第8話 女剣客、謎の巨大モンスターと対峙する
「うぎゃぎゃぎゃぎゃあああああ!」
ダンジョンの奥へと進んでいった先で聞き覚えのある声の方へと目を向けると、1匹のゴブリンがウーズに全身を飲み込まれ、ドロドロに体を溶かされていた。
思わず目を背けているうちに、ゴブリンの体は跡形もなく消えていた。
『大丈夫オルハちゃん、変な声が聞こえたけど!?』
「……モンスターが人間を襲うのは分かってるけど、モンスターがモンスターを襲うことなんてあるの?」
『どういうこと……?』
「……ゴブリンがさっきのウーズに体を溶かされてるのを見ちゃった」
『ウーズは目の前にあるもの全てを飲み込もうとするからね……』
物体が私の存在に気づくと、すぐにこちらに向かってきた。
「……龍桜神妙流『龍巻』!」
刀から発生した風の渦でウーズ斬り刻んで一掃してから先に進んでいった。
そうこうしている間にボス部屋へと到着する。
『相変わらず威圧感がある扉だよね』
ここに来るのは二度目。
一度みているにも関わらず、鬼や悪魔など誰もが恐怖に慄く対象が描かれたこの扉からは威圧感しか感じられなかった。
「……そうね、ちなみに奥に反応はある?」
『何か、この奥だけいろんな電波が走りまくっているみたいで、うまく感知できないけど1つだけあることは確かだね』
その1つの反応というのは桐生さんのことだろう。
「……わかった、それじゃいくよ」
『うん、気をつけてね』
静かにそう答えると、刀を構えながら肩で扉を押していくと扉の奥には見覚えのある姿があった。
「……桐生さん」
部屋の奥には横たわっている桐生さんの姿があった。
すぐに彼女の元へと向かうと、腕を縛っていたビニールの紐を刀で切り、体を揺する。
「う、うーん……」
若干苦しそうな声を出しながら、桐生さんはゆっくりと目を開けていく。
「あ、あれ……桜坂さん?! ってここどこ?!」
目が完全に開くとすぐにキョロキョロと周りを見渡していた。
目が覚めてこんな薄暗いダンジョンにいたらこうなってしまうのは仕方ない。
「……よかった」
彼女の慌てる素振りを見ながらも無事であることに安堵する。
「ようこそいらっしゃいました!!!!」
桐生さんの手を取って早々にこの場から去ろうとしていると耳に触る声が響き渡ると、部屋の片隅に男の顔が映し出されていた。
黒に近い紫のスーツに赤色のシャツを身に纏った姿は無頓着な私でも目を疑ってしまうような男だった。
「松下……!」
桐生さんは険しい顔で姿なき声に向けて叫んでいた。
『うっわ、センスなさすぎ!?映像に映す価値なさすぎでしょ』
「……映像?」
『うん、さっきから男の映像がゆらゆら揺れてるしね、たぶん電波が悪すぎてうまく受信できてないんじゃないかな』
言われてみれば、壊れかけたテレビのように映像にはいくつもの黒い線が入っていた。
「感動の再会の後にはもちろん! みなさんお待ちかねのショータイムです!」
——まってました!!!
——今日はどんなドラマがまっているんだ!
——さあ、みせてもらおうか、儚い人間の最後を!
映像の中の松下が両手をあげると映像には次々とコメントが流れ始めていた。
——何かツブヤキッターで飛んできたから来たけど、何だこのライブ配信は?
——おい、あそこに映ってるの女剣客とシオちゃんじゃないか!?
——ってことはシオちゃんねるとコラボってことか? けど宣伝とかしてたっけ?
最初に流れていたのは松下と呼ばれる配信者のリスナーだろうか。
これから行われる何かを楽しみにしているようだ。
その後に流れてきたコメントは桐生さんのリスナーのようだ。
「当ちゃんねるはメン限で配信をさせていただいておりますが、今日は話題の人物にお越しいただいております。全ての方が見ることが可能となっておりますので、初見の方もご覧いただければと、そして面白ければ——」
松下は意気揚々と自分のチャンネルの登録を懇願していく。
——よくわからないけど、女剣客のバトルがみれるってこと?
——そうみたいだな、よくしらねーチャンネルだけど暇だし見てみるか
——女剣客さん、がんがれー!
『お越しいただいたって、こっちは好きできているわけじゃないのに、虫のいい話をしているわね』
インカム越しにアイリスの憤りの声が聞こえてきた。
それに関しては同意だと伝える。
「それではそろそろショーの開始です! イッツショータイム!!!」
松下が叫び声が再びフロア内に響き渡ると入り口付近に不思議な魔法陣が浮かび上がった。
——キタキタキタ!
——ヒャッハー!俺の興奮度は絶頂を迎えそうだぜ!
——さぁさぁさぁさぁ!楽しませておくれよ!
映像にはものすごい勢いでコメントが流れ出していた。
内容から察するに松下のリスナーだろう。
『召喚魔法陣!?』
その様子がインカムを通じて確認できたのか、アイリスは驚きの声をあげる。
「……なにそれ?」
『大雑把にいうとモンスターを呼び出す魔法の一種だよ、でも人間にできるだけだけの魔力は備わっていないはず!』
浮かび上がった魔法陣にはウーズが次々と現れ、積み上がるように重なり合っていき、気がつけば私の身長を優に超えるほどになっていた。
体の中にある1つ目が私たちを見ている。
『デモンウーズ……!?』
アイリスは若干声を震わせながら、モンスターの名を告げる。
「……名前からしてウーズよりも強そうな感じだね」
『強いどころじゃないよ、何千というウーズが重なり合ってできてるからものすごく強いよ! いくら何でもオルハちゃんでも……!』
アイリスと話しながらも視線を後ろに向けると桐生さんが体を震わせてながらデモンウーズを見上げていた。
もし自分がやられたらもちろん桐生さんも……
せっかく同じ目標を持った仲間ができたのに、こんなところでやられている場合ではない。
「……桐生さん」
「は、はい!」
桐生さんは体をビクッとさせながら私の顔を見ていた。
「……私があのモンスターを惹きつけているうちに扉から逃げて」
「で、でも桜坂さんは!」
「……私は大丈夫」
「で、でも……!」
「……安心して、まだ目標を成し遂げる前にやられるつもりはないから」
安心させるために力強く答えるが桐生さんは何度も首を横に振っていた。
「さあ! デモンウーズよ!リスナーたちを楽しませるのだ!!」
私たちの会話を遮るように松下はモンスターに向けて命令をだす。モンスターはズシンとフロアを揺らしながらゆっくりと私たちの方へと歩き出した。
——さあ!その女がドロドロに溶けるところをみせてくれ!
——やっべえ興奮してきたぁぁぁぁぁ!
松下のリスナー達は興奮に満ちたコメントを次々と流し始めた。
——モンスター応援している奴らはイカれてんのか
——やっちゃえ女剣客!
——女剣客ならこんなモンスター、真っ二つだぜ
それに対して、桐生さんのリスナーはこちらを応援するコメントを流していく。
デモンウーズは私たちの前に立つと、ゆっくりと手をこちらに伸ばしてきた。
軌道からして狙いは私のようだ。
「……そこっ」
私は構えると同時に伸ばしてきた手に向けて鞘から刀身を引き抜くと
伸ばしてきた腕が大きな音を立ててそのまま落下していき、ドロドロの液体となって消えていった。
——うおおおおおお!真っ二つだすげぇぇぇぇぇ!
——巨大スライムくん、腕を切られて唖然とする
——そのままバラバラにしちまえ!
だが、すぐにニョキニョキと耳を塞ぎたくなるような不快な音を立てながら切られた箇所から手が生え始め、あっというまに斬ったことがなかったかのように元通りになってしまった。
——もう生えやがった!?
——なんだあのチート能力は!?
——一瞬ヒヤッとしたじゃねーかびっくりさせんなよ
——斬った方の女の絶望に満ちた顔、たまんねー、興奮してきたぜ
——おいおい興奮するのははえーよ、2人の女がドロドロになる瞬間まで我慢しろよ
映像では松下のリスナーと桐生さんのリスナーで言い争いが行われていた。
「桜坂さん……!」
後ろで心配する桐生さんの声が聞こえてきた。
「……大丈夫」
一言だけそう告げると、再び刀を構えて目の前に立つデモンウーズへと視線を向ける。
アイリスからもう少し気の利いた言葉をかけろと言われそうだが、今の私にはそんな余裕はなかった。
……私はこんなところで負けれられないから。
私が刀を構えると、デモンウーズは両手を上げながらゆっくりとこちらへ向かって歩いてきた。
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