第18話 女配信者、女剣客と一夜を共にする(SIDEシオン)

 ——今日もシオちゃんねるの配信はなしかぁ

 ——ツブヤキッターでは女剣客さんと出かけるとか言ってたな

 ——俺もシオちゃんや女剣客とデートしたい人生だった

 ——そういや、あの2人ギルド作ったんだってな

 ——らしいな、やっぱダンジョン攻略にはギルドが必要だって言われてるし、ソロはキツいだろ

 ——マジか、今から2人のギルドの加入申請出してこようかな

 ——いいかもな、入団試験とかあるのかね?

 ——ちょっとみんなで考えてみようぜ っ『S級モンスターをワンパンする』

 ——っ『女剣士に勝つこと』

 ——っ『シオちゃんねるのユーザー数を超えること』

 ——どれも無理すぎて草

 ——ムリwwww

 ——簡単にS級ぶった斬れるの人相手に勝てるわけないだろ、いい加減にしろ!

 

 ——お、ツブヤキッターにシオちゃんが呟いてるぞ

 ——mjk!

 ——スマホで書き込んでて、ツブヤキッター見れないから、見れる人教えてくれ

 ——『この後、配信します』って書いてあるな。おっ! 続きもあるな

 ——『今回はあの女剣客さんも一緒です!』だってよ!?

 ——マ!?

 ——ちょっと俺、飯と酒買ってくる!

 ——オレは風呂入って全裸待機してるわ!

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 掲示板サイトが賑わう数時間前……


 

 「おぉ〜! すごいいい眺め!」


 案内された部屋の奥には客室露天風呂が完備されており、顔を見上げれば満天の星空が広がり、ロマンティックな雰囲気が出ていた。

 いっそのことお風呂配信とかやってもいいかと思ったが、下手したら配信停止になりそうだし、そもそもオルハさんが嫌だと話していたので小型ドローンは部屋に置いて来た。


 それにしても、部屋も広い且つ豪華で本当に私たちが利用してもいいのかと思えるぐらい。

 いきなり明日になって請求されないよね……?


 「……いい眺めね」


 外の景色を眺めていると、ガチャとドアを開けたオルハさんがやって来た。

 体をバスタオルで包み、さきほどまでポニーテールだった髪は解かれて、さらりと腰まで伸びていた。

 

 「エッ……!?」

 

 その姿を見て私は思わず喉の奥から卑猥な言葉が出かかってしまう。

 バスタオルに包まれていてもわかるスタイルのよさ。

 すぐに自分の貧相というか、中学から全く変わらない体つきを見て、地の底へと叩きつけられた気分になる。


 「……シオンどうしたの?」


 オルハさんが不思議そうな顔で私を見ていた。


 「オルハさん、私に何かあったら迷わず斬ってください!」


 心の奥底から思ったことを彼女に伝えるが、意味が通じなかったらしく首を横に傾けていた。


 

 「くぅぅぅ! 気持ちいい〜!」


 体を洗って湯船の中に入るといつもの癖で声が出てしまった。

 仕方ない、お風呂に入ったら誰もがこうなるに決まってる。


 「……ちょうどいいお湯加減ね」


 オルハさんは露天風呂の端に腰掛けて、足だけ湯につけている。

 景色を見ている姿は本当に自分と同い年なのかと思えるぐらいの艶っぽさを醸し出していた。

 同性の私でも彼女を見ると、心臓の鼓動が早くなっていくのに、男性がみたらどうなってしまうのだろうか。


 「……ここ数日で色々あったね」


 オルハさんは私の方を見て、話しかけて来た。

 私の脳内で繰り広げられていた中学生男子レベルの妄想は遠い彼方へと吹き飛んでしまっていた。


 「そういえば、あれから数日しか経ってなんですよね」


 町田ダンジョンでオルハさんと出会ってからまだ2週間も経っていない。

 彼女の言う通り色々ありすぎてもっと経っている感覚になっていた。

 

 「まさか私も助けてくれた人とギルドまで作るなんて思いもしなかったですね」


 あの時、町田ダンジョンでS級モンスターに襲われなければオルハさんとは出会うことはなかった。

 一種の怪我の功名ともいえるものだろうか。


 「……そうね、あれ以来シオンのリスナーから女剣士って呼ばれるようになったわね」


 ため息混じりに話すオルハさんだったが、顔を見る限り、あまり嫌ではなさそうにも見受けられる。


 「そういえば、昨日雑談配信をやったんですけど、リスナーの皆さんオルハさんを見たいって言ってましたよ」

 「……何で?」

 「オルハさんがカッコいいからだとおもいますよ!」


 そう伝えると、彼女の表情はいつも通りだが、頬や耳に目を向けると赤くなっていた。


 「……絶対に違うと思うけど」

 「それじゃ確認してみますか?」

 「……何をするの?」

 「せっかくいい所に来たんですから2人で雑談配信しましょう!」

 「……もしかしてさっき言ってた、お風呂配信?」


 オルハさんは私から見てもわかるぐらいの嫌そうな表情を浮かべていた。


 「今のオルハさん映したらBANされるので、できないです! やるなら雑談配信ですね」


 どう言ったものか説明すると、「その場にいるだけでいいなら」と了承してくれた。

 個人的には撮っておきたい気持ちでいっぱいだけど。


 「それじゃお風呂上がって、夕飯済ませたらやりましょう!」

 「……わかった」


 オルハさんの返事を聞くと私は湯船から出て脱衣場へと入っていった。



 「みなさん、お待たせしてすみません! シオちゃんねるスタートしましたよー!」


 食事を済ませてから小型ドローンを取り出してから配信を開始させた。


 ——シオちゃん待ってたよ!

 ——こんばんわー!

 ——全裸待機して待ってました!

 ——↑を通報しときますた


 事前にツブヤキッターで事前に宣伝していたせいか、始まると同時に大量のコメントが流れだす。


 ——お、今日のシオちゃん浴衣姿じゃん、旅館にいるの?

 ——ホンマや! 何かものすごい広い部屋にいないか?

 ——そういえば女剣客と一緒って呟いてたけどまさか?!


「あー、もう気づいた人もいるみたいですが、そうです! 今日はとある旅館での配信になります!」


 話すと同時にドローンに向けて手を振る。


「そして、今日はこの方と一緒に配信しています!」


 ドローンのカメラを隣に座るオルハさんの方へと向ける。


「私もみんなも大好き女剣客こと桜坂織葉さんです!」


 カメラを向けられたオルハさんは硬い表情になりながらも小さく手を振っていた。


 ——おお!これが女剣客さんか!

 ——女剣客、本邦初公開!

 ——ふ、ふつくしい

 ——浴衣姿が似合ってる!

 ——ドキがムネムネする

 ——やばっ、めっちゃスタイル良くないか!?


 「さて、オルハさんもいることですし、今日の配信はこれをいっちゃおうかなと思います!」


 ドローンをテーブルに向ける。

 そこには缶ビールや果実酒などが置かれている。

 旅館内にある自動販売機で買ってきたものだ。


 「……シオン、お酒飲めるの?」

 「普段はそんなに飲まないですけどね、オルハさんは?」

 「……気が向いたら飲むぐらい、アイリスが好きだから」


 そう言ってオルハさんは橙色の缶ビールを取るとすぐに開け出した。

 

 ——お酒配信だと!?

 ——もしかして、2人の霰もない姿が見れるかも?

 ——マジか、ちょっと俺も酒持ってくる!

 ——いいぞぬげーぬげー!

 ——もしもしポリスメン?


 「よろしければリスナーの皆さんも一緒にしてくださいね、それじゃかんぱーい!」

 

 そう声を上げながら隣に座るオルハさんと目を合わせながら各々の缶を上に上げる。

 

 ——かんぱーい!

 ——シオちゃん、女剣客さんかんぱーい!

 ——今宵も君の瞳に乾杯!

 ——プロージット!

 

 お酒を選んだのは色々と理由があるが、これがあれば普段から何も喋らないオルハさんが少しはしゃべってくれるかなと。

 まあ、数時間後にあんなことになるなんて、この時の私には想像つかなかったんだけど……。



 お酒を飲みつつ、リスナーのコメントに返しながら配信をしていくうちに気がつけば2時間近く経っており、もうすぐ日付が変わろうとしていた。


 「もっと楽しみたいですけど、日付も変わりますのでそろそろ終わりにしたいと思います!」


 ——マジかよ、まだまだ飲み足りないぜ!

 ——このまま朝チュンでもオレは構わないんだぜ?

 ——よし、このまま次の枠に行こうぜ!

 ——2人の美女を見ながらの酒はやめらんねーぜ!


 どうやらリスナーたちは楽しんでくれたようで安心した。

 オルハさんも最初は緊張していたが、少しずつ自分から話すようになっていた。


 「それじゃ、最後にオルハさんからご挨拶をいただきたいと思います」


 そう思ってオルハさんを見ると、限界が近づいていたのか目が虚になっていた。


 「オルハさん、よかったら最後に一言——」


 お願いしますと言いかけたところで、オルハさんは私の胸元に。

 

 「うわわわわっ、オルハさんどうしたんですか!?」

 「……シオン」


 慌てふためく私に対し、オルハさんは今にも消えそうな声で私の名前を呼んでいた。


 「も、もしかして限界ですか?!」


 ——女剣客さん結構飲んでたしな

 ——ビール5本近く空けてなかったか?

 ——剣の腕も凄くて酒も強いって最高か!?


 締めの言葉は無理だなと判断して、私が言おうとした瞬間、オルハさんはゆっくりと顔を上げた。


 「……今日は一緒に寝てほしい」


 ——ふぁ!?

 ——まさかのキマシタワー展開!?

 ——シオちゃん、ゆうべはおたのしみでしたね?

 ——女剣客さん、いますぐそこに行くから!

 ——↑誰か、こやつを始末しろ

 ——了解した。報酬はいつもの銀行に振り込んでおいてくれ

 

 「ちょ、い、いきなり何を言うんですか!」

 「……一緒に寝る」


 そう言って、オルハさんは全体重を私にかけてきた。

 もちろん耐え切れるわけもなく私は後ろに倒れてしまう。

 すぐにオルハさんは私の覆い被さるようにして体を私に預けた。


 「オルハさん、ま、まだ配信中だから!」


 オルハさんを起こそうとするが、既に彼女は気持ちよさそうな寝息を立てて夢の世界へと旅立っていった。

 スマホの画面を見ると、大量のコメントが流れ始めていた。

 主にカップリングや百合など、誰もが興奮しているのがわかるコメントばかりだった。


 「と、とりあえず今日の配信はここまでー! おつかれさまでしたー!」


 大声を上げると同時にスマホで配信終了ボタンをタップした。


 「うわあ……絶対にこれ切り抜かれるよ」


 気持ちよさそうな寝息を聞きながら私は1人、悶々とした夜を過ごしたのだった。


 余談だが次の日、当の本人に聞いてもまったく覚えてなかったようで、私と一緒に切り抜き動画を見て、珍しく顔が真っ青になっていた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

次回は新ダンジョン突入!


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