戻ってくると、シオンは小型ドローンの電源を切ると、スマホの画面に表示された『配信終了』のボタンをタップしていた。
「リスナーさんが変なこと言ってけど、どうしたんだろう……」
シオンは配信終了になっていることを確認すると私の見る。
「それじゃ、いきましょう!」
シオンが先導して、駅まで続く道を歩いていった。
ちなみに途中で店から漂う匂いに釣られそうになったのは言うまでもない。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「あーあ、せっかくチューニングできてたのにざぁ〜んねん」
ポータルを目指してダンジョンを進んでいく彼女たちを覗き見る1つの影があった。
「でも、その代わり面白いものみつけちゃったからいいか♪」
影は指を口元にあてながら「ふふふ」と妖艶な笑みを浮かべていた。
「あれがデモンウーズを葬った女剣客ね、私が倒したらアイツどんな顔するか、考えただけでゾクゾクするわね」
そうつぶやいた影はフロア中に禍々しい形の大きな翼を広げていた。
「またあの子にでもお願いしようかしらね、ふふふっ」
そう呟くと影は暗闇の中へと消えていった。
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