第14話 女剣客、刀を直しに行く

 『誰かと思ったら、ずいぶんご無沙汰だねオルハ』


 シオンと新宿でギルド登録を行ってから数日後。

 デモンウーズとの戦いで折れた刀に関して悩んでいたが、答えが出なかったため久々に実家へと電話をかけた。

 実家を出てから1年半以上経つが、全く連絡をしていなかったため、怒られることを覚悟していたが祖母の声を聞く限り杞憂だったようだ。

 

 『それでどうしたんだい? おまえが電話をしてくるってことは余程のことがあったのだろう?』


 どうやって話を切り出そうと思っていたが、祖母の方から聞いてくれた。

 ……もしかして、私の思っていることが筒抜けなのだろうか?


 「実は——」


 祖母に先日のデモンウーズのことを説明し、その際に使っていた刀が折れてしまったことを話す。

 この刀は上京する際に祖母から渡されたものだったので、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

 そのことを含めて全て伝えた。

 

 『そんな申し訳なさそうな声をださなくてもいい、おまえが無事なら刀の1本や2本軽いものじゃよ』

 

 祖母の言葉に内心ホッとする。


 『にしても、化け物如きで刀身が折れるとはミチの奴、腕がおちたもんじゃな』


 その後に息巻いて悪態をついていた。

 ちなみに『ミチ』というのは祖母の旧友が営んでいる鍛冶屋の当主のことだ。

 祖母と一緒によく遊びへ行って可愛がってくれたことを思い出す。


 「それで、刀をミチ爺に見てもらいたいから、今週末、一度戻ろうかと思っているんだけど」


 アイリスに頼んでこっちの鍛冶屋を探してもらったが、刀の修理を行っているとこはほとんどなかった。

 あったとしても、ここから距離がある都内郊外だったり、専門が包丁やハンマーなど一般的な商品を扱う店が大半。

 ダンジョンが出てから剣や刀、槍などの一般的な武器を扱う店が増えたとはいえ、まだまだ一般的ではないようだ。

 

 私が知っている人で刀の修理や作ることができるのはミチ爺だけ。

 本来であれば目的を達成できるまで実家に戻りたくはなかったが、刀がなければ目的を果たすことができないので腹を括ることにした。

 

 『なるほどな……じゃが、今ミチの奴、家を空けているんじゃよ』

 「え……なんで?」

 

 いつも元気なミチ爺だが、かなりの高齢だから体調でも崩したのだろうか?

 そう考えると、祖母も年齢は近いので心配になってきていた。


 『そんな心配そうな声をしなさんな、ミチは相変わらず元気じゃよ』


 私の声色で何を思っているのかわかったようだ。

 そんなに私ってわかりやすいのだろうか。


 『湊音みなとを覚えているか?』

 「……もしかしてうちの道場に一時期通っていた?」

 

 ミチ爺の孫で家へ遊びに行った時はよく一緒に遊んでいた子だ。

 たしか年齢は私の1つ下だったような気がする。


 『3月にあいつが大学へ進学するにあたって上京したんじゃよ、孫のことが心配だとかで、それでよく家を空けてミナトのところへ行くんじゃよ』


 説明を終えるとすぐに祖母は「そうじゃ」と声にだした。


 『せっかくじゃし、挨拶がてらミナトの所へ行ってみてはどうじゃ? オルハの住んでるところからそんなに遠くはなかったはずじゃが……』


 そう言うと祖母の声が遠くなり、ガサガサと何かを探しているような音が聞こえてきた。


 『あったあった……えっと住所はじゃな——』

 「ちょっとまって、メモ持ってくるから」

 

 部屋に戻り、大学の授業で使っている正方形の付箋を見つけ、言われた通りの住所を書いていった。

 県を聞く限り近くに聞こえるが、どこなのかまったく検討がつかなかった。


 祖母との通話を終えると、すぐに同居人の部屋のドアを叩く。


 「入って大丈夫だよー」


 ドアを開けて中に入る。部屋の主はパソコン用の椅子の背もたれに全体重をかけるように深く座っていた。

 彼女の目の前の至る所にディスプレイが設置してあり、動画配信サイトやグラフ、よくわからない言葉の羅列、それぞれ違うものが表示されている。

 これを見るたびに実は彼女の目が3つ以上あるのではないかと思わせられる。


 ちなみに思ったことを口にしてものすごい勢いで怒られたことがある。

 

 「あ! 床、気をつけて!」


 視線を下に向けると床には機械類が転がっていた。

 踏まないようにゆっくりとベッドの上に腰掛ける。

 

 「そういえばお祖母さんとの電話は終わったの?」

 「……うん、それでちょっと調べてもらいたいんだけど」


 住所をメモった付箋をアイリスに渡すと、不思議そうな表情で私の顔を見る。


 「住所?」

 「うん、おばあちゃんがここに行ってみろって」


 電話であったことを話すとアイリスは机にあった長方形のタブレットを取り出し、アプリを起動させ、付箋に記載された住所を入力していく。


 アプリに住所の場所が表示されたのは大きな山に囲まれた場所だった。


 「本当にここ隣の県なの? どう見ても地方にしか見えないけど……」


 アイリスは怪訝そうな顔でタブレットの画面を見ていた。



 

 「ご乗車ありがとうございました、まもなく——」

 

 数日後の週末の朝、厳重に包装した自前の刀を持ちながら、電車の入り口付近に立っていた。

 時間が早いせいか、自分のいる車両には数人ほどしか乗客がいないので座ろうとも考えたが、寝過ごす可能性が非常に高いので座るのを我慢することにした。

 

 アナウンスが入ったあとすぐに電車は目的地の最寄駅へと到着すると扉が開くとすぐに下車し、すぐ近くにある階段を下りて行く。


 「あ、オルハさんこっちですよ!」

 

 階段を下り切ると目の前にある自動改札機の先で、淡いピンクのTシャツにジーパン姿のシオンが大きく手を振っていた。


 「アイリスさんに言われてバス停の場所調べておきましたよ、こっちです!」


 シオンは嬉しそうに私の手を取ると、バス停がある方へと歩いて行った。


 同郷の人間に会うと言うこともあり、バイクで私1人だけで行こうとしたのだが……


 『方向音痴のオルハちゃん1人じゃ危険すぎる!』


 と、アイリスが変なところに気をまわし出した結果、シオンに連絡をしていた。

 さすがにシオンもこんな山奥まで行こうとは思わないだろうと思っていたのだが……


 『たまには自然の中にいたい気分なのでいいですよー!』


 乗り気になっているシオンを止めることができず、一緒に行くことになった。


 「あ、オルハさん! あのバスですよ!」


 駅がある建物を抜けた先にあるバスターミナルにオレンジのバスが止まっていた。

 行き先を見ると、行き先の住所と同じ地名が表示されていた。

 

 バスの入り口でスマホをかざしてから車内へと入って行っていく。

 車内には私たち以外の乗客はいなかった。


 「景色見たいので、窓側でいいですか?」


 シオンは子供のようにはしゃぎながら、二人席の窓側へと座る。

 私も続くようにシオンの隣へと座った。


 乗車してから数分ほどでバスが発車した。結局、私たち以外に乗る乗客はおらず、貸切状態に近かった。

 

 「ここからだと1時間近くかかるみたいですね」


 隣でシオンがスマホのナビアプリを起動させていた。

 

 「あ、これから行くところって温泉があるみたいですよ!」


 シオンは嬉しそうな声を上げながら私の方へとスマホ画面を向けたのだが……

 

 「って、何も喋らないと思ったら寝てる!?」


 ちなみにバス停に着く直前まで自分が寝ていたことに気づくことはなかった。


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