第17話 女剣客、新たな武器を手にいれる
「……アイリス、このモンスターはどこが弱点なの」
『一応口の中は柔らかいっていう話だけど』
アイリスとのやり取りの中、コモドドラゴンは大きな口を開けて今にも私を飲み込もうとしていた。
「……わかった、やってみる」
すぐにミチ爺から渡された刀、『月華』の柄を握り、開いた口から真一文字に横薙ぐと、大きな肉を斬るような感じでコモドドラゴンの体が上下に分かれていく。
両断されたモンスターは雄叫びをあげることなく絶命していった。
「うわ……モンスターの三枚おろしみたい」
終始私の後ろで見ていたシオンが驚きの声をあげる。
「たしかにそうだけど当分の間、魚の三枚おろしみたくないな……」
その隣でミナトは口元を押さえながら目を細めていた。
刀身についた血や体液を振り払ってから白い鞘に収め、モンスターに襲われていたドワーフに目を向ける。
小さい体つきをしているが、それに似合わない筋肉質な体つきをしていた。
手には体型よりも大きいハンマーを持っていたが、先ほどの素振りから戦闘経験はないのだろう。
『あー……この子、まだ子供だね』
インカム越しにアイリスの声が聞こえてきた。
言われてみれば子供っぽく見えるかもしれない……?
「……大丈夫だった?」
ドワーフの子に手を差し伸べるも、恐怖に感じたのかそのまま走って洞窟の奥へと行ってしまった。
後を追おうとしたが、既にに姿は無くなっていた。
「オルハが怖い顔してたから逃げたんじゃないか?」
後ろでミナトがケラケラと笑っていた。
「……そんなに怖い顔してるの私?」
「してますね……」
「あー逃げたのも納得できる」
『オルハちゃんいつも睨んでるような顔してるから、大人でも逃げ出しちゃうかもね』
ミナトだけではなくシオンまで同じ顔をしていた。
その様子を見ていたアイリスがゲラゲラを大声で笑っていた。
……もしかして、この前小柄男が私の顔見て驚いたのはこれが原因なのだろうか。
更に奥へと進んでいくと大きなフロアに見えてきた。
ずっと狭い通路が続き、息が詰まりそうな感じを覚えていたので広い所に出たことで幾分か気が晴れていった。
「おっ、あったあった!」
ミナトが大声を上げると一目散にフロアの中へと入っていった。
私とシオンも彼の後を追ってフロアに入っていくと、壁一面、ミナトに見せてもらった赤い鉱石で埋め尽くされていた。
「すっごーい! さっきの戦闘とかこの光景、配信できたらバズってたかもしれないのに……残念」
シオンは驚きの声をあげるもすぐに肩を落としていた。
「それじゃ掘ってくるからちょっと待っててくれ!」
ミナトはずっと持っていたつるはしを両手で構えると意気揚々と鉱石のある場所へと向かっていくと、勢いよく振り落としていた。
「いってぇぇぇぇ! いくらなんでも硬すぎだろコレ!」
大声を上げながら何度もつるはしを振るっていった。
「ふぅ……これぐらいで充分だな」
しばらくの間、シオンと他愛もない話をしていると両手に赤い鉱石を抱えながら戻ってきた。
途中で「手が痺れた」や「豆ができた」など苦悶の声が聞こえてきていたのだが、声をかけるたびにミナトは、「大丈夫だからあっちで休んでてくれ」としか言わなかったので、静かに見守ることにしていた。
「まだたっぷり取れそうだから今度また来るかな」
持ってきたカバンに抱えていた鉱石を入れると、勢いをつけて背負っていく。
「よし、それじゃボチボチ戻ろうぜ!」
取れたことに満足したのか満面な笑みで額の汗を拭いながら来た道を歩いていった。
「何かすごい張り切ってる感じがしますね」
「……自分のやりたいことができるからじゃないの?」
シオンにそう告げるとミナトの後を追っていく。
「何か違うと思うけどなあ……」
ダンジョンから出ると入る前は青空が広がっていたのに、今ではすっかり沈みかけて空は赤く染まっていた。
すぐにミナトの軽自動車に乗って小屋に着く頃にはすっかり日が沈み辺りは宵闇に包まれていった。
「おぉようやく帰ってきたか、遅いから心配したんじゃぞ」
小屋の引き戸を開けるとミチ爺が出迎えてくれた。
「……あ、ミチ爺これ返すね。 今まで使ってた刀よりもすごく使いやすかったよ」
そう言って持っていた月華を返そうとするとミチ爺は両手を使って止めていた。
「それなら、その刀はオルハが使ってもらって構わん」
「……いくらなんでもそれは」
何とか返そうと無理矢理、刀を押し付けるもミチ爺は受け取ろうとはしなかった。
「ワシが持ってたとしても飾るぐらいしかできんしな、それにオルハならちゃんとコイツを扱ってくれるから安心じゃ」
ミチ爺は満面の笑顔でそう答えていた。
恥ずかしさもあり、何も言い返すことができなかった。
「それにあの刀の修復は時間がかかるじゃろうし、武器がなければ弦一郎のやつを探すこともできまいて」
「……うん」
私が父親を探しているのはおそらく祖母から聞いているのだろう。
ミチ爺の言う通り、父親を探すにはダンジョンを進む必要があるし、そのためにはモンスターと戦うには武器がいる。
「……ありがとう、ミチ爺。 大事に使わせてもらうね」
私が礼を言うとミチ爺は豪快に笑っていた。
「さてと、いい時間じゃし、そろそろ送っていかないとマズイな」
ミチ爺は奥の部屋へと入っていったミナトを呼び出すと、面倒くさそうな顔で姿を見せてきた。
「何だよじいちゃん」
「オルハとシオンちゃんを旅館まで送ってくるんじゃ」
「りょ……旅館ですか!?」
一番に反応したのはシオンだった。
「流石にこんな男だらけのむさ苦しい場所にお嬢さん2人を寝泊まりさせるわけにもいかんじゃろ」
ミチ爺はそう告げると後ろにいるミナトへと視線を向けていた。
「それに、ここには女に飢えた狼がおるからな」
「誰がそんなことするか!」
ミナトは顔を真っ赤にしながら大声を上げていた。
「……旅館なんていいの?」
「構わん構わん、今日は孫のわがままに付き合ってもらったからそのお礼じゃ」
「あ、ありがとうございます……!」
私よりも隣にいるシオンが喜んでいた。
そう言えば、バスの中で温泉について何か言っていたような気がした。
「ほれ、ミナト! 暗くなる前に2人を送ってくるんじゃ!」
「わかったよ、鍵とカバン持ってくるから駐車場にいてくれ!」
そう言ってミナトは再び奥の部屋へと入っていった。
言われた通り私とシオンは小屋から外に出ていく。
「オルハさん、星がすごいですよ!」
外にでるとシオンが私のジャケットの裾を掴みながら夜の空を指さしていた。
「……たしかに綺麗だね」
顔を見上げると、夜空一面に星が瞬いていた。
こんな星空を見るのは実家にいたとき以来かもしれない。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「なぁ、じいちゃん」
「どうしたんじゃ?」
自分の部屋から鞄を持って引き戸を開けると応接間に祖父が座ってお茶を飲んでいた。
「あの刀、たしか昔、葉子ばあちゃんに渡そうとしてた刀じゃなかったか?」
あの刀、『月華』は実家の家で飾っていた刀だ。以前、気になってじいちゃんに聞いたところ、若かりし頃ぶ近所で剣客小町と言われていた葉子ばあちゃんに一目惚れしたとかで、自分の気持ちを伝えるために作った刀だと話していた。
結局は隣の集落にいたオルハの祖父、大治郎じいちゃんと夫婦になってしまい、それからあの刀は飾り物となったようだ。
「まあ、オルハはワシにとっても孫みたいなもんじゃしな」
そう話すじいちゃんの耳は真っ赤に染まっていた。
「まあ、よくわかんねーけどそう言いことにしとくわ」
鼻で笑いながら2人を送ってくると伝え、そのまま家の扉を開いた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「ほ、本当にここなんですか!?」
軽自動車で送られること数十分。
辿り着いた場所は温泉街の高台にある老舗旅館だった。
「そうだよ、じいちゃんが鍛治仲間同士の会合で使ってるのがこの旅館みたいだよ、たしか温泉がすごくいいとか」
ミナトの話に後部座席に座っているシオンが前の席へと乗り出していた。
「刀の修復はできる限り早く終わらすとして、できたらさっきの住所に送ればいいのか?」
「……うん、それでいいよ」
武器を郵送するには色々と手続きが面倒なので、直接家まで持ってきてもらってもよかったが、アイリスの件があったため、郵送でお願いすることにした。
「……それじゃお願いするわね」
「お、おう……!」
車を降りて、ミナトに礼を告げると顔を真っ赤にしたまま車を発進させていた。
「……それじゃ中に行こうか」
「はい!」
旅館に入り、受付で簡単な続きを済ませ、担当の仲居さんと一緒に部屋へ行くことになった。
「そういえば、この旅館って撮影とかしても大丈夫ですか?」
部屋に案内される途中でシオンがカバンから小型ドローンを取り出しながら仲居さんに聞いていた。
「お客様がお泊まりになる部屋の中であれば構いませんが、他のお客様もお使いになる公共の場では控えていただけると……」
仲居さんの返答にシオンはニコニコと笑顔でわかりましたと答えていた。
「本日お泊まりいただくのはこちらのお部屋になります」
案内をされたのは『菖蒲の間』と書かれた和風の部屋。
そこまではよかったのだが……
「うわ……ひ、広い!?」
どう見ても2人用は思えない広い部屋に案内されたのだった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
次回、温泉回!
乞うご期待!
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