第11話 女剣客、ギルドマスターになる(SIDEシオン)

 「……いらっしゃい」


 玄関で驚きのイベントに遭遇した後、リビングまで案内される。

 ダイニングテーブルにシステムキッチンと、高級マンションの必需品(?)が揃えられていた。


 桜坂さんはダイニングテーブルに座って、串団子を食べていた。

 

 「……適当に座って、アイリスもすぐにくると思うから」


 空いている椅子に腰掛けるとその隣に桜坂さんが座る。


 「……どうしたの?」

 「え、あ、何でもないです!」


 私の隣に座った桜坂さんはいつも見る、ジャケット衣装ではなく

 グレーのキャミソールにハーフパンツというラフスタイルになっていた。


 「スタイルよすぎ……」


 ジャケット姿でも綺麗さとかっこよさの両方を兼ね備えていたが

 薄着になった途端、そのスタイルの良さが露出されていた。

 出るところも出てるし、腰回りもしまっているといった女の理想像が目の前にあった。


 思わず成長とは皆無の自分の体を見て、思わずため息が出てしまう。


 「……アイリス見て驚いたみたいね」

 「え……い、いや! 別に!」

 「……大丈夫、私も最初は驚いたから」

 

 桜坂さんはふふっと笑いながら、串団子を手に取っていた。

 

 「ち、ちなみにアイリスさんとはどんな……?」


 気になったことを聞こうと思ったが、その直後にドタドタと大きな音がして、かき消されてしまう。

 すぐさま、先ほどのエルフ……アイリスさんはテーブルの反対側にあるキッチンへと入っていく。


 「おまたせー……ってオルハちゃん、お客さん来ているのにその格好はどうかと思うよ?」


 アイリスさんは桜坂さんの格好を見て、母親のように話しかけていた。


 「……家にいる時ぐらい別にいいでしょ」

 「私はいいけど、シオちゃん、目のやり場に困ってない?」


 アイリスさんの視線は私に向けられていた。


 「あ、いえ……私は大丈夫です! むしろ目の保養になりますので」


 あたふたしながら答えたのはいいが、とんでもないことを口走った気がした。

 当の本人が何も気づいてなさそうだから大丈夫だろう。


 「で、話というのはこれなんだけど」


 キッチン側に立ったアイリスさんはこちら側に一枚のタブレットを見せてきた。

 

 「えっと……ギルド申請?!」

 「うん、簡易出張所でも申請できるけど、オルハちゃんの傷が完全に完治してないから」

 

 目につく範囲で見る限り、1週間前に負った傷は残ることなく完治しているようにも見えるが、そうでもないようだ。あれだけ出血や傷が多かったんだから、仕方がない。


 「まあ、めんどくさいのがネットで申し込むと時間かかる上に、新宿にある本局へいかなきゃいけないんだけどね」


 アイリスさんはため息をこぼしながら話していった。

 

 彼女の言う通り出張所でできるのはあくまでその場での申し込みのみ。

 ネットからの申し込みには対応していないようだ。

 すぐにできると思うのだが、さすがはお役所仕事といったところか。

 

 「それにギルド作ったらオルハちゃんが多大にご迷惑をかけると思うから、今のうちに謝っておこうと思ってね」

 「……アイリス、一言余計」

 

 桜坂さんはアイリスさんを睨みつけていた。

 一方でアイリスさんは動じることなくニコニコとしていた。

 

 再度タブレットに目を通すと登録には数日と多少のお金がかかるようだ。

 スパチャによる収入が入ってきているので、私が払うと告げる。

 どのみち、桜坂さんのおかげで入ったスパチャだ。あの時のお礼を兼ねて還元するのも悪くはないだろう。


 「そこは甘えることにしようかな、オルハちゃんも異論はないよね? ちなみにあるなら別案をだすように」

 

 アイリスさんの言葉に桜坂さんはムッとした表情をしていた。

 どうやら異論があるようだが、別案がないのでこの顔をしているようだ。


 「……いいわよ、それで」


 彼女の返事を聞いたアイリスさんはニコニコと笑顔でタブレットの画面を軽快にタップしていく。


 「とりあえず、メンバーは桜坂織葉と、シオンさんここに名前を入力してもらっていい?」

 「わかりました!」


 タブレットを受け取って2人目の入力フォームに『桐生詩音』と入力をしてアイリスさんに返す。


 「あとはアイリスさんの名前ですか?」

 「あ、私の名前は入れないで!」

 

 アイリスさんはタブレットの前で何度も手を振っていた。


 「私は色々あって、この世界にはいないことになってるから」

 「ど、どういうことです?」

 「ほら、私って人間じゃないでしょ?」


 そう言ってアイリスさんは自分の特徴とも言える耳を指差す。

 

 「そんなことはさておいて、次はギルドマスターを決めないと」


 話の流れをぶった斬るかのようにアイリスさんはぐいぐいと話を進めていく。


 「2人しかいないからどちらかが、やることになるんだけど」


 そう言ってアイリスさんは私と桜坂さんの顔を交互に見ていく。


 「シオンさんはお金だしてくれるっていうし、ギルドマスターはシオンさんでいいかな?」

 「あ、いえ! ギルドマスターってやっぱり強くてカリスマ性のある人が適任かと思います!」

 「うん、それじゃオルハちゃんだね!」

 「……アイリス!」


 桜坂さんはダイニングテーブルをバンと叩くとアイリスさんを睨んでいた。


 「別に適当に決めてるわけじゃないよ、シオンさんの言う通り、求められるものが大きいからね、それに適してるのはオルハちゃんしかないよ?」

 「……私に両方あるとは思えないけど」

 「強さに関しては申し分ないと思うけど……そうだよね、シオンさん?」


 アイリスさんは私の方を見て、ウインクをしていた。

 話を合わせろということだろうか……。


 「桜坂さんはカリスマ性も充分に備えてると思いますよ、これを見てください!」


 そう言って自分のスマホ画面を彼女に見せる。


 「……何これ、全部私?」


 画面に表示されているのは私の配信の切り抜き動画。

 内容は全て桜坂さんが戦っているシーンが主だ。

 そのことを説明すると桜坂さんは恥ずかしいのか「うーん」と唸り声を上げて頭を抱え込んでしまった。

 

 「シオンさんの言うとおり、オルハちゃんはリスナーからの注目の的だからね、カリスマ性もクリアだね」


 笑顔を見せながら話すアイリスさんを桜坂さんは目を細めながら見ていた。


 「ってことでギルドマスターはオルハちゃんに決まり! マスターさん、挨拶をお願いします」

 「……どうぞよろしく」

 

 私とアイリスさんが拍手する中、桜坂さんだけはずっとムスッと不機嫌な顔をしていた。

 

 「それじゃ最後にギルド名だね、何か案ある人!」


 アイリスさんがハキハキとした声で案を求めるが、誰の手も上がらなかった。


 「うーむ、さすがにいきなりはでてこないか、申請受理日までに決まってればいいみたいだからそれまで考えとこうか」


 そう言ってアイリスさんはタブレットをスライドしていき仮申請のボタンをタップしていくと『申請をお送りいたしました』という画面に切り替わる。

 あとは管理局からメールが来るようなので、それを待つだけだ。


 「それじゃ、ギルドもつくったし今日の夕飯は奮発しちゃおうかな! シオンさん食べていくでしょ?」

 「え……は、はい!」


 彼女の勢いに押されてつい返事をしてしまう。

 アイリスさんは後ろの冷蔵庫を開けて次々と材料を取り出して行った。


 「……大丈夫よ、あんな感じだけど料理は得意みたいだから」

 

 隣に座る桜坂さんが私の方を見て話しかけてきた。

 先ほどまでは不機嫌そうだったが、今はいつも通りの表情に戻っていた。


 「……アイリスがかき回しちゃったみたいで、迷惑じゃなかった?」

 「いえいえ、むしろこっちも桜坂さんを無理矢理巻き込んじゃってすみません」


 私が頭を下げると桜坂さんは静かに「平気よ」と答えていた。


 「……そうだ、ずっと言おうと思ってたけど」

 「ど、どうしました?」

 「……私のことはオルハでいいわよ、桜坂なんて長いから呼びにくいでしょ?」

 「それじゃ私のこともシオンって呼んでください!」


 そう返すと、桜坂……もとい、オルハさんはふふっと微笑んでいた。


 「……わかったわよ、シオン」


 私の名前を読んだ彼女は今までみたことのない麗しい表情を見せた。

 その顔を見た瞬間、私の鼓動が一気に早くなっていったのを感じていた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

読者の皆様に作者から大切なお願いです。


「面白そう」

「続きが気になる」

「応援する」


などと少しでも思っていただけましたら、


【フォロー】や【ブックマーク】をしていただけますと作者は大喜びします!


また、『楽しかった!』 『続きが気になる!』という方は★ひとつでも、★★★みっつでも、

思った評価をいただけると嬉しいです!

最新話or目次下部の広告下にございますので、応援のほどよろしくお願いします。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る