第7話 女剣客、ギルド申請に行く
「さすがに早すぎたかな……」
私と桜坂さんのギルドの申請のため、土曜にも関わらずいつも通りの時間に起き、身支度を終えるとすぐに待ち合わせ場所である町田市役所にやってきた。
待ち合わせ時間は10時だから、張り切りすぎたのか自分でもびっくりするぐらい早く来てしまっていた。
「9時か……」
腕時計の針はきっちりと直角の形が出来上がっていた。
私が住んでいるのはここから2駅でも路線が違うので時間に余裕を持って動いていたのはいいが、こういう時に限って乗り継ぎのタイミングがよく、あっさりと着いてしまったのである。
遅刻しそうな時はタイミングが合わないのに……
「しょうがない、駅まで戻って時間でも潰してよう……」
ため息をこぼしつつ、駅の方面へ体を向けると、大きな影が私の体を覆うように現れた。
「桜坂さん……?」
そう思って顔を見上げると——
「残念だったなァ!」
不快な声が耳に入ると同時に私の意識は遠のいていった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「……あぶないギリギリ間に合った」
息を整えながらスマホで時間を見ると9:57分と表示されていた。
本来であれば20分ほど前に着く予定だったが、途中で交通事故があり混雑していた。
バイクを専用駐輪場に駐めてから走って駅から離れた市役所に向かって走ったのはいいが、肝心の桐生さんの姿はなかった。
既に中にいるのかもしれないと思い、建物の中に向かう途中で見覚えのある姿に目がつく。
「お、来ましたねぇ! 女剣客さんよぉ!」
ある種独特とも言える声が耳に入り、その場に立ち止まってしまう。
昨日と寸分違わず、きっちりと分けられた髪型。
小学生と間違えられるのではないかと思える小さな体躯はどうみても昨日の小柄男だった。
小柄男はヘラヘラとした余裕の表情だったが私の顔を見るなり怯えの顔へと切り替わった。
昨日のように睨んでもいないのに何故だろうか。
「ひっ……い、いいのか! ワイに何かしたらシオンちゃんは、た、タダじゃ済まないぞ!」
「……どういうこと?」
私が詰め寄っていくと小柄男は恐怖に怯えた声をあげながらガタガタと体を震わせていた。
「お、おまえを誘き寄せるために、し、シオンちゃんをつ、つれさったんだ! ひぃ!お願いですから睨まないで!」
気がつけば小柄男の顔は真っ青になっていた。
「……桐生さんはどこにいるの?」
「い、いいから、黙ってワイにつ、ついてきやがれください! 先輩ィこの女こえっすよー!」
そう言って逃げるように私の横を通り過ぎていった。
「……最悪」
ため息をつきながら小柄男の後をついていった。
「あ、あの……」
「……なに?」
「そ、その刀をこちらにむけないでくださいやがれ!」
申請が終わってからダンジョンに行こうと思っていたので、当然のことながら刀は持ってきている。
私が持って歩いているせいか、前を歩く小柄男は後ろから切られるのではないかとヒヤヒヤしているようだ。
「……いいから早く案内して」
「い、いいのかそんなこと言って、ワイが連絡すればシオンちゃんは……お、おねがいですから構えないで怖いっす!」
強気と弱気がコロコロと変わっていく目の前の男。
そういえばアイリスが好きな漫画に1つの体に何種類の人格が入っているキャラがいたが、この男もそうではないかと思えてくる。
「つ、着いたぜ、こ、ここだ!」
辿り着いたのは町田ダンジョンだった。
「い、いいか! このダンジョンの奥にシオンちゃんがい、いる! もちろん通報などしたら命はな、ないとおもえ……!」
震えながらも言いたいことを言い出す小柄男。
「……桐生さん、無事なのね」
「い、いまはな! け、けど、は、はやくいかないと、い、いのちの保証は……! だからこっちを睨まないでくださいー!」
全く睨んでいないのだが、小柄男は恐怖の限界を迎えているのか、私が何をやっても恐ろしく見ているようだ。
そして、そのままダンジョンの入り口の中に入っていく。
「……ちなみにだけど」
これだけは言っておこうと思い、その場で立ち止まって小柄男の方へと振り返る。
「……桐生さんの身に何かあったら、タダじゃおかないから」
それだけ伝えるとダンジョンの中へと入っていった。
後ろでバタンと何かが倒れるような音がしたが、気のせいだろう。
ダンジョンの中に入ると、今まで感じたことのない感覚に陥る。
初心者向けのダンジョンとは思えないぐらいの重苦しい雰囲気だ。
『ってあれ!? 何で町田ダンジョンの中にいるの!? 市役所に行ったんじゃないの?』
進んでいくとジャケットの内側からアイリスの声が聞こえてきた。
どうやらインカムからのようだ。そういえば内ポケットにしまっていたのを忘れていた。
取り出してからインカムをつけると、彼女の声と一緒にジジっという音が混ざって聞こえづらくなっていた。
こういう時はたしかノイズが走るとか言っていたような気がした。
『それになんかスマホの電波が入りにくくなっていない?』
スマホを取り出して画面を見ると、電波の部分が圏外と表示されていた。
「……でも、アイリスの声は一応聞こえるよ」
『このインカムにはスマホでは感知できない電波を一時的に拾って使ってるからね、それでもノイズが入るし、映像も乱れまくって見づらいけどね。全く見れないよりマシだけど』
アイリスが説明するが、その内容なほぼ全部と言っていいほどわからなかった。
聞き直したいところだが、今は桐生さんを助けることが先決だ。
『で、何で町田ダンジョンにいるの?』
ダンジョンの先へと進みながらアイリスに事の経緯について説明していった。
『それにしても面倒臭い奴らに目をつけられたね、シオちゃん助けたら腕や足のへし折ってもいいんじゃない?』
「……そんなひどいことはしない」
答えるとアイリスはふふっと笑っていたが、私のことをどんな人間だと思っているんだ……。
不服に思いながらも先へと進んでいく。
『オルハちゃん、先に反応あるよ!』
「……わかった」
刀を構えながら先に進んでいくと大きなフロアに出る。
「ちょ、なんだよこのモンスター!? みたことねーし、何だこの数は!」
「みんな、攻撃止めるな!」
「うおおおおお!」
「倒してもキリがねーぞこれ!」
そこにはゼリーのようなモンスターに囲まれている4人組の探索者たちがいた。
『何か声が聞こえるけど、どんな状況? 映像がぐちゃぐちゃ……ちょっと待って何でこいつらがいるの!?』
「……こいつらってモンスターのこと? スライムみたいに見えるけど」
『スライムには間違い無いけど、これはウーズっていう分裂や消化能力に特化したスライムだよ、でも何でこいつらが……!?』
ノイズ混じりでもアイリスが驚いているのはわかった。
何度もこのダンジョンにはきているが、このモンスターを見かけるのは初めてだ。
たまに可愛らしい姿のスライムを見かけることはある。どんな外見であろうがこちらの姿を見かけると襲いかかってくるのだが。
「……スライムと同じ要領で倒せる?」
『うん、基本的な体の作りはスライムと一緒だから人間でいう心臓の『核』を破壊すれば倒せるよ』
「……わかった」
探索者たちも応対しているものの、数が減るどころか増え続けており、今にも彼らが埋もれてしまいそうになっていた。
走りながら刀を構え、鞘から刀身を外す。
「……龍桜神妙流『龍巻』!」
体を勢いよく捻らせながら刀を抜き、風の渦を起こすと周辺にいる跳ねる物体を次々と巻き上げていく。
「……これで終わり」
刀を鞘に収める音がすると同時に渦に巻き上げられていた物体が次々と風の刃に刻まれて粉々になり、霧のようになって消えてしまった。
「おぉ! あんなにいたスライムがいなくなっていく……!」
「あ、あれ!? この人ってシオちゃんを助けた女剣客じゃ……!」
探索者の1人が私の存在に気づくと、残りの3人も一緒に私に近づいてくると私を囲い始め一斉に「ありがとうございました!」と4人一斉にお辞儀をしていた。
『何かガヤガヤと声が聞こえるけど、何か起きてるの……?』
「……私が囲まれてる」
『どう言うこと!?』
インカムごしにアイリスが大声で疑問をぶつけてきているが、むしろ私の方が聞きたい。
「助かりました、あのままだったら、俺たちスライムに飲み込まれてたかもしれなかったですね」
「にしても何だったんだ、このダンジョンであんなモンスターみたことないぞ」
「何か嫌な予感がするな」
これ以上ここにいるとずっと話しかけられそうな気がしたので、早々に切り上げて奥へと進んでいった。
「……桐生さん無事でいて!」
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