第9話 女剣客、謎モンスターを撃退する!

 「……そこッ」


 デモンウーズがこちらに向けて振り落としてきた両腕を先ほどと同じように刀で横薙いで、斬り落とすも先ほどと同じようにすぐに再生してしまう。


 ——ええい、あのモンスターは化け物か!

 ——いや、どっからどう見ても化け物だろ

 ——チクショウ! このままじゃ女剣客が負けちまうぞ!


 映像に表示されている画面には私を応援するコメントが流れていた。

 嬉しいけれど。それに応えられるような余裕は今の私には持ち合わせていなかった。

 なにせ——


 「桜坂さん、刀が……!」


 桐生さんが私の刀を見て驚いていた。

 私の持っている刀の刀身の一部分が刃こぼれしていたからだ……。

 

 「……どうやらこいつの酸にやられたみたいね」


 おそらく次にデモンウーズの体に触れた場合、折れる可能性がある。

 そうなる前に、こいつを倒したいところだが、どうすれば倒せるのか検討がつかなかった。


 「……アイリス、聞こえる?」

 『……に! ……ルハ……ん!』

 「……やっぱりダメか」


 さっきからアイリスに声をかけても、電波の調子が悪いのか全く聞こえなくなっていた。

 

 ——お、あの女の動きがとまったぞ!

 ——お前は強かったが、しょせんそこまでだったようだな

 ——さぁ!美しい最後を見せておくれ!

 

 そうこうしているうちにデモンウーズはこちらへの距離をつめてきていた。

 また腕で攻撃をしてくると思い、刀を構えるが、デモンウーズは両手をあげてその場で立ち止まる。


 「ど、どうしたんだろ……止まってるだけ?」

 「……わからない」


 予想外の動きに思わず拍子抜けしてしまうが、それを狙ってなのかデモンウーズは光を放つ。

 あまりの眩しさに空いている手で目元を覆う。

 

 ——うお、まぶしっ!?

 ——めがぁ!めがぁぁぁぁぁ!

 ——メディーック!


 光が収まり、目元を覆っていた手を話すと目の前にはデモンウーズの姿はなかった。

 その代わりその場にいたのは大量のウーズがふよふよと宙を浮いていた。


 ——な、なんだこの状況(絶望)

 ——おお!こいつはこんなこともできるのか!(歓喜)

 ——いいぞ、やっちまえ!


 どちらのリスナーのコメント入り混じって流れていく。

 

 シオンを庇うように前に立ちながら、刀を構えていると大量にいるウーズの1匹がこちらに向かって突っ込んできたが、私や桐生さんに当たることなく後ろの壁に激突していた。


 「な……なんなの!?」


 その様子を見ていた桐生さんはウーズがぶつかった壁を見て声も体も震えていた。

 壁は衝突した時の衝撃がわかるぐらいの小さな凹みができ、ウーズは壁にくっついたままゆっくりと動いている。


 『オルハちゃん、今すぐ逃げて!!!』


 突然耳元に大きな声が聞こえてきた。


 「……アイリス!?」

 『とりあえず今はそこから離れて!』


 アイリスの声に反応している間に目の前のウーズたちは次々と動き出そうとしていた。


 「……桐生さん!」

 

 ウーズが動き出す前に桐生さんの手を取ると、急いでその場から走り出すと同時にウーズたちは耳を塞ぎたくなるような衝突音と起こしながら、次々と壁に激突し始めていった。


 ——何が起きてんだ!?

 ——壁にモンスターがぶつかってる!?

 ——砂煙で前が全然みえないけど女剣客さんとシオちゃんは無事なのか!?

 ——やったか!

 ——変なフラグたてんじゃねーよ!

 ——どうやら終わったようじゃな


 ウーズが壁にぶつかった衝撃でフロア一帯が発生した砂埃で視界が悪くなっていた。


 「けほっけほっ!口の中に砂がはいったぁ……」

 

 私の隣で咳き込む桐生さんの声が聞こえてきた。


 「……桐生さん大丈夫?」

 「だ、大丈夫です、口の中がイガイガするけど」

 「……手で口元抑えた方がいいかも」

 「うん……そうします」


 視界は悪いが、すぐ横なら確認することができた。

 桐生さんは言われた通り、腕で口元を抑えているのが確認できた。


 『オルハちゃんたち、大丈夫!?』


 インカムのスピーカーから心配するアイリスの声が聞こえてきた。

 さっきも思ったが、随分と音が良くなってるような……。


 「……音声がよくなってるけど、どうかしたの?」

 『うんまあ、周波数をいろいろいじってみたんだけど……ってそんなことはどうでもいいの!』

 

 アイリスはゴクリと喉を鳴らす。大好きな炭酸飲料を一気に飲み干したのだろう。

 喉が痛くならないのだろうか……。


 『デモンウーズは核とよばれる人間でいう心臓みたいのがあるのは知ってるよね!』

 

 たしか前にアイリスが話していたが、スライム系のモンスターには核と呼ばれるものがあるようだ。

 基本的にスライム自体が小さいので体と一緒に核も斬っているのでそのまま絶命するようだ。


 「……このモンスターも同じなの? 無さそうな感じがするけど」

 『多分だけど、隠してるといるんだと思う』

 「……どこに?」

 『あの大量のウーズの中だと思う、見つからないように擬態しているはず』

 「……なるほど」

 『たぶん、倒すチャンスはあの、大量のウーズになった時しかないけど——』

 「……それだけわかれば何とかなる」

 『ごめん、こういう時にこんなことしかできなくて』


 珍しくしょんぼりしたアイリスの沈んだ声が聞くことができて思わず微笑んでしまう。


 「……アイリスのおかげだよ、助かってる」


 そうこうしていくうちに徐々に視界が晴れていった。

 視界を悪くしていた原因のウーズたちは再びデモンウーズへと姿が戻っていた。


 ——やっと視界が晴れたみたいだな

 ——お、女剣客とシオちゃんいるじゃん、よかったああああ!

 ——ふぅ、よかったぜグチャグチャになる所が見れずに終わったと思ったぜ

 ——人の悲鳴を聞きたいからまだまだ酒が進むぞ


 映像にはコメントが止まることなく流れ続けていた。

 

 「……桐生さん」

 

 自分の後ろにいる桐生さんへ声をかけると、腕で口元を押さえながらこちらを見ていた。


 「……あのモンスターがさっきみたいに小さなモンスターになったら、私に構わず逃げて」

 「そ、そんなことできないです!」


 桐生さんは腕を話すと叫ぶ。


 「……私は平気だから」

 

 私は彼女の顔を見てそう伝える。

 桐生さんは不安そうな表情を残したまま「わかりました」と応えていた。


 デモンウーズは私の目の前に立つともう一度、両腕を上げ始めた。

 

 ——両腕をあげた!これで勝つる!

 ——やっちまえ、モンスター!

 ——女剣客さん、逃げてー!


 私は左手で刀の塚を掴むと、ゆっくりと目を瞑ると辺り一面暗闇に包まれる。

 

 心眼——

 眼球から得られる情報を遮断することで、真実を確かめる。

 心の目で見ると言い方もできるが、私の場合は聴覚を最大限に集中することで隠された真実を探し出す。

 

 心を落ち着かせたりするために、祖母から教わったものだ。

 

 すぐ後ろには桐生さんらしい小さな鼓動の音が聞こえていた。

 そして目の前には……


 ズキズキと何かを突き破るような音が聞こえ始めた。

 

 その瞬間、私の頬に何かが触れたと感じるとすぐに熱い感触を覚える。

 先ほどと同じようにウーズが突っ込んできた際に頬をかすめたのだろう。

 

 「桜坂さん……!」


 それからすぐに次々と私の体に何度もぶつかっていく感触がしていた。

 けれど、今はそんなことを気にしている場合ではない。

 

 そしてズキズキという鼓動と一緒に風を切る音が混じり出した。

 どうやら私に狙いを定めて、飛び掛かろうとしていた。


 「……それなら好都合」

 

 そう呟きながら私は鞘から刀を抜き、大きく横に薙ぐ。


 「……これで終わり」


 そう呟いてから、ゆっくり目を開けると目の前には他のとは大きさの違うウーズが真っ二つになって落ちていた。

 そのすぐ横には限界を迎えた刀の刀身が突き刺さっていた。

 

 「さくらざかさぁぁぁぁぁぁぁん!!!」


 叫ぶ声に反応して振り向くと桐生さんが私に抱きつくと、その瞬間、全身に激痛が走り出していた。

 自分の体を見てみたらウーズの酸にやられたのか、ジャケットやズボンは穴だらけになっており、そこからは血が流れはじめていた。


 桐生さんの後ろの壁を見ると、心臓である核を失ったことでくっついていたウーズたちはドロドロと床へと落ち始めていた。

 しばらく眺めていたが、先ほどのように元通りになることはなさそうだ。


 ——うおおおおおおおお!!!すげぇぇぇぇぇ!!!

 ——モンスターが突っ込んできてるのに動かなくなった時は泣きそうになったぜ!

 ——女剣客△!!!!!

 ——おい、みてみろ、シオちゃんが女剣客さんに抱きついてる、てぇてぇな!

 ——これはもしかしてキマシタワー……!?


 映像には私を称賛するコメントが流れ始めていた。


 『オルハちゃん……』


 インカムからアイリスの声が聞こえてきた。


 「……アイリスの言う通り、核を斬ったら動かなくなったよ」

 『そっかぁ……おつかれオルハちゃぁぁぁぁん!!』


 珍しくアイリスの声にグズグズといった音が混じっていた。

 

 「……ありがと」

 『そうだ、腕が動くならリスナーさんのコメントに応えてあげたら? ずっと応援してくれてたんだし』

 「……何をすればいいの?」

 『そうだねぇ、抱きついているシオちゃんの頭を撫でてあげるとか?』

 「……そんなんでいいの?」


 理由はよくわからないが、言われた通り桐生さんの頭を撫でる。


 「うぅ〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」


 なぜか桐生さんは私の胸に顔を埋めたまま唸り声を上げていた。


 ——あーあ、つまんねーの

 ——せっかくデモンウーズ送ってやったのになぁ

 ——こんな終わり方望んでねーよ

 ——コイツはもうおわりだな

 ——チャンネル登録解除したわ

 ——それじゃあの

 

 オルハとシオンが華やかな世界を作っている中、映像には無慈悲なコメントが流れ始めていた。

 このコメントが松下の目にする最後のコメントになろうとは思いもしらずに……


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