第15話 女剣客、同郷の鍛治師と出会う
「バスが発車します、降車直後の横断は危険ですのでおやめください」
目的地の最寄りのバス停に到着したので、バスから降りた。
バスを乗る直前までは夏の日差しが照り付けているせいか汗ばむ陽気だったが、都会から離れた山の中だからか、日差しはあるものの、そこまでの暑さは感じなかった。
「山の中だからか、空気が美味しいですね!」
シオンは大きく深呼吸をしていた。
それに対して私はというと……
「オルハさん、起きてます?」
「……なんとか起きてる」
気がつけばバスの中でシオンの肩にもたれかかりながら眠っていたせいか、若干ではあるが眠気が残っていた。
少し歩けば眠気も覚めるだろう。
「どうやら、こっちみたいですよ」
シオンはスマホのナビアプリを見ながら歩き出したので、私も彼女の後を追った。
「あ、あと……もう少しで……と、到着です!」
歩き出すこと20分ほど、山道をずっと歩いていたためか、歩き始めた時は元気だったシオンだが、徐々にその元気は失われつつあった。
「……大丈夫? 少し休む?」
「だ、大丈夫です! もう少ししたら到着するので……!」
息を切らしながらなんとか歩こうとするシオンだったが、足は既に止まっていた。
「何でオルハさんはそんなに余裕そうな顔なんですか……」
シオンはトートバッグからペットボトルの水を取り出し、キャップを開けると勢いよく飲んでいく。
「……山育ちだから?」
実家は山に囲まれた集落の中にあったせいか、山を歩くことは慣れ切っていた。
「……シオンはずっとこっちに住んでいるの?」
「そうですね、産まれてから県外に住んだことないですよ」
ペットボトルのキャップを強く閉めると再びトートバッグの中にしまうシオン。
水を飲んだことで少し回復したのか、先ほどよりは元気そうに見える。
「よし、それじゃ出発しましょう!」
「……あまり無理しないようにね」
シオンが先頭に立って再び歩こうとすると、私たちの目の前で1台の軽トラックが止まり、反対側の席の窓が開き出した。
「よう、誰かと思ったらオルハじゃねーか!」
開いた窓の奥には白い髪と髭を蓄えた初老の男性が乗っていた。
「……ミチ爺?」
「にしてもびっくりしたぞぉ、一瞬若かりし頃の葉子さんかと思ったぞ」
ミチ爺は私の顔を見ると眩しい笑顔で私の顔を見ていた。
ちなみに葉子というのは私の祖母のことだ。
私とミチ爺が話をしていると隣で、シオンは不思議そうな顔で見ていた。
「オルハさん……こちらのおじいさんは?」
「……ミチ爺って言って、私の実家でお世話になっていた鍛冶屋さん」
基本的にお世話になっていたのは家の家事で包丁を使う祖母と真剣の手入れで顔を出していた父親。
自分はミチ爺の家に同年代の子がいたから、知り合いの家へ遊びに行ってた感じがしていた。
「ワシは鍛治師の
ミチ爺は豪快に笑いながら自己紹介をしていた。それに驚いたのかシオンは私の後ろに隠れながら、か細い声で自分の名前を名乗った。
「……ミチ爺が大きな声出すからシオン驚いてるよ」
私の後ろに隠れているシオンに目を向けらながら注意するもミチ爺は豪快に笑い続けていた。
「ちょっと狭いけど、すぐそばだから我慢しててくれよ!」
ちなみに運転席にミチ爺、その隣に私、ドア側にシオンが座っていた。
私たちが軽トラックに乗ったのを確認すると車のエンジンをかけるとすぐに発車させる。
「……ミチ爺、何でミナトはこんな山奥に住み出したの? 大学は市内って聞いたけど」
「あぁ、オルハはいなかったからわからんけどな、去年に今から行く土地が手に入ったんじゃよ」
ミチ爺の話では、今から行く場所はミチ爺が元々買おうと思っていた場所だったようで、去年にようやく購入できたらしい。実家の方でも大きな家なのになんでだろうか……。
そうこう話しているうちに、軽トラックは小さな脇道へと入って行った。
車1台しか通れないぐらいの道にもかかわらず、スピードを緩めることなく走っているうちに小さな小屋へと到着した。
「……シオン、大丈夫」
「な、何ですぐ横が崖になっているのにあんなスピードを出して走れるんですか……!」
顔ざめた顔のシオンが両手で手すりを握りながら震えていた。
「うぉーい! 帰ったぞぉー!」
ミチ爺が小屋の引き戸をあけると同時に大声を出していた。
それに続くように私とシオンは続いて行った。
小屋の中はミチ爺の家で見たのと同じようにレンガで作られた炉や鍛治用の金床や金槌をはじめとした道具が置かれていた。
「おーい、ミナトおらんのかー!?」
再度ミチ爺が呼びかけると部屋の奥からドタドタとこちらに向かってくる足音が聞こえてきた。
そして勢いよく障子の扉が開かれると、ボサボサ頭でパーカーにジーパンといったラフスタイルの男が姿を見せた。
「配信動画の世界にドップリ浸かってたのにじいちゃんの声で……」
男は私の存在に気づくと「え……?」という拍子抜けしたような声を出していた。
「も、もしかしてオルハ……!?」
驚愕な表情でこちらを指して私の名前を呼んだ。
その直後ミチ爺はゴツゴツとした拳が彼の頭に振り落とされた。
「バカモン! 年上に向かって呼び捨てにする奴がおるか!」
「痛えよ! 昔からそう呼んでたんだからいいだろ!」
二人のやりとりを見て、相変わらずだなと思いながら声をかけた。
「……相変わらずね、ミナト」
「シオちゃんねるは全部見てるから、最近のオルハの動向は分かってはいるよ」
鍛冶場の奥の応接間に案内されるとすぐに、シオンのことや自分の刀のことを2人に説明した。
「そもそも何じゃ、そのシオなんちゃらってのは?」
「じいちゃん、前にも説明したろ? まったく葉子ばあちゃんはすぐ理解したのになあ」
ミナトが呆れた顔で自分の祖父に説明する。
「あー、あれか、ミナトがいやらしい顔つきで見ていたやつか」
「んなわけあるか! ってか本人いるのに言葉選べこのじじい!」
目の前のやりとりをしていたシオンは若干気まずそうな顔をしていた。
「ち、ちがうから! そんな変な目でシオちゃんねるは見てないっすから! むしろ曲を楽しんでたっていうか……! ってか話を元に戻すぞ!」
ミナトは大声をあげながら私の持ってきた刀を手に取って話を戻していた。
「ここまでポッキリ折れているなら、刀身ごと変えたほうがいいと思うけど、じいちゃんはどう思う?」
先ほどとは違い、真剣な表情でミナトはミチ爺の顔を見ていた。
「そうじゃな、ワシもそうすると思う」
「だよな、それで試してみたいことがあるんだけどさ」
「もしかして、この前みつけたアレのことか?」
「そうそう」
2人で話を進めているが、全く内容が理解できないといった顔をしているとミナトそれを察して、こちらを見ていた。
「あぁ、悪い悪い……ちょっとこれを見てもらいたいんだけどさ」
そう言ってミナトは後ろにある木箱を開けて取り出したものをこちらに見せてきた。
「すごい綺麗な石……なんか石から暖かい感じがするような」
反応したのはシオンだったが、私にはただの赤い石にしか見えず、彼女のいう暖かい感じはまったくしなかった。
「なるほどな、それじゃこれはどうだ?」
次にミナトが取り出したのは1本の短剣。
刃先は先ほどの石と同じ色をしていた。
「で、この包丁を持って力を込めるとだな……」
ミナトは包丁の柄を持ってから強く握ると……。
「うわっ……刃先か炎が!?」
いの一番に驚いたのはシオンだった。
ボッっと音がした瞬間、刃先は炎に包まれ、力を抜くとすぐに炎が消えていった。
「どうやら、この石は刀身に炎を宿すことができるみたいなんだ」
ミナトはゲームでいう属性付きの武器みたいなもんか?と話していたが私には理解できなかった。
「なるほど、わかりやすいですね……」
どうやらシオンには理解できたみたいだ。
「もしオルハがよければこの鉱石を使って刀身を作ってみたいと思うんだけど、どうかな?」
そういえば前に下北沢のダンジョンでゾンビなど斬っただけでは効果が薄いモンスターがいた。
その時は細かく切り刻んで対処したが、アイリス曰く、魔法が使えると楽だよねと話していたことを思い出す。
……これから下北沢ダンジョンの踏破を目指していくので、これがあれば楽になるかもしれない。
「……お願いしてもいい?」
そう答えると、ミナトは嬉しそうな顔で立ち上がったのはいいが悩ましい顔をしながら、チラチラと何度もこっちを見る。
「……どうしたの?」
「いやさ、ちょっとお願いがあるんだけどさ……」
ミナトは顔の目の前で勢いよく両手を合わせる。
「ごめん! この鉱石を集めるの手伝ってくれないか!」
祖父譲りの大きな声でミナトはそう告げたのだった。
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